第10話 壁画

「なに?ここ……。」

「これは素晴らしいな。」


 相変わらず一本道の洞窟を歩くこと一日半。マルコとエリーは城1つ丸々入るであろう広い空間に出ていた。

 天井も高く、上下左右一面に日光苔が敷き詰められていた。いや、正確には日光苔ではなかったのかもしれない。その苔は今まで洞窟にあった苔とは違い金色に輝いている。

 その光景に2人は言葉を失い暫く佇んでいた。

 空間を見渡しているとマルコが何かに気付いた。


「アレはなんだ?」

「なになに!?なんかあった!?」


 奥の壁面に一部光っていない場所があった。よく見ると何かが描かれているようだ。


「行ってみるか。」

「競争する?」

「せん。」


 3m程の大きな壁画だった。

 下の方には人間らしき絵が無数に敷き詰められており、その上部に羽を生やした男が細長い何かを持っている。というのはその部分が窪んで欠けておりよく分からなかったからだ。

 そのの先から稲妻のような物が出て下の人々に降り注いでいる。


「わぁー!すっごい!カッコいい絵だね〜。」

「そうか?それにしてもこれは何の絵なのだろうな。」

「さぁ?でも似た絵なら私のお城の地下にもあったよ。羽生やしてるのが男じゃなくて女の人で手にしてるのも丸いやつだったけど。」

「ほぉ?そういえば魔王城にもあったな。そっちは鎧を身につけ、窪みの所は剣の形をしていた。細かいところは覚えていないが。」

「へぇ〜。なんかそれぞれ繋がりがあるのかもね。」

「そうかもしれんな。平和になったら調べてみるのも面白いかもな。」


 そう、謎の壁画に思いを馳せているとエリーが突然周りを見渡し始めた。


「ね、ねぇマルコ。」


 エリーが恐る恐る口を開く。


「どうした?またなんか見つけたか?」

「いや、むしろその逆というか……ここ行き止まりっぽく無い?」

「……嘘だろ?」

「だって入ってきたとこ以外行けそうなとこないよ?」


 マルコもゆっくりと辺りを見渡す。金色に輝く日光苔しか目に入らない。光が欠けているのは壁画と入り口の部分だけだった。


「2日歩いたんだぞ!?戻れっていうのか!?」

「私に言われても困るよ!最初に左選んだのマルコじゃん!」

「……た、確かに。すまん。」


 それを言われるとぐうの音も出ない。


「戻るか。」

「そうだね。」


 2人は元来た道を戻る事にした。長く退屈な道は行きよりもとても長く感じた。


 2日後。


「おい、分かれ道に戻って来たぞ。」

「へ?あ、本当だ。」


 ようやく最初の別れ道に戻って来た。振り出しに戻るとはこの事だ。


「今度は右だな!こっちが正解だな!行くぞ!」

「うん!そのはず!行こう!今度こそいざ魔王城へー!」


 これまでの大きなロスを忘れるかのように改めて気合を入れ直す。

 右の道を歩き始めたった10分程経った頃2人はウッドへの愚痴を言い合っていた。


「まったく!別れ道があるならなぜ説明をしない!」

「本当だよね。帰ったら殴る。」

「意見が合うな。最低50は殴らねば気がすまん。」

「じゃあ2人で100だね……ってマルコ!なんかあるよ!」


 エリーが指をさした先には鉄の四角い箱の様な物が目に入った。


「あれは……トロッコではないか!!あんな物があるなら尚更なぜ先に言わんのだ、ウッドの奴は!!」


 ちょうど2人乗れそうな大きさのトロッコは


「そんな事より早く乗ろうよ!きっと出口まで着くやつだよ!」


 とりあえずトロッコに乗り込むと足元にペダルが見えた。


「ふむ、これは魔力を込めながらペダルを踏み込むと動き出す仕組みの様だな。どこかにしっかり掴まっておけよ、そこそこスピードが出そうだ。」

「分かってるって!早くだして!」

「よし!行くぞ!思いっきりスピード出すからな!」


 思いっきり魔力を込めてペダルを限界まで踏み込んだ。トロッコはゆっくりと動きだしドンドンスピードを上げて行った。


「おぉー動いたよ!マルコ!って……ちょーーー!!!は、は、速い速い!早すぎる!!」


 トロッコはとんでもないスピードで走りだしていた。この乗り物があれば石版までの道も2時間もせずにたどり着いていただろう。


「はっはっはっはっ!気持ちが良いなこれは!もう少し加速出来そうだ!」

「速すぎるってーーー!止めてーーーー!!」

「ん?さっきから何か言っているか?風の音でよく聞こえん。」


(し、死ぬ!!落ちたら死ぬ!絶対死ぬ!)


 そこから更に少し加速し約4時間が経過した頃、トロッコのスピードが落ち始めた。


「ん?スピードが落ちて来たな。どうなっている。」

「はぁ、はぁ、はぁ……。」


 エリーはしゃがみこみ床に這いつくばって息を切らしていた。


「お前何をしている。勿体ない。外に顔を出していた方が気持ちが良かったものを。」

「あんなスピードで石ころでも頭に当たったら死ぬっての!!!」

「……そう言えばお前はそうかもな。這いつくばっていて正解だったな。」

「いつかぶっ飛ばしてやる……。」

「いつになるかな。」


 トロッコは更にスピードを落とし遂には止まった。線路がここまでの様だった。


「ふぅ。こっからはもう外も近いだろう。ようやく外の空気が吸えそうだ。」


 マルコは飛び降りると早速歩き出した。


「ま、まって……ちょっと……。」

「早く降りろ。行くぞ、ちんたらするな。」


 そう厳しく声を掛け前を向き再び歩き出そうとすると、後ろからおどろおどろしい気を感じ背筋が凍る。


「あのさぁマルコ?待ってって言ってるよね?」


 なんだかエリーがとんでもなく怒っている様だ。いつもと違い冷静なのが逆に怖い。


「ど、どうした?す、座っていたのに疲れた訳ではあるまい?」


 恐る恐る聞いてみる。


「は?私は座ってたんじゃなくてずっと床にしがみ付いてたの。誰かさんと違って頑丈じゃないですから。死んじゃいますから。何度もスピードを落とせと言ってたのにむしろスピードアップさせるし。つかなんかずっと偉そうだよね。そりゃ急がなくちゃいけないのは分かってます。でもあんたのペースに合わせるの大変なんですコッチは。つかそもそも最初の別れ道私が合ってたよね?なんかお詫びとかないの?あそこも無理矢理自分の意見通したよね?それに……。」

「わ、分かった!すまん!ちょっと休憩にしよう!」


 エリーはもっと言いたそうだったが、無理矢理遮り休憩する事にした。


「身体中痛くなっちゃったよ〜。」

「この3ヶ月の修行でお前は普通の人間よりも丈夫になってるはずだぞ。多分石くらい当たっても平気だったと思うが。」

「試しに当たってみれば良かったっての?」


 冷たい目線が飛んで来た。


「い、いや、何でもない。か、缶詰でも食うか。」

「うん。」


 休憩がてら腹ごしらえをする事にした。


(確かに考えてみたらコイツは勇者と言えど普通の人間なんだよな。ついつい自分のペースで進んでしまっていたが流石に俺に付いてくるのは大変だったかもな。)


「何こっちみてるのよ?どうせ食べ物食べれば機嫌なおると思ってんでしょ?」

「いや、済まなかった。お前の事を考えていなかったよ。これからは俺のペースじゃなく、のペースで行こう。」

「う、うん。わかれば良いのよ……。」


(なんマルコってちょくちょく突然素直になるのよね。)


 缶詰を食べ終え再び動き出す事にした。

 しばらく歩くと、目線の先に日光苔の生えていない大きな岩が道を塞いでいるのが見えた。


「おい!見ろ!岩が道を塞いでいる。これが外に通じる出口に違いない。」

「やった!!早く出よう!」


 エリーは出口に駆け寄り思いっきり岩を押した。しかしピクリともしない。


「ねぇ。動かないんだけど。」

「まぁ、任せろ。ふん!」


 マルコが体に魔力を込めると体が一回り程大きくなった。


「おぉーゴリマッチョになった。」

「よっと。」


 ズ、ズズッ


 岩を押すと動き出し、外の冷たい空気が流れ込んでくる。


「やった!!外だ!!」

「さて、出るか。」


 外に踏み出すと鬱蒼とした森が広がっていた。


「で、どっちに行けば良いの?」

「……お前の勘に任せる。」

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