四品目『人気トラットリアの過去』(3)
当時の私は今ほど強く無かったので、それはそれは手こずりました。私も大怪我、グリズリーも大怪我、いつもイーブンで死合は終了していました。
「あえての死合…そしてグリズリー相手に引き分け…なんで生きてるんだこの人…」
本当に、カトマイのグリズリーは比較的穏やかと聞いて行ったのにとんだ災難です。その頃の私は主に全身で戦っていた上に、高速解体も効かない相手ですからね…。どうしようかと毎日ベースキャンプで傷の手当てをしながら悩んだものです。
そんな折でした。料理長と出会ったのは。
「まさかのカトマイで!?」
はい。出会いは衝撃的でした。ある日、私がいつものサーモンの遡上を捕える練習をしていた時です。
川を挟んだ向こう岸に、グリズリーが現れたのです。ああ、これはいつものパターンかと思い身構えたときです。その背後に、人間が現れたました。勿論、毎日私に餌場を荒らされているグリズリーは怒ります。その人物に襲い掛かりました。
しかし、次の瞬間です。鈍い音がしてグリズリーのどてっぱらに風穴が空いたのです。
私は戦慄しました。どこの誰が絶滅危惧種に指定されているグリズリーを屠ったのかと。
「戦慄するとこ違くないすか?」
まぁ、聞いて下さいよ。その空いた穴から見たことも無いパッション色の触手が生えていたら、ニンゲン誰しも正常な思考なんてできないと思いません?
つまり、その対岸でグリズリーを仕留めた人物、それは料理長だったのです。
「ここで料理長!」
そしてその触手が引き抜かれ、グリズリーは倒れ伏しました。私は一瞬身の危険を感じ…そして。
「料理長とまさかの…!?」
いえ、サーモンの遡上を捕える方法を会得しました。
「なんで!?」
だって、料理長その場でグリズリー食べ始めたんですもん。私、眼中になしですよ。
それまでにかなり腕の筋力も付いて、スピードも最速を得ていたんです。グリズリーに邪魔されないその時こそがチャンスだったのです。面白い様にサーモンを捕獲しました。その夜はサーモン祭りでしたね。二人で盛り上がりました。
「え?二人?」
ああ、グリズリーを仕留めて食べ終わった料理長が、触手全開で私に襲い掛かって来たんです。
だから、返り討ちにしました。
「当たり前がごとく!?」
料理長の見た目はただのニンゲンですからね。ニンゲンのどこが急所か、どこをどうすれば動けなくなるかは熟知しています。…と言うか、面白い様にサーモンを捕獲している私に襲い掛かったのが運の尽きです。手が塞がっていたので思い切り金的を蹴り上げてやりました。
さしもの料理長…この時はただのモンスターですけど。料理長も三十分くらい動けないで居ましたね。
その時悟ったんです。ああ、私、足技で生きていけるかもしれないと。
「悟るとこ違くねぇすか…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます