第2話 黒い影
退屈が逃げるように去った思いがけない日は沈んでしまって、また違う日が始まる。私は浮かれてなどいなくて至極冷静だった。東京でも沖縄でも知らない人と話すことはよくあった。私から話しかけるか、向こうから話しかけてくるか、私の返答で相手がどんな私の像を結んだかは別として。日常の連続で作られた私の日々に、あの二人はたった一度映るだけだと思っていた。愉快だったのは事実だ、でも自分の名を伝えてしまったのは間違いだったかもしれない。
どうしようもなく暇なのだ。特別やることがあって故郷から遠く離れた南に来たわけではない。毎年こうして時間を持て余している自分が馬鹿らしく思えて、とにかく野良猫のように外をうろうろしている。それでも親切に空き部屋を貸してくれる大家のおばさんに挨拶をして、私を覚えていた賢い庭先の犬にも歓迎される、私の夏は綺麗だ。
今日もセーラー服を着た。大家のおばさんには呆れられるほどに、毎日毎日この格好だ。替えの制服だって家から持ち出してきている。これを着ていれば何も変わらないままでいられる気がするなんて言えない、もっとおかしな子だと思われてしまうから。
むせ返るような温く思い風が吹く中、朝方で閑静な石垣の通りを歩いていく。夏が来る度に命を浪費していたあのベンチを、あの男の子が侵略したせいで、今日もどうしようかと三日ほど悩む羽目になった。昨日は通りすがりにあの男の子を見つけてしまったから試しに話しかけてみただけで。
あの二本のラムネは冷蔵庫に仕舞い込むために小さなスーパーで買ったものだった。いい顔はされなかったが気圧されたわけではない、後ろめたさもない。何も感じないようにして、今までそうやって生き延びてきた。
また、通りすがる。蝉は相も変わらず鳴いていたが耳障りだと思ったことはない。車止めの前に学生が乗るような自転車が止められていて、少し先の木漏れ日の中に誰かが立っていた。髪の色が幾分明るくて、新たな主があの陰を支配している。
彼はベンチに置き去りにされていたのだろう、可哀想なラムネ瓶を手にとっていたが、後ろに近づく私には気づいていただろうか。声をかけてやろうと思った。ただ、なんとなく。
「ひどいひと」
彼は特段驚きはしなかったから、忍び足などという高等な技は私には出来ないのだと知らされた。昨日は成功したのだが、まぐれだったのか、この人が野生的に優秀なのかは私には分からない。
「押し付けたのは私だからいいんだけど」
「あいつはそういうやつだから」
困ったように笑う顔に同情の色はない。丸一日の熱気にさらされて少なくとも美味しくはないであろう、誰の物でもなくなってしまったラムネ瓶をくるくると投げては掴んでを繰り返している。昨日は軽く別れの挨拶をしただけで顔をしっかりとは見ていなかったが、なんとなく思っていたことを口にした。
「あなた、さぶくんのお兄さん?」
「まあね」
「……目は似てないのね」
「あいつは親父に似たからなあ」
それが本当なら、この人は母に少なからず似たということになる。弟よりも温和そうな造りの顔から生み出される表情は嘘っぽくはなかったが……。私はこれ以上問い詰める気になれずに公園の外に目をやって、逃げるように尋ねた。
「弟くんは?」
「さあ……さぶはいつもふらっといなくなるから」
「行き先も告げずに?」
「そ。俺も人のことは言えないけど」
ベンチに腰掛けた彼は、手に取っているラムネを捨ててしまうかどうか聞いてきた。別に構わないと答えるとすぐ蓋を開けていたが、振り回していたせいで泡が吹きこぼれていく。げ、というような顔をしたのが可笑しくて笑ってしまったが、彼もすぐに笑い返してきた。
「真咲っていったっけ、旅行にでも来たのか?」
私の名前を覚えていたことに少し驚く。やはり地元の人間ではないと分かるのだろう。この格好では仕方のないことだ。
「沖縄が好きだから……特に目的はないの。いつもならここで本を読んでいるんだけど……」
嘘ではなかったし、彼も疑う素振りは見せない。水滴を払うように手を振りながら、瓶に残ったラムネを足元に流している。泡と水が砂利を押し除けながら音を立てて地面に染みこんでいくのを、私はじっと見ていた。
「まさかこんな暑いとこで一日中読んでるわけ?」
「そんなことない、って言いたいけど……でも他にすることがないから」
「せっかくの夏休みなんだから遊べばいいのに!」
反動をつけて勢いよく立ち上がった彼は、公園の入口近くのごみ箱に向かって歩いて行く。空の瓶をそこに投げ捨て水道で手を洗ぎ、車止めの先に止めてあった自転車の方へと。それをただ目で追っているだけの私を見て一言「おいでって」と手招きする彼に、糸を引っ張られるようについていった。昨日の荷物の多さを見ていたからか、前籠が空っぽなことが不思議に思えてしまった。
「行きたいところの一つや二つぐらいあるだろ?」
「連れて行ってくれるの?」
はにかみ顔は肯定の意だ。私は思いつく限りの場所に考えを巡らせたが、自分の望むことがよく分からなかった。咄嗟に呟いたのは優柔不断なやつだと思われたくなかったから。
「……ラムネが飲みたいわ」
「また?」
「好きなんだから仕方ないじゃない」
「じゃあ駄菓子屋にでも行くか!」
言われるがままに後ろの荷台に腰掛けて、彼が少し濡れたままの手でハンドルを握るのを見ていた。風が私の髪を引っ張るのが気になったけれど、彼の肩を離すと怒られそうだったからやめておいた。彼と私と、蝉と車輪の声はひっきりなしに響いていて、無駄なことに考えを巡らせなくてもよかったのが、私は嬉しかったのだろう。
十分ぐらいしか風を感じなかったように思う。自転車から降りたのは古い民家と整然とした畑が点在する、ごく静かな場所だった。目の前の小さな駄菓子屋は東京のものと何ら変わりはない。彼は大きな声で恐らくは店主を呼んでいて、奥まった扉から顔を覗かせたのは、私の祖母と同じくらいのお婆さんだった。
「あら、恭二郎ちゃんじゃないの」
目の前で忙しなく喋り続けている彼の名を初めて聞いた。快活な声と嗄れた優しい声は、なにか私の知らない言葉を喋っている。私は三年ほど前に初めて沖縄に来たのだが、その時の私の思い込みが目の前で再現されているようだ。沖縄の人は私が考えていたよりもずっと標準語を喋る人が多かったから、高を括った私は挨拶程度しか覚えていない。
声を聞き流しながら綺麗に陳列されたお菓子の山に目をやる。今思えば夢の様な場所ではないか。小学生の頃に父に持たされた小遣いを握りしめて、たった一人で足を通わせた記憶があった。あの時に心を躍らせた記憶はないし、代わりに何を思っていたかも思い出せない。あれは私一人だけだったからだろう、そう思いたかった。
「お嬢ちゃん……見慣れない制服を着てるわねえ」
急に話しかけられたせいで、自分でも目を丸くしたのが分かった。お婆さんは私の服装をまじまじと見て、記憶を辿っているようだ。
「東京から来たんだってさ。夏の間だけここにいるって」
「まあ、東京から……都会から来たんじゃあ、つまらないでしょうに」
何だか申し訳無さそうに笑われて、少し慌ててしまう。
「そんなことないですよ。沖縄は東京とは違って明るいし静かで、落ち着きます」
社交辞令だと思われないような言葉が浮かばなかった。嘘を吐くことが得意な分、本当のことを相手に信じてもらうのは難しい気がしている。そんな心配をよそに、お婆さんはほっと息をついていた。
視界の端でごそごそと店先の冷蔵庫を探っている影は、冷えたラムネを三本持って、まだ店内のお菓子をきょろきょろと見ている。パステルカラーの奇妙な四角形が詰まったお菓子やら、細長いゼリーのお菓子やらをたくさん手に持っているのを見て、この人はいつまでも無邪気なままなのだろうなと。彼に他に何かいるかと聞かれて、無言で首を横に振った。お婆さんの待つ会計台へお菓子を置いた彼は、私と目を合わせるように振り返る。
「さぶは別にラムネが嫌いってわけじゃないから、家の冷蔵庫に入れておいてやろうと思って」
不思議そうにしていたことがそんなに顔に出ていたのだろうか。他人の思考にここまで考えが及ぶのが珍しいというより、彼の性格に似つかわしくないのではないか。頭の中で彼のことを知ったような口をきいている私がいる。こういう人にはあまり自分のことを喋らないほうがいい、誰かがそう言っていた。だが彼は普通の人間よりも利口だ、それもひどく。
「恭三郎ちゃんは元気かい?」
随分長い間、彼を勘ぐっていたような気がしていた。ふっと我に返ったのは、先程から予想できていた名前が聞こえたからだった。
「元気元気! 反抗期真っ只中だけどさ!」
「そうかい……もう長いこと会っていないからねえ、元気ならいいんだよ」
算盤を弾く音は心地よかったが、やがてその音も途切れる。彼はお婆さんに一言挨拶をして、お菓子の詰まった少し重そうな袋を持って、店の前に駐めておいた自転車の方へと向かう。なぜか私は彼が真横を通り過ぎるのを見送るだけで、ついていくのが遅れた。一人呆けているとまた声をかけられる。
「お嬢ちゃん、あの子たちとは友達?」
「え、ええ……弟さんのことも」
友達なのだろうか。違和感があったがただの知り合いと伝えるのも悪い気がして、その悪く思う気持ちも変なもので、口をついて肯定してしまった。それが功を奏したのかお婆さんは嬉しそうだったから、私は間違ってはいないはず。優しい皺の多い顔をさらにくしゃりと笑わせているのは、誰もが好感の持てるものだ。
「あの子たち、小さい頃はよくうちに来てたのよ。二人とも、周りがどう言っても根はいい子だから、仲良くしてあげてね」
周りがどう言っても、とはどういう意味だろう。弟のほうはあの性格からして悪評が立っていても不思議ではないかもしれないが、兄のほうはさほど反感を買いそうな人ではない気がしている。
既に自転車に跨った彼が急かすので、私は小さく頷いてその場を後にした。彼はまた後ろに乗るように言って、自転車はすぐ滑りだす。
「ばあちゃんと何話してたんだ?」
「……あなたたちと仲良くしてあげてってこと!」
悪い気分ではない。彼らは私に害を成す人たちではない、そう判断した。この人は賢いから、きっと私を踏み荒らすことはないだろうし、この人の弟も攻撃より回避を選ぶ気質だろう。それだけで十分だった。
彼は少しだけ振り返って、じゃあよろしく、と変わらない笑みを見せた。この人が泣くところなど想像できないほどに、着実に笑みを増やしていく。
「夏が終わったら東京に帰るんだよな」
「でも来年もきっと来るわ。私はここが好きだから」
「……なら、夏が楽しみになる理由が増えるなあ」
明るいけれど、遠く聞こえる声がした。次はどこに行こう、と尋ねる声はいつも通りで、あの一瞬の違和を大きくしている。でも恐らく、顔は見えなくとも、彼は笑ってそう言ったはず。
私は公園に戻ろうとだけ答えて、それからは私達と平行に走る影ばかり見ていた。日はまだ高い。太陽を見るたびに、夜など来ないのではないかと思う。あの頃から私は、夜が来なければ夏も終わらなくて済むのにと、ずっと恨めしさを募らせている。
こんなにも暑い日に家を出たのは間違いだった、数時間前の自分は馬鹿だ。雲ひとつもない空が薄情すぎる。
陰のある場所を探してもあの公園に勝る場所などないことは分かっていた。朝に通りがかった時は誰もいなくて、俺が置き去りにしたラムネ瓶もそのままで、またあの女が待ち伏せているような気がして一歩も足を踏み入れなかった。だからこんなにも無駄に足を動かして、無駄に体力を浪費して、無駄に金も使ってアイスクリームまで買ってしまう始末だ。
昨日ついた人差し指の傷が痛覚に訴えかけてくるのが気に入らなかった。宿題のプリントを整理していた時に紙で切ってしまって、絆創膏など気休めにもならないほど、心臓の鼓動に合わせた痛みが続いている。利き手だから余計に不便だ、左手で物を持つのは落ち着かない。アイスの棒ですら落としそうな気がするほどに。
腕時計は午後四時を指している。もうすぐ日が暮れる時間になって、やっと家に帰る決心がついた。あのだだっ広い家で嫌な気分が燻ぶったままの時間を過ごすよりはましな一日だったが、明日からはしばらく家を出ない気がした。痛みも気力を削いでくるし、何よりも家にいたほうがいいと錯覚させてくるのはこの夏だった。
本当はラムネ味がよかったのに。コンビニの冷凍庫で手に取りかけた時に昨日のことを思い出して、すぐ横に置かれていたスティック状の、甘すぎるアイスを掴んでしまった。バニラだか苺だか何だか知らないが、美味しくはない。
帰り道、例の公園を通りがかったから少し横目にだけ見たつもりが、食べ終わってから食わえたままだった木の棒を落としかけた。兄がブランコをゆるゆる漕いでいる、その近くの木陰で、あの女が本を呼んでいるのが見えた。
なぜ一緒にいるんだ。兄は俺を見つけて大きく手を振っていて、俺はというと溜め息しかつけない。木の棒をごみ箱に放り投げるついでだと思って、あれだけ躊躇っていたのに公園に入る。兄が大声で呼びかけてくるものだから、大声で返したくない俺は近づくしかなかった。
「どこ行ってたんだ?」
「……どこでもいいだろ」
そんなそっけない返事をしても兄は気にもせずブランコを漕いでいる。
「……何してるんだよ」
「なにって、遊んでるんだけど」
「そうじゃなくて……なんでこいつと」
「失礼ね、名前教えてあげたじゃない」
すぐ傍のベンチで本を読んでいた女は顔を上げて怒ったような顔をしている。真咲という名前は覚えていた。たった一日で忘れるには印象的すぎる。彼女の目とは違って。
「ずっとここで本読んでるって言ったからさ、せっかくだしもっと遊ぼうって。ラムネが飲みたいって言うから駄菓子屋に連れてってやった、ほら、昔よくお前と行ってたとこ」
小学校の通学路にあったあの店のことだとすぐ合点がいった。兄について来ただけで別に何もいらないと言っても、店主が安い菓子を一つ握らせてくれたのを覚えている。妙な警戒心を解かないまま、西瓜やらかき氷やらを貰って、店の奥で兄と並んで食べたことも。お人好しだと呆れたのだ。あの店主は俺たちの家が極道関係であることを知った上で、俺たちを可愛がっていた。打算などないあんな目を、俺はあの時まで知らなかった。
「婆ちゃん、お前が元気か聞いてきたから、元気だって言ってやった!」
兄はいつもよりも機嫌がいいらしい。ブランコが生む風が支柱の横にいた俺にまで伝わってきて、それとは別の少し冷たい風が強くなってきている。
「さぶくん、昨日はありがとう。話し相手になってくれて嬉しかったわ」
真咲が唐突に話しかけてきたが、内容もおかしかった。礼を言われることなど言っていないだろう。むしろ怒られそうな別れ方をしたのに。
「大した話なんかしてないだろ……」
「話ができたことが嬉しいの! 私、ここでも東京でも大人とばかり話してるから楽しかった」
それは俺も同じようなものだ。兄以外の周りの人間は大人しかいない。俺と同じなら真咲も気が滅入っていたのだろう。大人は本当の意味で子供の気持ちになれない。考えなど読めはしないし、少なくとも奴らは読もうとしていない。
真咲は嘘を吐いたような素振りは見せなかった。昨日ほど嫌だと感じなかったのは、この奇妙な同調で考えていることが少しだけ分かったからか。
強い風が吹いた時には、真咲はもう立ち上がっていた。彼女の膝の上に置いてあったハンカチが舞い上がって、俺の足元に落ちた。兄も強い風にわけの分からない感嘆の声を上げて、ブランコを漕ぐのを止め、そのまま揺られ続けていた。
面倒だったがハンカチを拾い上げて、真咲のもとへ持って行ってやった。ハンカチを受け取った彼女のありがとう、という言葉は途中で途切れて、あの空洞のような瞳が一瞬見開かれたのを見た。彼女の手が一瞬だけ強張る。彼女の視線の先へ誘導されるように俺も目を動かすと、忘れていた痛みに急に襲われた。
「その傷、どうしたの」
絆創膏が巻かれた右手の人差指を、彼女は見ていた。俺が手を下げても、驚いたような困惑したような目でじっと、血が滲んだ絆創膏を見ている。大した怪我ではないことは見れば分かるだろうに。
「……紙で切っただけ」
何だか落ち着かない気持ちになって、俺は右手を後ろに回した。そこでやっと真咲は俺と目を合わせるようになる。
「……そう、痛いわよね、傷は小さくても紙で切っちゃうと。私も冬に本を読んでると切っちゃう時があるから分かるわ」
同情するような苦笑を受けて、俺は何となく目を逸らした。痛みが治まらない、絆創膏を変えたい、汗で身体に張り付いているシャツも着替えてしまいたい、家に帰らなければと焦りだしている。
「そろそろ帰る? 真咲もあんまり遅くなると大家のおばさんに心配されるだろ」
沈黙を破ったのは、やっとブランコから降りて呑気に伸びをしている兄だった。一部始終を見ていたのかは分からない、兄は肝心な時に注意力が散漫しているところがある。真咲はすぐに何でもないような顔に戻って思案を始めた。
「そうね……晩ご飯も買っておきたいし、帰るわ」
「付き合おうか? どうせ帰り道も一緒だし」
「いつものスーパーはちょっと違う道だし、遠慮しておくわ。これ以上は連れ回しちゃ悪いし……今日はありがとう、楽しかった」
また、と真咲は公園を出て行く。ハンカチを握ったままの右手が不自然に握りしめられるのが目についた。血が苦手だったのだろうか、それは無理もない気がする。俺だっていきなり血を見たら少しは驚くし、兄だって昨日の夜、俺のつけた傷を見て大袈裟に騒いでいたし。左手で拾っておけばよかったと少し後悔したところで、そこまで気にする相手ではないだろうと思い直した。日頃から他人の反応をいちいち気にしないようにしているのだから、今日もそうするべきだと。
「今日って母さん家にいたっけ」
「遅くなるって言ってた。親父もいないと思う」
「じゃあ俺が飯作ろっかな」
手を頭の後ろに回して、口笛を吹きながら自転車の方へ歩いて行く兄は変わらず機嫌がいいらしい。前籠にはまた袋が入れてあった。駄菓子屋で買ったと思しき菓子が山ほど詰め込まれている。
「ラムネ、お前の分も買っといたからな」
「頼んでないだろ」
「だってお前好きじゃんか」
今ならラムネの味でも許せる気がした。昨日ほど嫌いではないのだから。
兄は夕食の献立をどうするか聞いてきたが、兄の作れる料理は数種類しかない。どうせカレーか炒飯か、それじゃなくても必ず肉料理は出てくるだろう。大雑把な性格のせいで一定の味を保てない兄の料理は、ある意味では飽きない。はずれの日はひどい目に遭うが。
家へと続くガードレールすらない広い道路で、自転車の後ろに乗るか乗らないかで争っていると、曲がり角の向こうに真咲の後ろ姿が見えた。向こうの道は狭かったせいですぐ石垣に遮られ後ろ姿は見えなくなったが、逆光による彼女の影が異様に黒く感じた。目を疑ったのはほんの少しだけで、その疑いすら明日の朝には忘れてしまうのだろう。
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