第4話『復活のナイスガァイ! 光輝く鋼のボディ』(後編)


 コックピットの中で、ハチはジュラルバルターを睨みつけている。照準は合わせていない。それだけで戦闘行動とみなされ、アルカに何をされるか分からないからだ。全身にビームが突き刺さり、また一つアラートのランプが彼の頬を赤く染める。



(まだ、あと少し…… 耐えられる)



 ハチは待っていた。バッドガイの油断を。もうこちらが諦めたと思いこむタイミングを。ブラスバルターの火砲を撃ち込めれば、まず間違いなくジュラルバルターを倒す事は出来る。


 だがコックピットにいるアルカを無事に助け出すには、まだ何かが必要だ。


 賭けに出るのは、ギリギリまで避ける。ナイスである事と無謀である事はハチの中では同じではないのだから。だがそれでも、降り注ぐビームの雨は少し、また少しとブラスバルターの装甲と共にハチの心も削っていく。



『クックック、もはや時間の問題か』



 そう、バッドガイはハチが諦めていない事を理解していた。その上で悪手を選んでいる事も。このパターンで最適解があるとするならばハチはバッドガイが何かを喋る前に攻撃するべきであったのだ。


 だが、その最大のチャンスを、ナイスガイなら選ぶであろう選択肢。それをハチは選べずに、圧倒的な戦力の元でゆっくりとすり潰されていく。



『う、うぅん…… あれ? ここは――』


『おっと、お目覚めのようだな』



 膝の上で少女が目覚めた。バッドガイの顔が愉悦で歪む、絶望的な状況を認識した瞬間の表情こそ、彼にとって世界で一番美しいものなのだから。



『ハチ! どうして!? ここは――!?』


『チッ、騒がしいな…… 今から君の友人を抹殺するところだ。特等席で見られることを幸運に思うんだな』



 だが、この少女は驚きこそしたが、絶望に染まらない。イライラしながらバッドガイは全周囲モニタを操作し、コックピット内で攻撃に耐えるハチの表情を正面に映し出す。


「うぅ……」


『ハチ! ハチ返事してっ!』


「あ、アルカ――! 良かった……目を覚ましたんだね」


『こんな時に何言ってんの!? ハチは無事じゃないじゃない!』



 笑みと共にピントが外れた返事を返すハチを、アルカは本気で怒鳴りつける。此方が本気で心配しているというのに、まるでいつも通りの笑みを返して来るのだから堪らない。



「大丈夫、僕はまだ全然平気だから――」


『私は全然良くないっ!』



 そう、良くないのだ。今この時に誰かが戦わなければならないのは明白だ。けれどその役目を果たすのはハチでなくても良い筈なのだ。本当は優しくて暴力を振るった事のない、そんなハチがわざわざ戦う必要は無い筈なのだから。



『少しは私の気持ちも考えてよ…… ハチ! お願いだから無茶しないで!』



 アルカが望むのはただそれだけ。ハチに危ない目に合って欲しくない。今まさに自分が最悪の悪漢に囚われている事も忘れ、ただそれだけを訴える。



『さて、スイートなトークはここまだ。バッドエンドを見せてやろう』



 だが、その真摯な思いがバッドガイの逆鱗に触れた。彼はこんな展開を望んでいない。アルカが泣き叫び、ハチが絶望する。そんな未来を望んでいたのだ。だからこそ彼はよりバッドな結末の為、配下のNPCノンパーソナルコマンダーに殲滅命令を告げようとした、が!



『このっ! させる訳ないでしょ!』



 だが、その指令を出す前にアルカが暴れ出す。手足を縛られながら頭を振り乱し、恥も外聞もなく、ただバッドガイの行動を妨害する為に体を捩る。



『ぬぅ!? や、止めろ! 何をする!?』


『バッカじゃないの!? 止めるわけないじゃないっ! だって私の大切な―― ハチを助ける為なんだからっ!』


『そ…… そういうバッドな話は止めろっ!!』



 そしてそれは、チャンスだった。ハチが待ち望んでいたバッドガイの隙であった!



「う、おぉぉぉぉっ!」



 ハチの視線が全周囲モニターを走る、走る、走る! 街中に散らばる無数のアルミバルターとアイゼバルターに全身の砲門が向けられた。



「マルチロック・バースト!」



 ハチの超絶技巧によって連動制御された火砲120mm滑腔砲が、火砲400mm超々ド級砲が、火砲800mm超々々ド級砲が! 火を噴く、鉄を吐く! 街中に散らばった無数のアルミバルターを打ち砕き、多数のアイゼバルターを穿ち貫く!


 そして残ったのはジュラルバルターただ一機。けれど火砲は使えない、アルカを傷つけてしまう可能性があるから。必殺のメガアームインパクトも、超絶のギガフットクラッシャーも使えない。間違いなく全てを吹き飛ばしてしまうから。


 だからハチは胸の中に高まる力に全てを託した――



「うっ……なんだこの光は!?」



 クールガイは見た、ブラスバルターから溢れだす白く力強い光の力を。



「おぉ、この光をまた見られるとは。これぞ美の極みナイスソウルの奇跡よ!」



 ゴージャスガイは感じた。ハチから発せられる莫大なガイパワーの本流を。



【そいつをぶちかませ! 信じろっ! ナイスソウルの輝きを!!】



 そしてハチの胸の中で、ナイスな声が響き渡った。



「う―― うわあああぁあぁぁぁぁぁあ!!」



 ブラスバルターから溢れだした光が収束し、温かみを持ったオレンジ色の力に収束していく。それは圧倒的な力でありながら優しさを持ち合わせた、正にナイスパワーと呼ぶべき本流となり、ジュラルバルターにビームとなって降り注ぐ!



『う――うおぉおぉぉおぉお!?』



 バッドガイは絶叫した。余りにも、余りにもナイスな力の本流に心の底から恐怖したのだ。自分という存在が全て吹き飛ばされてしまう実感に、魂が震える――



『……む? は、ははは、ただのこけおどしか!』



 だが、それが過ぎ去った後、彼の体は全く傷ついていなかった。蒸発もしていないし何かを失った感覚もない。そうあの爆発的なエネルギーはただナイスなだけで、何かを破壊する力など一かけらも混じっていなかったのである。



『だが、この俺を恐怖させた罪は重いぞ!すぐにこのガキを――』



 そこでようやく、バッドガイは異変に気が付いた。そう先程まで膝にいたはずの少女の姿がどこにも見えない。彼女が居なければ、圧倒的な力を持ったブラスバルター相手に勝利する事は難しいというのに!



『なぜだ! どこへ行った!?』


「ここだ! バッドガイ!!」



 バッドガイの背後に立つビルからナイスな、途轍もなくナイスな、どこまでもナイスな快男児の声が街に響き渡った。



「え、なんで!?」



 その腕に抱かれたアルカが目を丸くする。



「おぉ……!」



 ゴージャスガイが歓喜の声を上げる。



「そ……そんなまさか……!?」



 クールガイは涙を流した。



「馬鹿な!? なぜ貴様が――!」



 バッドガイは状況を認識する事が出来ない!



「も、もしかして、本物の――」



 ハチは涙をこらえて、その影に問いかける!



「どうしたボーイ? まさか、こんなナイスな声を忘れちまったのか?」



 雲が風で流され、月の光がアルカを抱えた長身の男を照らす。破れたジーンズ、シンプルなシャツとジャケットで包まれたマッチョな上半身。そして何より顔を飾る十文字の傷。つまり彼は――



「ナイスガイ!?」「ナイスガイ……」「ナイスガイなのか!?」

『ナイスガイだと!?』「ナイスガイだ!!」



 アルカ、ゴージャスガイ、クールガイ、バッドガイ、そしてハチがその名を呼ぶ!



『な、何故だ! 貴様は死んだはずだ!?』


「あぁ、確かに死んだっ!」



 アルカを抱えたまま、ナイスガイは全力でバッドガイの言葉を肯定した。



「じゃあ、どうやって――」


「ヘイ、ガール。いいか?」


「なによ?」



 アルカの胡散臭そうな視線に、ナイスガイは最高の笑みで答を返す。



「細かいたぁ良いんだ! 感じろっ!!」


「はいっ! ナイスガイ!!」


「どういう理屈なのよ!?」


「ナイスソウルの奇跡だ。久しぶりだな、友よ……」



 ハチは納得し、アルカは叫び、ゴージャスガイは死んだ親友との再会に満面の笑みを向ける。そう彼の死を受け入れてはいたが、こうして蘇ってくれた事に対し、それはそれとして喜べるゴージャスさを彼は持っているのだ。



「ゴージャスガイか、一段と髭がゴージャスになったじゃねぇかっ!」


「そんなことはどうでも良いからっ! 一体どういうことなのよ!?」



 確かにアルカから見れば、よく知らないゴージャスっぽいオッサンの髭よりもナイスガイが蘇った理屈の方が気になってしまう。たとえそれが理解出来なかったとしても何らかのロジックがある方が人は安心する事が出来るのだから。


 

「この奇跡の原因は素質のあるボーイが、真のナイスガイに目覚めた時に起こるエネルギーの爆発。そしてその力はナイスソウルの塊……」


「なるほど、ナイスソウルが凝縮されナイスガイとして形成された――と」


「なんか分かった様な、分からない様な……」



 一応説明はされたが、それが腑に落ちるかはまた別である。



「アルカ、考えるんじゃなくて」


「『感じろ』でしょ? ……もう、それでいいわよ」



 だが、嬉しそうなハチの声を聴いていると。そんな事もどうでも良くなる。いきなり現れて、嵐の様に全てをなぎ倒して、死んで去った男なのだ。それが蘇っても不思議ではない、そんな気分にはなれたのだから。



「くっ……! ご、ゴージャスガイにクールガイ! だがナイスガイは敵だぞ! 今すぐ殺せ! 殺すべきだ! ファイナルガイ様に立てついた男なのだぞ!」



 ジュラルバルターからバッドガイが叫ぶ。それは理屈だ、神漢帝国を裏切ったナイスガイはクールガイにとっても、ゴージャスガイにとっても倒すべき敵である事は間違いないのだから――



「私達はファイナルガイ様の部下だ。貴様の命令は聞かん!」


「私は一度任務を果たしているからな。再び同じ命令を受けるまで手を出さん!」



 だが、そのバッドガイの正論を二人は正面から切って捨てる! 最早そこには真っ当な理屈などない。ただナイスガイへの友情と、ハチが産み出した奇跡への称賛だけが存在していた。



『おのれ……裏切り者め!』



 状況は最悪だ、復活したナイスガイ相手に自分一人で勝てると思い上がる程。バッドガイは自分の力を過信していない。そもそも彼が成り上がったのは彼らと違い頭脳プレイで生きて来たからであり、だからこそ正面から戦わずに逃げる選択肢を探す。



『ガッハハハ! 面白いものを見せてもらったッ! 吾輩も血が滾ってきたぞッ!』



 夜空の果てから、再び超巨人が舞い降りる! マントを翻し、200mの巨大剣を構えた灰の装甲と、青い手足を持つ闘士ダマカスバルターが、ブラスバルターの正面に着陸した。


 衝撃でアスファルトが抉れ、周囲のビルにはめ込まれたガラスが砕け、道路の両脇に流れる電線が引き千切れるた。ただし住民の避難は完了しているのか逃げ惑う人の姿は見当たらない。



『来たかソードガイ! 二人で小僧を倒すぞっ!』


『何を勘違いしているバッドガイ! 吾輩は一対一で闘うために来たのだッ!』



 バッドガイの共闘を、ソードガイは瞬時に跳ねのける。彼は獅子であり、バッドでバッドでバッティストなバッドガイの力を借りる真似はしない。そもそもバッドな彼の力を借りて後ろから撃たれてはたまらない。



『なん……だと?』


『逃げるというのならば構わんぞ!? 後ろから指さし笑ってやるがな!』


『くっ! 貴様たちの美学に付き合っていられるか!』



 すっと30mを超えるジュラルバルターの巨体が闇に溶ける。ステルス機能を使って逃亡したのだろう。たとえ笑われようと逃げる時は逃げるという発想はある意味バッドだ、しかしその判断が彼をここまで生き残らせている側面も存在しているのだが。



「さて…… ガール! 俺達も行くぞっ!」


「い、行くってどこによ?」


「もちろんボーイ―― いやっ! ニューナイスガイの所にだっ!」



 アルカを抱えたまま、ナイスガイはしゃがみ込む。ブラスバルターの方に体を向け下半身に莫大なエネルギーを収束させていく―― アルカの耳にギリギリと筋肉が引き絞られる音が届いた。



「ハチのこと? でもどうやって!?」


「跳ぶ! しっかり掴まっておけっ!」



 そう言い切り、ナイスガイは彼女の手足を拘束していた紐を片手で引きちぎった。プラスチック製の頑丈な拘束具を事もなげに。なおかつアルカの柔肌に傷をつけぬようナイスな手捌きをアルカは理解する事が出来なかった。


 そんなことよりも、間違いなく本気でナイスガイがビルの屋上から飛び降りようとしているのだ。超巨人の腰程の高さとはいえここから落ちればタダではすまない。



「へっ、ちょっ、本当に!?」


「ナイスガイに不可能はないっ!」


「そりゃ生き返るのに比べたら何でもそうなるけどぉぉぉっ!?」



 夜の街にナイスガイが舞った。ブラスバルターに向けてビルの屋上を、跳んで、跳んで、跳んで、跳ねていく。並の人間ではあり得ない、だが彼ならば成し得る事が出来る大跳躍でナイスガイと、小脇に抱かれたアルカはブラスバルターに辿り着く。


 ハチが差し出した手のひらに飛び乗り、そのままリフトアップされて頭部のコックピットにナイスガイと、そしてアルカはやって来た。



「アルカ! ナイスガイ!」


「もう、アンタたち滅茶苦茶よ……」



 操縦席でハチは満面の笑みで二人を迎える。アルカの声は疲れてはいるが、それはそれとして、彼女の顔はハチと無事に再会できた事実から花の様に綻んだ。



「よぉニューナイスガイ! いや紛らわしいからハチ! また一緒に戦うぞっ!」


「はいっ! ナイスガイ!」



 ハチの目の前に広がる座席にナイスガイが滑り込む。大きな背中が左右の操縦桿を握りしめ。ブラスバルターにナイスガイのガイパワーが流れ込み、出力ゲージが120%を突破した!



「行くぞ、ニューナイスガイハチ! 俺達の力を叩きつけてやるぜ!」


「はい! 各砲塔のリンク確認! 物理装甲の再生95%まで完了! アンチイナーシャル装甲の出力安定! メインジェネレーター最大効率突破! いけますナイスガイ!」


「まって! 最大効率って突破していいの!?」



 ハチの横に座ったアルカのツッコミを全く気にせず、ブラスバルターは両拳を打ち合わせた! そこから放たれた轟音をゴングに、2体の超巨人が向かい合い、そして同時に正面に向けて加速していく!





「それで、勝てますか? ナイスガイ」


「正面からぶつかれば五分五分だな。メガアームインパクト一発じゃ分が悪い」


「それじゃ――」


「おう、メガアームインパクトは任せた!」



 加速していくブラスバルターの操縦席でハチとナイスガイが言葉を交わす。共に戦うのはこれで3度目だが、二人の中に高まったナイスパワーが阿吽の呼吸を生み出していた!



「もう! 完全に殴る蹴るだけでどうにかするつもりなの!?」


「そりゃ射撃の余裕はないし――」


「じゃあ私に任せなさい。視線誘導式よね? ハチがパンチしやすいよう援護すればいいんでしょ?」



 だがハチとナイスガイのコンビネーションだけでは完全勝利に届かない。そこでアルカが自分からFCSのコントロールを買って出る!


 ブラスバルターはガイパワーによって起動するが、女性の操作を受け付けないことはなく。そしてアルカ自身もハチと一緒に遊べるレベルのシューターなのだ。



「ありがとう、アルカ。援護お願い!」


「やってあげる、感謝しなさいよ!」



 アルカの瞳が全周囲モニターを走り。ダマカスバルターの関節に照準を合わせる。火砲120mm滑腔砲が、火砲400mm超々ド級砲が、火砲800mm超々々ド級砲が! アルカの視線に従い砲門を蠢かす!



「ターゲットロック確認! ファイア! そしてメガアームインパクト!」



 ハチが砲手としてトリガーを押し込み。更に操縦桿を後ろに引き絞り1万トンを超えるブラスバルターの拳を、ダマカスバルターの巨大剣に叩きつける! アルカの照準で関節を撃ち抜かれ、初動を止められたソードガイには為す術がない。



『成程! メガアームインパクトで巨大剣を防ぎ、火砲で攻撃という事か! 悪くはないがその程度で吾輩を止められると思ったかぁ!』



 ダマカスバルターの巨大剣と、ブラスバルターの右手がぶつかった。通常ならばブラスバルターの拳が吹き飛ぶところであったが、爆発的なエネルギーの奔流が辛うじて拮抗状態を生み出している。



「違うぜ、ソードガイ! 本命は、足のほうだぁ!」



 巨大剣を受け止めた状態でブラスバルターは片足を折り曲げ、持ち上げる! ギガフットクラッシャーとは自由落下による単純なエネルギー攻撃ではない。足裏に仕込まれた炸裂式破砕粉砕兵器による攻撃こそが本質なのだ!



『メガアームインパクトも囮だとぉ!?』


「吹っ飛べソードガイ! ギガぁ! フットぉ! クラッシャァア!」



 10万トンを超える質量と共に叩き込まれた前蹴りヤクザキックと共に、空間が歪み、炸裂し、爆ぜて、砕ける! 足裏に仕込まれた炸裂式破砕粉砕兵器は単純な物理攻撃だけでなく、空間まで歪ませる超攻撃なのだ!


 もし巨大剣が止められていなければ、間接に砲撃が撃ち込まれていなければ。あるいはこの一撃を避けられていたかも知れない。けれどナイスガイが、アルカが、そしてハチが積み上げた連続攻撃は、見事ダマカスバルターの胴体を捉えて貫く!



『 今生で一番愉しい闘いであったッ! 礼を言うッ!! ガッハハハハハハハ!!』


「そうか、それじゃまた"向こうで"な」


『吾輩は待っているぞ、ナイスガイ!』



 ダマカスバルターが爆発する前に、ナイスガイはブラスバルターを操作し天高くその巨体を蹴り上げる。ソードガイも抵抗せずに、なされるがままに宙を舞い――


 そして夜空に大輪の華が咲いて、彼らの勝利を彩った。





 ゴージャスガイが作り上げたゴージャスな空間。その更に奥にはまた別な空間が広がっている。どこにもつながっていないそこで終わりのファイナルな空間だ。


 ゴージャスな空間とは違い煌びやかではなかった。纏まっていて豪華ではあるが、一寸の遊びもなく完璧かつ永遠に変化しない。正にファイナル、実にファイナル、とてもファイナルな空間である。



「使えぬ連中だ。神漢四天王と言えど、所詮はただの人間……」



 その中心にある漆黒の玉座に何者かが座っていた。鋼鉄の仮面を被った完璧な男。練り上げられた鉄、あるいは一万年の年月で磨かれた巨岩、もしくはファイナルなガイそのもの。そう表現するしかない偉丈夫である。



「やはり、我がファイナルパワーに比べれば。赤子同然――」



 すくりと、仮面の偉丈夫は立ち上がる。その身長は2mを超え、ありとあらゆるものに終局を与える。ファイナリズムに溢れていた。



「このファイナルガイ自ら出向くしかないようだな!」



 そう、ついにファイナルガイが動き出す。四天王を従える究極の皇帝、神漢帝国の頂点であり全てであり、完璧な終局そのものである。


 彼は間違いなく本気で願えば、地球は自転を止め、あらゆる命が制止すると確信している。それ程の傲慢さと自信を両立しており、そしてそれだけの力を持っているのだから。

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