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はじめて月虹に会ったのは、中学三年になったばかりの頃だった。
図書館から借りてきた本はSFで、私をすっかり受験生扱いの母に見つからないよう、押入れに電気スタンドを持ち込んで読んでいたのだ。
子供の頃、おしおきに入れられた場所が私の居場所になっているなんて少しおかしいのだけれど、そこに入りさえすれば安心できた。
なぜって、私は一人部屋がなくて、一人になれる場所といったら、トイレか押入れしかなかったから。トイレにこもると迷惑だから、押入れにこもっている。ただそれだけで、そこが好きだったわけじゃない。
その日、押入れでついついうとうとしてしまい、寝込んでしまったのだ。
そして、
気がつくと、私は真っ赤な砂地に立っていた。
所々、ごつごつとした岩が顔をだしている荒れたところだった。草も木もない。
空は鮮やかなほどの漆黒で、星は降ってくるようだった。地平線まではっきりと見えて、思わず怖くなる。
私は誰かに呼ばれたような、そんな気がして、ふらふらと歩きだした。その人に会わなければ……と、なぜか思い込んでいた。
緩やかな丘陵の上から、丸い巨大なドームが見えた。野球場のドームに似ているが、百倍も大きいだろう。やや透けたドームの内側には、薄っすらと建物の影が浮かぶ。
そこだと感じた。
感じたとたん、私の意識は急にくるりと回転し、あっという間に飛んでいった。
「やっと来たね!」
それが私にはじめてあった月虹の言葉だった。
やっと……なんて、ものすごく奇妙に感じた。
それに、はじめて見た少年の姿は、ぎょっとするほど変わっていた。
髪が白くて目が赤い。たぶん、アルビノ……っていうのだろうか? 目鼻立ちが日本人ではないのだけれど、言葉はまったくの日本語だ。
なくし物を見つけたように、彼はものすごく喜んで、私の手を取ると上下にふった。
何が何なのかわからなかった。
だって、私は、ドームの外にいたはずなのに……。
「これは夢?」
そう思ったとたん、彼は「え?」というような悲しい顔をしたのだ、と思う。
思うって……。
もう、私はそこにはいなかったから。
SFの本を開いたまま、眠ってしまったままの姿で、押入れの中にいたのだから。
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