27. 漸進『手段と謎』

「おっ。このぐらいでいっかなぁ」


 私はゲーム内にて、森に落ちている枝を拾った。手頃な長さの、ほぼ真っ直ぐに伸びた棒。

 それを右手に握って……念じる。すると握った部分より先に、楕円形に光る板状の物が付与される。

 作り出したのは、『テニスラケット』のようなもの。それを何度か素振りをしてみると、重さや長さがほぼイメージ通りだと、私は満足して頷いた。


 今度は左の手の平に意識を集中させ……ボール大の火の球を生み出す。

 それをサーブトスの要領で、上へ放る。そしてお手製のラケットを振りかぶり――打つ。

 赤く光る残像を残しながら見事な軌道を描き、的に見立てた岩へと命中した。本物ではここまでのコントロール力は持ち合わせてないが、思い通りの動きをしてくれるのも魔法の便利なところだ。


(疲労感は……少し、だけ。……よっし!)


 思わずガッツポーズ。思った通り、私の意識の中で、拒絶反応は起きないみたい。

 相手の攻撃を跳ね返す――打ち返すことに特化した能力になるのかな。そこまで打ち返すことにこだわらずとも、身を守るために弾けるだけでも一先ひとまずは及第点だ。


 そして、この『テニス』というもの。そうバカにできないものだと――むしろ下手したらと私は思っている。

 極めていけば、相手の弱点がスケスケになる『眼力インサイト』を身に付けられたり、空間を削り取る『ブラックホール』を生み出せるようになったりもするってどこぞの漫画で読んだしっ。……ただ『百八式なんちゃら』とかを発動させたりしたら、確実にぶっ倒れるどころじゃ済まなそうだけど。テニスってこわい。


 探索中でもその合間にでも、少しづつ鍛錬して運用や応用を考えていけば、ある程度なら戦えるようになる。……はず。

 頑張ってみよう、とりあえずはこの方向性で。



     ◇     ◇



 本日から少し、探索方法の趣向を変えてみることにした。

 街の周囲をぐるぐる回るのではなく、試しに一方向へ、一直線に突き進んでみようと思った。


(――《天使の翼エンジェル・ウィング》)


 自分で名付けておいてアレだけど……小っ恥ずかしい名称を口に出さずとも、心の中で念じるだけで発動できる程度には慣れてきている。

 目指す方角はー……とりあえず、。今あっちの方から風が吹いてきたからね、こういうのは直感で選ぶ派なのです。


 ……その直感が功を奏したのか、程なくして何かを発見する。


(あれは……村? でも――)


 様子がおかしい。遠目で見ても、なんというか……人が住んでいる気配がない。

 畑だったと思われる場所には、作物でない雑草が生え放題。住居はもっと酷い有様で、屋根や壁は穴が空き放題だった。

 近くに降りて目の当りにすれば、それは確信へと変わる。これは打ち捨てられた村――『廃村』だ。


(魔物に……襲われたの……?)


 その可能性が咄嗟とっさに浮かぶ。が、


(ううん……たぶん、これは違う……)


 直後に首を振る。それにしては妙だった。

 朽ちてはしまっているが、家としての形はしっかり残っている。それでいて中には物がほとんど残っていない。

 もし魔物に襲われたのだとしたら、そんな風になるものだろうか……?

 むしろ何かから避難しようと夜逃げしたり、盗賊に襲われたりしたら、こんな感じになるのかもしれない。

 村をぐるりと一周しても、解明の糸口になりそうなものはない。

 腕を組み、どうしようかと唸っていると――


(あそこにも、何かある……?)


 少し離れた森の中にも何かを見つけた。小走りで近寄ってみれば、これまた不思議な建造物がそびえ立っている。


(建物……? そこまで大きくはないけれど……"神殿"、かなぁ?)


 石造りの柱に囲われ、中央部分には台座らしき物。ここに何かをまつっていたように思える。

 こちら建造物の周囲を見回ってみても、やはり糸口になりそうな物は何も残っていない。


(ようやく何かを見つけた、のはいいけど……余計に混乱しちゃうなぁ……。なんなんだろう、あの村と……この謎の建物は……)


 でも――他の集落や、何かの建物がある。それが分かっただけでも、今は良しとしておこう。

 別の場所にも、何かがあるかもしれないから。そこになら、謎が解き明かせる手掛かりもあるかもしれないから。そう思えば意欲も自ずと沸いてくる。


 翼を生やして、空からの探索――再開。



     ◇     ◇



(うーん……これはまた、おかしいぞ……)


 あれ以降何も見つけてはいない。それでも引っかかることがある。

 簡潔に言えば、何も無い。いや、んだ。

 そう、何故かこの辺りには――


 不自然に、不気味にさえ思えるほど、平坦な草原ばかりが続いている。たまたま……なのだろうか。


(――……うん?)


 ふと正面に広がる風景に違和感を覚える。何やら、ぼやけているような……まるで擦りガラスでも張ってあるかのようだった。

 意図せず徐々に減速をしつつ、傍に寄ってみると――……



 …………びたんっ。



「っ……ぃ、つぅっ~……! もぉっ、なによこれぇ!?」


 減速はしていたとはいえ、謎の見えない――いや、壁に頭から思い切り突っ込んでしまった。ずきずきと痛む頭を涙目で抑える。

 その壁に手のひらで触れて、八つ当たり気味にべしべしと叩き、その強度を確かめてみる。上下左右見渡しても、その壁には穴も切れ目も見当たらない。

 現実にはそんな壁などまず存在しないだろう。ここがゲームの世界であることを前提に考えるなら――


(これ……。まさか、""……?)


 ゲームにおける、活動できる範囲の限界。それ以上先は、ゲームにおいては無関係の地だということだ。

 日はまだまだ沈みそうもない。一直線に飛行してきたとはいえ、それほど時間がかからず、ここまで――世界の端まで到達できてしまったようだ。

 それは、つまり。


(この世界は……あんまり、広くはない……のかも?)


 そのことが今後、吉と出るのか、凶と出るのか。



 ――『後者』。その時の私の直観は、そう告げていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る