パネル 2〜ライブ会場 爆破事件
第8話 SNS
「こういうやつ、絶対いるんすよね。民間の警備会社なんて、要人警護なんて依頼、あんまり来ないですからね。タレントとか芸能人が、僕らすごい人気なんですよー的な賑やかしでのよ依頼が多いから、こういう若い奴って、軽い気持ちで警備会社なんかに勤めるんですよ」
編集部に戻り、浅場直樹に見せて貰った写真は、彼がSNSで見つけたものだった。バックにアイドルグループ「デエス ミニオン」らしきメンバーがステージの上で立っている。ステージ上ではあまり動きがない体制で5人ほどのメンバーが見える。観客席には客と思われる人間は写っていないので、たぶんリハーサル時なのだろうか。スタッフのようなTシャツ姿の男たちが写り込み、この橘孝臣という男はピースサインを出して歯を剥き出しにしたふざけた顔で自撮りしていた。
フェイスブックだことのツイッターだことのインスタだことの、どうして今の人たちは、やたらと自分のことを不特定多数の人に報告したがるのだろう。それは若い人たちに限定されず、俺と同じくらいの歳、もしくはもっと年寄りの人たちも同じく自分の記事をアップしている人が増え続けている。
今の人たちは、近所付き合いや、同僚との繋がりを必要以上にしない傾向にある。むかしみたいに隣近所の頑固親父が人様の子供を叱りつけたりなんかしたら、今じゃ大問題だ。
マンションに住んでいて、隣の住人の顔を知らない時代だ。
なのに、みんな、どこかで繋がりたがっている。他人に口を出されることを避けるが、自分の都合の良い部分を切り取り、それを発信し、作られた自分のことを知ってほしい、認めてほしいのだろう。
俺が記事にしている連中もそうだ。海外ロケの写真、高そうでお洒落な料理、そんなものをSNSに自ら載せ、俺らが記事にすることは都合の悪いのだ。
みんな自らを都合よく編集して、押し付けてくるのだ。
まあ、その逆のようなことでお金を貰っている俺が偉そうなことは言えないが、俺には理解ができない。
「で、この男がなんだ?」
「元香川警備保障の社員の話とか聞ければ、なんかわかるかな、と思ったんですけど、こいつ、ご丁寧に逐一ツイッターで今回のこと上げてんですよ」
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0:20 会社からLINE。明日非番だっつーのに至急全員出勤の司令。チョーだりぃ。もう寝る。
5:06 4時間しか寝てねー。遅刻すると罰金あるから、しゃーねー、行くか。
6:21 同僚に聞いたら、なんか芸能人の警護らしい。誰なんだよ。
6:26 なんか昨日、爆破予告が芸能事務所にあったらしい。朝早いし、迷惑なんだけど。
6:27 爆破予告犯って、要はヒマジンじゃん。どうせ、ガセだし。
6:29 眠ー、なんせ4時間しか寝てねー。
6:41 誰、警護すんだよ。日本、そんな危なくねーし。
7:02 なんかグループだってよ。官僚かなんかの孫がいるんだってよ。どうせブスだろ。コネで入れたブスだろ。マジ迷惑。
7:15 デエスミニオンだって。ちげーだろ。
デエスだったら、ラッキー。
7:24 マジ?デエスらしいぞ。マジ!生 白石友梨奈じゃね。早起きしてよかった、今日ついてる。
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「男のくせに、こんなチマチマ、そのツイッターってので呟くのか」
「いますよ、こういう奴。こういう奴って、友達いねえんですよ」
「友達いねえのに、じゃあ、これ誰に言ってんだ?」
「不特定多数のお友達です。友達がいない奴が、SNS始めた時点で、世の中の全員が、お友達というわけです」
なんか寂しい世の中になったなぁと思う。ツイッターというものの画面を覗くと、コメントの下に、吐き出しのようなマークがある。これが、読んだ人がこのツイートにコメントをするという仕組みになっていると浅場直樹が説明してくれた。
橘孝臣のツイートには、悲しいことに誰も返信していないようだ。
橘孝臣のふざけた顔のピースサインは、誰に向けられているわけでもなく、今もサーバーの中を漂っている。
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