手紙

流民

第1話


「これは少し前に俺の友達の所に届いた手紙なんだが」


 そう言って昔からの悪友、健一は私に話し出した。


 健一は一通の手紙を私に差し出し、それを私は受け取って中身を確認した。


 封筒の中身には便箋が一枚入っており、私はその三つ折りにされた便箋を開いて中を確認した。


 そして中身を確認した私は健一に話しかける。


「この白紙の手紙がどうしたんだ?」


 便箋には何も書かれておらず、ただの白紙だった。


「やはりお前にも白紙に見えるか……」


 健一は私にもその手紙が白紙であることを確認させたいだけだったようだ。


「この白紙の便箋以外にも何かあるのか?それともスパイ映画みたいに蛍光ペンで照らすと文字が見えるとか、炙り出しとか……」


 私はそうおどけてみせると健一は、その事に腹を立てたのか声を荒げた。


「そんな冗談じゃない!この手紙のせいで俺の友達は死んだんだ!」


 健一の言った言葉の意味がわからず、私はしばらくの間キョトンとして健一の方を見る。


 すると健一の方も少し落ち着いたのか私の方を見て謝った。


「すまん……ちょっとその手紙の事で最近疲れてるのかもしれん……」


 健一は少し疲れたような顔をして話し出した。




「その手紙が省吾、俺の友達の名前なんだが。省吾の所に届いたのは一カ月くらい前の事だったと思う。夜、急に電話がかかってきて話がしたいって電話がかかってきたんだ」


 健一は苦しそうにその話を続ける。


「仕方なく俺は省吾といつもよく行くバー、お前も知ってるだろ?あそこのバー。まぁとにかくいつものバーで待ち合わせをしたんだ。で、あいつは少し遅れてバーに来たんだが、なんだか顔色が悪くて病気にでもなったのかと思ったくらいだったよ」


 そこで少し話を切り、少し間をおいてから健一は声を絞り出すように更に話を続けた。


「顔色が悪いだけじゃなくて、いつもとあきらかに様子がおかしかったから俺は『大丈夫か?』って声を掛けたんだが、どうもそんな言葉も聞こえていないような様子だった。酒を頼んですぐ省吾は話し出したんだが、酷く何かにおびえているような話し方だったよ」


 健一の話ではその時にその省吾とかいう友達が手紙を健一に見せたらしい。


 その手紙がさっき私が見た手紙らしい。




「で、この白紙の手紙とその省吾とかいう友達が死んだところがまだ繋がらないんだが……」


 健一は私の言葉を聞いた後少し黙って静かに話し出した。


「その手紙の裏を見て差出人の宛先を見てくれないか……」


 私は手紙を裏返し差出人の宛名を見た。そこにはどこかで見覚えのある名前……


 そう、宛名に書かれた名前は私の目の前にいる人物、健一の名前が書かれていた。


「なんだ?これお前の名前が書かれてるじゃないか。年賀状もろくに出さないお前がこんな手紙を書くなんて珍しいじゃないか」




 私は健一に言って健一の話し出すのを待っていた。


「いや、お前も言う通り俺がわざわざ手紙をかくなんて事はあり得ない。さっきお前も言ったとおり俺は年賀状も出したことが無い位だ、手紙なんか書く位なら電話かメールで用を済ませてしまう」


「そうだろうな、お前がわざわざ手紙を書くとも思えん。で省吾は手紙の内容についてなんか言っていたのか?まぁ、白紙だから何も言う事なんてないんだろうが……」


 私の話を聞き終えると健一はまた話し出した。


「それが、どうも省吾にはその手紙の中に何かが書かれているような事を言っていた。その内容が自分の未来に起こる予言のようなもので、自分の死に方が書かれているらしい、というような内容だったみたいなんだ」




 その言葉に私は気味が悪くなって健一の言葉を聞き返した。


「なんだって?予言みたいな手紙だって?そんな物何処にも書かれていなかったじゃないか?」


「そうなんだ、中には何も書かれていない。それは俺も確認した、でも省吾にはその手紙に書かれていた内容が見えていたらしい。しかも自分の死にざまを生々しく書かれた内容が……」


 そこまで話して健一はコーヒーを一口飲み黙ってしまった。


 健一が黙ってしまったので私はその、省吾がどのような死に方をしたのかが気になり健一に話を促した。


「で、省吾はどうなったんだ?」


「俺もその場にいたわけじゃないから細かいことは解らない。ただ自分の部屋で死体で見つかったようだ、それもクチャクチャの状態で……葬式に出たが、棺桶の中は見れなかったよ……」


 私はその言葉にぞっとして、それ以上話を聞くことが出来ずに目の前にあるコーヒーをすすった。


 コーヒーは元の熱さを大気中に逃がし温くなっていた。


 そして私と健一は喫茶店を出て家に帰った。




 その話を聞いて数日たった日の夜、私は電話で健一に呼び出された。


 呼び出されたバーには健一はすでに到着しており、どこか怯えた様子で一人酒を飲んでいた。


「すまん、遅くなった。で、話ってなんだ?」


 健一は私の姿を確認すると、今にも飛び掛かってきそうな勢いで私に詰め寄った。


「お前、これはどういう事だ?何の悪戯だ?」


 突然怒鳴りつけられた私は訳が分からずたじろぐ。


「いったいどうしたんだ?何の事だ?」


 私の言葉を聞いて健一は手紙を差し出してきた。


「これを見ろ!お前が書いたんだろう?いったいどういうつもりだ?」


 健一の怒りは収まる様な気配は見せず、私は健一の差し出した手紙を手に取り中身を確認した。


 中には便箋が一枚……私はまさかと思い三つ折りの便箋を取り出して中身を確認する。


 やはり、便箋は白紙でそこには何も書かれていなかった。


「お前こそ何の冗談だ?何も書かれていないじゃないか?この手紙と俺に何の関係があるんだ?」


 今度は俺が健一に詰め寄る。


「何?そんな馬鹿な!ちょっと見せて見ろ!」


 健一は私の手か便箋をひったくるように奪い取り中身を確認する。


「何を言っているんだ!ちゃんと書かれているじゃないか、こんなふざけた予言を書きやがって!お前がこんなやつだとは思わなかった!」


 どうやら健一は相当酔っぱらっているのか、それとも……


「少し落ち着け、とりあえず座って話をしよう」


 健一はそう言われ、椅子に腰かけ私もその横に座った。


「で、この手紙がどうしたんだ?」


私は冷静に健一に話しかけた。


「裏を見て見ろ」


 私は恐る恐る裏を見て見ると、そこにははっきりと私の名前が書かれていた。


「そ、そんなまさか!俺はこんな手紙を書いた記憶はないぞ!何かの間違いだろう!」


 しかし健一はそんな話は信じないというような感じで私に声を荒げる。


「じゃあこの手紙はなんなんだ?これはお前の字じゃないのか?こんなひどい内容の手紙、あんなことがあった後でよく書けたもんだな!」


 そう言って便箋を私に見せるが、やはり私にはそれは白紙にしか見えない。


「ちょっと待て健一!俺にはそれはどう見ても白紙にしか見えない。いったいそこには何が書かれているんだ?」


「そんな事書いたお前が一番わかっているだろ!なんで俺がこんな酷い死に方をしないといけないんだ!」


 健一はそう言ったのを最後に席を立ち、金をおいて店から出た行った。


 そしてそれが健一の姿を見た最後だった……




 次の日の夜私は健一の葬儀に出席していた。


 いったいあの後何があったんだ?私はその事をひたすら考えていた。


 健一の母親にどうして健一がこうなってしまったのか話を聞いてみたが、こんな事があってすぐの事なのでまだ状況が自分でも呑み込めていないようだった。


 それ以上私は健一の話を聞くことが出来なかった。


 葬儀の時棺桶の中は見る事が出来なかった、恐らく健一の友達、省吾と同じような状況なのだろう……




 式場から戻った私はポストの中に何か手紙が来ている事に気付いた。


 手に取ってみると私宛のようだ、宛名には『啓太』と書かれている。


 手紙を手に私は部屋に入り中身を確認した、そこには口に出すのも恐ろしくなるくらいの内容が書かれていた。


 内容は私の死にざまが刻銘に記録された予言書だった。


 その時私はわかった、次は私の番なんだと……


 私はこの内容を記さないといけない、そう思いブログにこの内容を書き記すことにした。


 誰か、私を助けてほしいという気持ちと、これ以上犠牲者を出したくないという一心で……


 以下に私の受け取った手紙の内容を記す。この手紙の内容を読んでこれ以上他に犠牲者が出ない事を祈りつつ。


そして私がどういう死に方をするかをこれを見た他の人が解ってもらえるように……





























                                       

 』




 以上が私の受け取った手紙の内容だ。恐らく私は一週間後には生きていないだろう……どうかこれ以上犠牲者が出ませんように…


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