第30話  進む道

「紫オオコウモリが飛ばなくなったのは、大陸のあちこちに現れている怪物たちのせいか?」

レオンがロンドに聞く。


「多分ね。こちら側、右の大陸の紫オオコウモリもだが、左の大陸の赤オオコウモリも飛ばないらしい。らしいというのは、コウモリが飛ばないから情報が入ってこないんだ。

コウモリだけじゃない、船もことごとく怪物に襲われて往来できなくなっている。

ったく、どうなってんだこの世界は・・・」


レオンはふと思った。

アスカが男になるために赤い実を食べたのに女になってしまったのは、世界の異変と関係があるのではないか、と。


「あとは、ドラゴンバードが頼りよね。」

食べるのに夢中で話を聞いていなかったかのようだったアンナが言った。


「ドラゴンバード?」

「うん、大鳥よりレアな・・・あ、使いをするコウモリたちは大鳥って呼ばれてるの。大鳥たちが飛べない厳しい場所を飛んでくれるのがドラゴンバードよ。

その名の通りドラゴンに近い種族と言われてるわ。

ただ、とても限られた人間にしか扱えないし数が少ないからすごくレアなの。

マスターに依頼できるのは王族や中央の騎士団の一部ね・・・。」


騎士団、と言う言葉を聞いて、顔がこわばるレオン。


どうしてもアスカを弄ぶジェイドが脳裏によぎる。


「いつの時代も情報が大事なのよ。その日暮らしの旅人なんてやってると特にね。

私たちはこの村で少し稼いだら中央の国に通って、ドラゴンバードの村に行くわ。

レオンはどうする?」


「ボクは・・・」

アスカを追うならジェイドがいるであろう中央の国だ。それにドラゴンバードのことが妙に引っかかる。


それは多分、アスカと旅に出たとしてその噂を聞いたら、きっと2人とも興味津々で見に行っていたと思うから。


「もしよければこのまま、ドラゴンバードの村まで同行させてもらえればと思う。」


アンナは嬉しそうに笑った。

「やった!そうこなくっちゃ!レオンがいてくれたら旅が楽しくなるわ・・・辛気臭いロンドだけじゃつまんないもの。

そうと決まればお金、たくさん稼いで旅の資金にしなきゃね。

何か依頼がないか、酒場に行って聞いてみる!」


アンナは残りの葡萄酒を一気飲みし、肉のパイを口に詰めて慌ただしく席を立った。


ロンドは2本目の葡萄酒を開ける。

「ホントにあいつは落ち着かないやつだな」

「・・・2人に助けてもらって、旅に同行させてもらって、本当に感謝してる。

しかし、ボクにはお金がない・・・どうやってお礼すればいいか・・・」


それを聞いて、ロンドは鼻で笑った。

「は、煉獄の剣を持つ勇者さまが何を言ってるんだか。

お前その意味を全く理解していないんだな。


いいか、お前は世界を救うんだぞ。


その気になれば、王侯貴族誰だってお前に大枚をはたくさ。


というわけで・・・ま、気にするな、依頼は手伝ってもらうことになるだろうし、そのうち何倍にもして返してもらうさ。


しばらくは旅を楽しもうぜ」


レオンは腰に付けたままの煉獄の剣をそっと触った。



一方アスカとクラウスは、長い地下洞窟をやっと抜けたところだった。


「こんなに早く地上に出られたのは幸運でした。上り坂があったのでよもやと思いましたが。旅人が洞窟から出られなくなって餓死したという話はよく聞きますので・・・。」

クラウスは2日ぶりの太陽を眩しそうに避けながら言う。


「はい、クラウスさんのおかげです。・・・それにしても、ここはどこでしょう」


辺りは森で、どこかの山であることは間違いなかった。


「虹の谷から流されましたから・・・太陽の方向を考えても、中央の国の近くだと思います。

しかしアスカ様は・・・」


「・・・中央の国に向かうジェイドさんからは逃げたいです。でもボクは・・・どこに行く当てもありません。

これから生きるすべもないんです。

きっと人魚の村に戻ったとしても迷惑をかけてしまうでしょう。

クラウスさん、どこかボクでも働けるところはありませんか?」


クラウスは切ない目をした。

「アスカ様、なにをおっしゃるのです!あなたはただこの私に、何なりと命令して下さればよいのです!

この場所が、私の思う所で間違いなければ、近くに父の領土である町があり、暮らせる屋敷もあります。そちらにお連れいたしましょう!」


アスカはお礼を言って頭を下げた。

今はクラウスを頼るしかない。いつか一人で生きていけるようになるまでは・・・


しかしクラウスは密かに考えていた。


一生、アスカをその腕の中に捕らえておける方法を・・・。





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