重轟機譚ブラスバルター

ハムカツ

第1話『ボーイ ミーツ ナイスガァイ!』



その日、僕は――





「ねー、ねー、今日折角のデートなんだよ? 誕生日デート!」


「うん、分かってる。分かってるからちゃんとお洒落してるよね?」



 街の大通りを、騒がしい長髪のイケメンの美少女と、ボーイッシュな装いの少女、いや少年が連れ立って進む。


 休日の騒がしい街中でも、華のある少女としおらしく儚げな少年のカップルは。仕事の忙しいサラリーマンを微笑ませ、彼氏と待ち合わせをしている女性を和ませ、肩を揺らして歩く不良から毒気を抜いていく。つまるところ周囲から暖かい目線を向けられていた。



「というかいつもそれくらいお洒落しなさいよ! 全身同じ系統の色で固めるとか論外オブ論外なんだから。聞いてる? ねぇちゃんと聞いてるのハチ?」


「大丈夫、それに関してはちゃんとしてるでしょ? ね?」



 ハチと呼ばれた少年は余った両袖を握ってくるりと回る。ショートパンツとスニーカー、ついでにフードが付いたパーカーを羽織った彼は、あえてボーイッシュに纏めた少女にも見え。お洒落ではあるがキュートな魅力を纏っていた。



「ゴフゥっ! ハチ、ちょっと反則それ。もう私の負けで良いわ」


「ど、どうしたのさアルカ!? いきなり大丈夫!?」



 彼の微笑みにノックアウトされた少女、アルカがコンクリートに崩れ落ちる。その余波を受けたショタコンか、もしくはロリコンか。まぁどちらにせよ大差のない男女が周囲で倒れているがまぁ問題はないだろう。この街ではよくある事だ。



「ふぅ…… というかなんでハチは良い匂いなのよ」


「アルカって時々変態みたいな事を言うよね?」



 呆れ混じりのハチの言葉に、アルカはいかんいかんと気を取り直した。折角のデートなのだ。長年告白してこなかった幼馴染にしびれを切らし、つい最近自分から告白した幼馴染とのデートなのだ。なおかつ自分の16歳の誕生日デートなのである。


 早生まれなハチよりもちょっとお姉さん気分を味わいながら、色々楽しむ予定を思い出し。どうにかニヤニヤする顔を無理やり止める。



「うん、大丈夫。大丈夫なんだけど。なんか気にしてることない?」


「い、いや…… そんな事は、ない。かなぁ」



 ハチの目が泳ぐ、アルカには分かった。これはよくある、むしろいつも通りにハチが何かを我慢している時の顔であると。



「ほら、今日は折角のデート何だからさ。ちょっとお洒落なお店でウィンドーショッピングとか、お洒落なカフェで一緒にコーヒー飲んだりとか、映画見たりとかそういう予定じゃないの?」


「それは、分かってるんだけどさ。今日は新しい筐体が入るって……」



 ハチの視線が、アルカの背後に立つビルに向けられている。その視線を追って見れば予想通りにいつも二人で通っているゲームセンターの看板があり、アルカはため息を付いた。



「もう、毎日放課後に行ってるじゃないの」


「け、けどアレだよ。2年ぶりの新作だよ! 難易度は高いみたいだけど一番最初にクリアしたいとかそういうアレがね?」



 まぁ確かにアルカも興味がない訳ではなかった。むしろ誕生日デートでなければ間違いなく自分から誘ってゲームセンターに突撃していた。いやむしろ突撃しても良いのかもしれない。



「もう、ハチは本当に仕方無いんだから……」



 あくまでも仕方無くの体で、アルカは微笑んだ。そうあくまでも仕方無くなのだ。本来はお洒落デートに行きたいのだが、それはそれとしてハチと一緒にゲーセンで一緒に新作のシューティングゲームを積極的に楽しみにいってしまう女シュータという訳ではないのだ。ないのである。



「うん、ありがとうアルカ! ごめんね? なんか無理言っちゃって」


「まぁそれは、今度何かで埋め合わせを――」



 ここまでは間違いなく、彼らにとって幸せな日常であった。けれど爆音が響く、響く、ガラスが砕けて落ちて、悲鳴が響き渡る。たった1秒前まで広がっていた普段の光景、それがたった一瞬で吹き飛ばされる!



「えっ!? 何っ!?」


「アルカ、伏せて!」



 ドンっ! とアルカに体ごとぶつかって押し倒すハチ。その衝撃に驚くが、それを声に出す前に空気が震える。衝撃と熱風が彼らを襲う!



「これ、なに!?」


「ビーム!?」



 ハチの声に上を見上げれば、いつも通っているゲームセンターが入っていたビルが融解していた。コンクリートが砕け、合間から見える鉄骨はねじ曲がり、じゅうじゅうと立ち上る水蒸気と、高熱で燃え上がる可燃物の様子を見れば、成程ビームが直撃した後にも見える。



「こ、これどういうことなの!?」


「僕にも分からない、けど……っ!?」



 再び衝撃、ズシンと響く地震と共に通りの向こうから巨大な人型がビルに叩き付けられる! 18mの鋼の巨人! 防衛軍の誇る129式機動装甲歩兵! 戦闘ヘリの機動力と、戦車の防御力と攻撃力。そして人の器用さを併せ持つ超兵器と謳われた巨体が無様に崩れ落ちる。


 バイザーアイの顔面は砕け、120㎜砲はねじ曲がり、左腕が吹き飛び、それでも抵抗しようと腕を動かそうとする。しかしその抵抗は実らない!


 更に巨大な人影が、ぬっとビルの合間から現れて崩れ落ちた129式に光の剣を叩き込む! その身の武は100mを超え最早大人と子供の差、ヒロイックな青白黄色のトリコロールカラーに塗り分けられた超巨人が緑色のデュアルアイを光らせる!



『ふん、この世界にはクールガイの剣技を受けられる者は居ないか……』



 外部スピーカーから放たれた声はイケメン! 恐らくは金髪碧眼のイケメンな姿をしているに違いないと聞くものに思わせる。そしてそれは間違い無いだろう。けれどアルカはその圧倒的な暴力の前に逃げることすら忘れ、惚けることしか出来ない。


 ならばハチは、少女の様に可憐な少年はどうなのか?



(アルカを、守らないと……!)



 はっきりそう考えて、立ち上がる! 彼は喧嘩はした事が無い。力も無い。精々人より優れているのはシューティングゲームの腕前だけであろう。けれどそれでも力があろうが無かろうが、そんな事は関係ない。そんな気持ちだけで立ち上がった彼の耳に、声が響いた。



(ボーイ、お前は戦うんだな?)



 力強い男の声が響く、例えるならばナイスガイ! 聞くだけで大丈夫だと人に思わせ、任せても良いと思えるカリスマをもった声がハチの脳内に響く!



(だ、誰なの!?)


(んなことはどうでも良いんだ! そのガールを守りたいんだな? ボーイ)



 道理を無視した理不尽な問いかけ、けれどハチの心は変わらない。たとえそれが神であっても、自分の中の妄想であっても! ハチの返す言葉は変わらない!



「守りたい! 僕はアルカを、守りたいんだ!」


「OKボーイ! その言葉が聞きたかった!」



 声が響いた、ナイスガイな声が。それをアルカも聞いた。仕事中に災難に巻き込まれそれでも周りを気遣うサラリーマンも聞いた。合流した恋人と逃げようとした女性も聞いた。震えながらも畜生と叫び倒れたお年寄りを背負い走り出そうとする不良も聞いた。



『そ、その声は――っ!』



 当然100mを超える超巨人を駆る、イケメンもその声を聞いた!


 そして轟音が響き渡る! 大気を引き裂き、巨大な何かが振って来たのだ! 本来ならば全てを砕く超質量を、気合と男気で封じ込め、4車線の道路に、赤と、黒と、白と! そして無数の砲門で飾られた巨人が! 空の彼方から舞い降り仁王立つ!



「こ、ここは!?」



気が付くとハチは、コックピットの中にいた。操縦席に座り、アルカはその横で目を丸くしていて。そして自分の前にあるもう一つの座席に背中が見える。


 大きな、大きな漢の背中! ボロボロのジャケットで盛り上がる筋肉を抑えつけた体、ざんばら髪をそのままに、振り向く顔には斜めの傷痕! しかしそれは恐怖心よりも、彼の顔を何よりも勇ましく彩っていた!



「ブラスバルターのコックピットだ!」



 ブラスバルター、ハチの聞いたことのない単語。けれども理解出来た。全周囲モニターの左右に見えるのは腕! 下を見れば無数の砲門が並ぶ足! そして中に浮かぶホログラムのモニターにはワイヤーフレームで人型ロボット兵器の姿が描かれている!



「あ、あんた! 何なによ、名乗りなさい!」



 恐怖か混乱か、あるいはその両方か。アルカが震えた声でその漢に問いかける!



「ナイスガイだ!」



 断言する! 真っ当な名前ではない。



「ナイスガイ!?」



 けれども、けれども、だけれども! 妙にその名乗りはハチの心に刻まれる! 疑問形で返したが改めて口にしてみると妙にこの好漢を示す名前として相応しいと感じられるのだ。



「そしてこいつはブラスバルター!」



 ナイスガイは改めて前に向き直り、左右のレールに取り付けられたゴツい操縦桿をその両手で握りしめる!



「ぶ、ブラスバルター……!」


「な、なんなのよ…… それ」



 アルカだけが状況から取り残されるが、構わずにナイスガイは言葉を続ける!



「そぅっ! ブラスバルターっ! 全長120メートル、総重量16万5千7百トン! 巡航速度マッハ25、瞬間最大速度準光速! ありとあらゆる質量兵器を無効化するアンチイナーシャル装甲を主装甲とし120mm滑腔砲を125門、大小合わせて1250発のミサイル! 400mm以上の超々ド級砲を32門、800mm以上の超々々ド級砲を12門ッ! それだけでは無いぞ! 特殊兵装として超大型衝撃発生装置を両腕に炸裂式破砕粉砕兵器を両足に2つ装備しているのだ!」



「えっ!? えっ!?」



 訂正しよう、ハチも状況に置いていかれた。



「考えるな、感じろボーイ! とりあえず目の前の的に撃ちこめばいいんだよっ!」


「は、はいぃぃっ!?」



 反射的にハチは後方座席に据え付けられた、1本の操縦桿を握りしめた瞬間――



 彼は全てを理解する。



(こ、これは――!)



 洗練されているとは口が裂けても言えない、乱雑な火器管制FCS。けれどそれは実戦を通したロジックで、鍛えられ、磨かれた集大成!


 これは即ち、ブラスバルターの全身に据え付けられた数百門の火砲を、一括制御する為のインターフェイスなのだ! その事実を論理よりも感性でハチは把握する!



「つまり、僕が砲撃担当ですね!」


「その通り! 俺は細かい事が苦手でな!」


「何をすっ飛ばして理解しているのよ!? どういうことなのかしなさい!」



 あまりの状況に声を上げるアルカ、けれどハチは優しい笑みを浮べる。



「大丈夫――!」



 レーダーを見やれば周囲にエネミーの表示が溢れかえっている。全長120mのブラスバルターだからこそ、その惨状を理解出来た。


 目の前のヒロイックな青白黄色トリコロールの超巨人とは別の、紫色をした30m程の巨人が今なおビルにビームを放ち、アスファルトを砕き、人を追いまわし! 街を破壊し続けている。


 その全てをハチの瞳は捉える。握りしめた操縦桿と、そこに取り付けられたジョイスティックの操作。それが全周囲モニター上に光るターゲットサイトを次々にターゲットをロックする!



「僕が、アルカを守るから!」



 両腕で操縦桿を握りしめ、プラスチックの撃鉄を押し込む! 想定よりもやや重い引き金を、それでもハチは全力で押し込んだ。


 火砲120mm滑腔砲が、火砲400mm超々ド級砲が、火砲800mm超々々ド級砲が! 火を噴く、鉄を吐く! 半径5kmに広がる10機を超える30m級の巨人の群に、狙いすましたかの様に。いやハチが狙った通りに徹甲弾が突き刺さる!


 間接に120mm徹甲弾が! 200㎜を超える超合金製の装甲に400㎜の炸裂弾が! トドメとばかりにブラスバルターの指と掌に仕込まれた800㎜の超大型砲弾が! 貫き、炸裂し、炸裂する!



『なん、だとぉ!?』



 イケメンの驚愕の声が響く、防衛軍の129式を圧倒していた大型ロボットの群が。たったの、たったの1回の攻撃で全滅したのだ!


 あるものは全身が砲弾で引き裂かれ、あるものは胴体に穴が開き崩れ落ちている。けれどハチによる神業的な射撃によって、周囲への被害は最小限に抑えられていた!



「どうだクールガイ! これが俺が見出したボーイの力だ!」


『お前の実力ではあるまい! ナイスガイ!」



 イケメンの名をクールガイと、ナイスガイが呼ぶ! しかし容赦のない返答と共に返されたのは刃渡り60mの両手剣シルバーサーベルによる斬撃だ! ビルを両断して有り余る一撃がブラスバルターに迫る!



「ナイスガイ!」


「ボーイ、ここは俺に任せろぉ!」



 ナイスガイが操縦桿を引き絞り、ブラスバルターが迎撃の構えを取る! 武術のそれではない、荒っぽい喧嘩殺法! だが適度に脱力した姿勢は非常に実戦的である!



「メガアームインパクト、作動!」



 ブラスバルターのデュアルアイが青く輝く! 大型トレーラーよりもずっと太い黒い巨腕が、その拳からオレンジのオーラを纏った! 街の大通りで、左右をビルに挟まれた4車線の道路の上で、100mを超える巨大な鋼の巨人が衝突する!


 刃渡り60mの刃シルバーブレード1万トンを超える拳メガアームインパクトが衝突し、衝撃し、足元に張り巡らされた電線を揺れて千切れて火花が舞う! だがそれはある意味些細で、超エネルギーの衝突がプラズマの爆発を引き起こし、周囲のガラスを爆炎で砕く!



「やるな、クールガイ! シルバルターも良い機体だ!」


『貴様もな、ナイスガイ! だが我らが神漢帝国に逆らうのならば容赦はしない!』



 漢同士の真っ向勝負にハチは言葉が出ない。アルカは既に状況を理解することを放棄し唖然としていた。



『だが、ブラスバルターの速度では、シルバルターに追い付けまい!』



 その言葉と共に青白黄色トリコロールが宙を舞う! 100mを超え、10万トンを超える巨体が大気を歪ませ宙を舞う! 人型のブラスバルターは飛ぶことは出来ない…… このまま一方的にやられてしまうしかないのか!?



「ボーイ、行くぞ! 超弩級艦モードだ!」


「は、はい! どうすれば!?」


「飛ぶから狙って撃ってくれ!」



 ナイスガイが目の前にある赤い大きな、変形と刻まれたボタンに拳を叩き付ける! するとコックピット内に轟音が響く、砲撃も巨大なものがゆっくり動く音!



「これは、変形している!?」



 ハチの目の前で、ワイヤーフレームのブラスバルターが足を折り曲げ、腕を縮ませ、背中から持ちあがった巨大な赤いドリルで頭部を覆いながら。人型から違う形に変わっていくのだ。


 そして3秒後、ブラスバルターは変形を終える。


 無数に砲門を搭載した人型から、ブラスバルターは超戦艦と呼べる姿になっていた! 史実の戦艦よりは一回りも、二回りも小さい。けれどブラスバルターが征くのは海の上ではない。空中である!



「超弩級艦ブラスバルター! 出港!」


「しゅ、出港!」


「港はどこよ!? それ以前に超弩級にしてはサイズがキャッ!」



 アルカのツッコミの途中で、ブラスバルターはシルバルターと同じ空の上に到着する! 青白黄トリコロール赤黒白色トリコロールが、人型と戦艦の形で改めて空を舞台に対峙する!



『たとえ、飛んだとしても! トゥ!』



 クールガイの叫びと共にシルバルターがシルバーブレードを振るう! 200m、いや300m以上離れた距離は完全に剣の間合いの外側だが。しかし! 衝撃波が白いビームとなってブラスバルターに襲い掛かったのだ!



「うわ!? 来ますよナイスガイ!」


「構うな撃ち返せ!」



 ナイスガイの言葉の途中で、ブラスバルターのコックピットを衝撃が襲う!白いビームが装甲を焼き、幾つかアラートランプが点灯する!



「分かり、ましたぁ!」



 ブラスバルターの後方、ロボットモード時には足だった部分から高速で多数の、いや無数のミサイルが放たれる! 噴煙と共に弧を描きながらシルバルターへと襲い掛かった!



『ちぃ! だがその程度ならば!』



 シルバルターは加速し、距離を取り追い付いて来たミサイルをシルバーブレードで切り払う! その剣技は正に神速! 翻れば10発のミサイルが火の玉になり、届く前にその全てを叩き落とした。



『さて、これで反撃を―― いや!? ブラスバルターはどこだ!?』



 クールガイはここでようやく気が付いた。そうミサイルは本命では無かったのだと! ならば本命とは、必殺の一撃とはなんなのか!?



「俺達は、ここだぁ!」



 はるか上空、成層圏に超弩級戦艦と化したブラスバルターは跳んでいた。既にシルバルターの姿どころか、街すら小さな点にしか見えない。たった一瞬で、爆発的な推力をもって飛び上がったのだ!



「ボーイ、ターゲットロックオン! 行けるな!」


「行けます!」



 けれどハチの瞳はレーダーと、そして高性能のカメラを通してシルバルターの姿を捉えている。ハチが理解している武装は全て射程外の距離。だが彼はナイスガイを信頼し照準をロックする!



「よしっ! 超弩級ロボモードで自由落下だっ!」



 再びブラスバルターの姿が変わる! その推力を飛行に使える超弩級戦艦モードから空を飛ぶことが出来ない人型に。即ちここから自由落下する!



「脚部炸裂式破砕粉砕兵器最大出力っ!」



 直立不動のまま総重量16万5千7百トンの超巨人が大地を目指す! 重力加速度よりも更に早く理屈を超えた原理でシルバルターへと向かいながら、その両足に莫大なエネルギーが収束していく!


 メガアームインパクトと同じオレンジの、漢気の光だ!



「ギィィガ、フゥゥット…… クラッシャァァァァッ!」


『ナイス、ガイィィィィ!』



 ナイスガイの咆哮と、クールガイの絶叫が衝突する。シルバルターもシルバーブレードにエネルギーを集めて迎撃しようとしたが、超必殺技の一撃に対してパワーが余りにも足りない!


 避けようにもハチという砲撃手を得たブラスバルターの攻撃はそれを許さない。


 ――青空に星が落ちた。


 ブラスバルターの両足を揃えたドロップキックが、シルバーソードを砕き本体を直撃する。青白黄色トリコロールは砕け、無残な姿を晒している。しかしそれでも地上に墜ちないのは意地か、それとも無駄な被害を避けようとする、クールガイの紳士さ故か。



『くそ、ナイスガイ! 今回はお前の勝ちだ。だがっ!』


「ああ! 何度でも来やがれ。俺は何度でもお前達の野望を砕く!」



 捨て台詞を吐き、空の彼方に去るクールガイに対し。ナイスガイは不敵な笑みと共に誓う。この世界を守ると、彼らの理不尽な侵略にどこまでも立ち向かうと!



「お、終わったんですか?」



 ハチはここでようやく正気を取り戻す。空中で超必殺技を炸裂させて、ゆっくりと降下していくブラスバルターの操縦席で姿勢を崩す。つまり腰が抜けたのである。



「おう、初陣にしては良くやったぜ。ボーイ」


「ねぇ、一つだけ聞かせなさい。アンタ一体なんなのよ?」



 余りにも理不尽な状況の中、アルカがナイスガイに対して問いかける。けれど崩れ落ちたハチをそっと支えている辺りに、彼女の優しさが見え隠れしていた。



「何度も名乗っているだろう? 俺はナイスガイだ」



 ある意味予想通りの回答に、アルカはため息を付いて。そしてハチは――





――ナイスガイに、出会った。

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