ずっとずっと追いかけてきた男の子の幼馴染〜その彼と両片思いだった!?〜
夏乃実(旧)濃縮還元ぶどうちゃん
第1話 先輩と同じところに
わたしには……ずっとずっと想っている一つ年上で、幼馴染の男の子がいます。
その男の子を好きになったのは、小学2年生の頃からでした……。
だって、わたしが心臓の病気で入院している時に、毎日話し相手になってくれたから。
『手術に成功したら、一緒に学校に行こうな』
『大丈夫。もし、つむぎがイジメられたら、その時は絶対に助けるから』
『友達ならいるだろー? お前の目の前に』
その幼馴染は、毎日わたしを励ましてくれたから……。
一人で退屈しているわたしに、一人で心細かったわたしに、毎日毎日押しかけて来て……本当に迷惑で、迷惑で……一番嬉しかった。
わたしはその幼馴染のおかげで、明るい気持ちのまま手術日まで迎えられ……手術は無事に成功しました。
その後、特にいじめられることもなく、小学校も中学校も高校も楽しく卒業出来た。
でも、学校を楽しめても……わたしがその学校を卒業する年の一年間は、一番辛い年になります。
だって……その年になれば、大好きな幼馴染がわたしより、一年早く卒業しているんだから。
好きな人と一緒に登下校をする。そんな当たり前だった日常も去っていくんだから……。
わたしの好きな人は一つ年上。
仲良くしても、距離を縮めようとしても、追いつこうとしても……結局は追いつけない。
一年の差は小さいようでとても大きいのです。
どんな努力をしても、同じクラスにはなれない……。
一緒に笑い合いながら卒業は出来ないのだから……。
ーー小学校の頃からずっと、ずっと……その思いを溜め込んで過ごしてきた。そう思い込んでいた。
でも、今。わたしの目の前には、ありえない光景が映っていた。
「な、なんでカズマがここに……」
「……それは俺のセリフなんだが、
わたしは
茶色に染まった短髪に、少しだけ鋭い瞳。高身長で整った容姿。
『怖い』『近寄りがたい』そんな雰囲気を持ち合わせる和馬だが、わたしはなんとも思わない。
だって、カズマはわたしの病室に訪れて、毎日励ましてくれたから……。ずっと、ずっと追いかけてきた大好きな人だから……。
「こ、こんな所にいるって……ここは一年の教室だし。カズマの教室は違うでしょ?」
「それが……」
「あ、『可愛い後輩誰が入って来たかなぁ〜』っていう偵察かー。べ、別にわたしそんなコト気にしないけど……さ」
「……んなわけないだろ」
「じゃあ、なんで一年の教室にいるのか教えてよ」
わたしは疑惑の目でカズマに視線を送る。
「留年……したんだよ」
カズマは声のトーンを落とし、ボソッと呟く。この教室には和馬とわたしの二人しかいない。
「え? えっと……?」
「だから……留年」
「えっ……り、留年って……ぷ、ぷははははっ」
「笑うんじゃねぇよ」
(や、やばい……。嬉しい……嬉しすぎるよ……)
不謹慎な気持ちを抱いていることは分かっている。でも……仕方がなかった。
同じ学年に、そして同じクラスになれたのだから。
そして、上手くいけば一緒に卒業が出来るのだから。
それは、わたしがずっと夢見てきたこと……。もう、悲しい思いをしないで良いのかもしれない……。
だから、しょうがないのだ。
「あ、あはははは。やばいっ……。笑いすぎて涙が出てきた……」
「あのな、今の発言に笑える要素は一切無いと思うんだが。……もしかして、お前は俺にケンカを売りに来たのか」
「そんなのじゃないっ……ぷははっ」
「そろそろぶっ飛ばすぞ」
カズマは声色に怒りを含む。でも、からかわれることは承知していたことなのか、話をすぐに逸らした。
「はぁ。……それより、なんで
「……わたし、将来の夢がまだ決まってないから、とりあえずは普通科の大学に進もうかなーって。それでこの大学を選んだの」
そう、これはただの口実。
わたしはカズマがこの大学に通ってることを知っていた。知っているからこそ、いっぱい勉強してこの大学に進学したのだ。
(カズマを追いかけて来たなんて……言えないから……)
「なるほどな……」
「それより! 一年振りに再会したわたしに何か言うことないの……?」
一年振りの再会。それだけじゃない。
わたしは髪型も変えて、オシャレも勉強した。
カズマがわたしのことを『可愛い』って見てくれるように。そして、『好き』になってもらえるように。
「言うこと? ああ……これからよろしく。俺みたいに留年すんなよ」
「違うっ! 可愛くなったね。とか、会えて嬉しいよ。とか、わたしのことずっと好きだったんだ! とか!」
「可愛くなったな。会えて嬉しいな。好きだな」
「……もう。どうせ言ってくれるなら、気持ちを込めて言ってくれればいいのに……」
わたしは思わず本音を漏らしてしまう……。
(うぅ、だめだ……。カズマに会って気が緩んでる……)
『大好き』そんな気持ちを隠してても……再会の喜びがそのメッキを剥がしていく。
「ん、言って欲しいのか?」
「……そ、そんなわけないし」
(言って欲しいに決まってるじゃん……。カズマに褒めて欲しいもん……)
本音を堪えるわたしは、教室の窓に視線を寄せて顔を背ける。
「お前は昔から嘘を付くのが下手だよな。まぁ、そこが変わってないようで安心したけど」
「か、カズマは……変わりすぎ。わたしに塩対応になって、ちょっとだけ格好よくなって」
「なんだよそれ」
カズマは何故かそこで照れを隠すように、鼻先を掻きました。
「カズマもわたしに何か言ってよ。……一人だけ言うのは不公平」
「紬が勝手に言ったことだろうが」
「言え、言ーえ。言ってよ。なんでもいいから」
「ったく……」
カズマは呆れたように、わたしに視線を向けーー数秒、数十秒と……無言の時間が続きます。
「そ、そんなにジロジロ見ないで……。恥ずかしいから……」
「……」
「も、もう……。早くなんか言ってよね」
「……可愛くなったな、ほんと」
「えっ……」
わたしは一瞬、なにを言われたのか分からなかった。でも……その意味を理解した
時、頭が真っ白になる。
「はぁあ!? ……い、いいいいきなりなにっ!?」
(こ、これって……告白されてるの!? そ、それともからかってるの!?)
顔から火が出そうなほど熱い……。カズマのせいで赤面してしまってる。
その和馬の言葉には、確かな気持ちがこもっていた。だからこそ、こんなに動揺してしまう……。
「これで俺も言ったし、平等だな。……そんじゃ、俺は帰るから」
今日は大学で講義はなく、説明会があった為に登校しなければならなった。その説明会は昼前に終わり、下校は個々の自由なのだ。
和馬は既に準備を終わらせていたのだろう、カバンを持って足早に教室を去っていった。
「ズルイよ、それ……。な、なんでそんなところは変わってないんだよぉ……」
ボンボンと私物を入れるロッカーを叩くわたし。……ものに当たって冷静を保とうとする。
でも、その時間さえもカズマは取らせてくれなかった。
「はぁ。なんでそんな所でぐずぐずしてんだよ。ほら、一緒帰るぞ」
「そ、そんなトコもズルだよ……」
「……?」
わたしは顔を見られないようにカバンを持って、カズマの横に向かう。冷静になれないわたしに、わたしが望んでいることをしてくれる。
ほんと、大事なところは何も変わっていない。……本当に優しくて、格好いい幼馴染。
(いつか絶対に好きって言わせてやるんだから……。うぅ、覚悟しろお……)
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