パネル 7〜小柳津 大地
第23話 ロイヤルホスト
「とうとう僕まで辿り着いたんですね」
俺は小柳津大地にアポを取った。指定されたロイヤルホストで、コーヒーを飲みながら小柳津大地と向き合っていた。
小柳津大地は、見た目二十代半ばといったところか。色白ですらっとした体躯、明るめの茶色に染めた髪は少しウエーブがかかり、その髪を乗せている顔は小さく、今時の若者だった。微笑んでいるわけではないが、薄い唇の端が上がっていて、まるで仏のような顔でこちらを見ているので薄気味悪い。虫も殺さないような顔で、なにを考えているか全くわからない。
「僕は大学で福祉工学の勉強をしてまして、義手や義足、電動車椅子なんかの研究をしてるんです。まあ、どこの大学か、なんてもう調べがついてるんですよね」
半分笑ったような顔で淡々と言った。
「あとは、僕がちょっと悪いことしてるのもバレてます?」
「なんだ、ちょっと悪いことって」
この他人を馬鹿にしたような物言いに苛つきもあるが、なにをされるかわからなく臆していることを虚勢を張って隠しているのもある。
「佐原くんにハッキングとか頼んだんですよね。彼とはネットで知り合ったんですよ。ご存知ないですか?あれ?僕、余分なこと言っちゃってますよね」
こいつとトシローの接点は、ネットか。すると、こいつもハッキングとかするオタク野郎なのか。佐原俊朗は、太っていて根暗な感じの引き篭もりで典型的なオタクだが、小柳津大地は、派手ではないが今風のさりげないシンプルなファッションに、小綺麗な顔立ち、引き篭もりの佐原俊朗とは真逆のタイプに見えた。
「それで、韮沢さんはどこまで、辿り着いたんですか?」
小柳津大地はアイスコーヒーの氷をストローでゆっくり掻き回しながら、俺の顔を見る。なにを考えているかわからない表情は相変わらずだ。
「お前が、呼んだんだろ」
小柳津大地は、ヘラヘラしながらストローを回し続けている。
「お前に会え、と俺は佐原俊朗に指示された。それは、お前が指示出したんだろ」
小柳津大地の脇に置いてあった黒いバックパックから、彼はiPadを出し、俺に向け差し出してきた。そこには、レコーディングスタジオ周辺に聞き込みをしている俺の姿が写っていた。画面を横にスライドしてみる、藤原景子の店でアイスミントティーを飲む俺の姿、きぼうのもり学園での俺と浅場直樹の姿の写真が何枚も撮られていた。
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