第18話 大学3回生、4月
4月。
入学から半月が経ち、美雨ちゃんも慣れたようだ。
俺は大学では、サークルには入っていない。
美雨ちゃんもサークルには入らないようだ。
美雨ちゃんが取ったコマは、俺の時間割と似ていて、一緒に行ったり、帰ったりする事も多い。
結局、大学でも、昼とかは俺と一緒にいるし、せっかく頑張って入ったのに・・・また同じ流れになりそうだ。
「美雨ちゃん、意中の人には会えたの?」
「はい!」
会えたらしい。
心配いらないのかも知れない。
「好きな人とお昼一緒に食べたりしないの?」
「あの・・・お昼、良く御一緒しています」
何・・・だと・・・
ほぼ毎日、俺とお昼食べている様な・・・?
「話せた?」
「はい!」
高校の時よりは進んでいそうだ。
意外と順調そうだ。
・・・胸がチクリとする。
「もう、想いは伝えられたの?」
「駄目です・・・自信が無くて・・・今の関係すら失ってしまいそうで・・・」
美雨ちゃんが、目を伏せる。
く・・・健気だ。
やっぱり俺は、美雨ちゃんを応援する・・・!
俺の幸せより、美雨ちゃんの幸せだ。
「美雨ちゃん!」
美雨ちゃんの肩を掴み、真っ直ぐに目を見る。
「は、はい!」
「美雨ちゃん、君の想い人を教えて欲しい。本人には内緒にして、さり気なく成就する様に、動くよ」
美雨ちゃんは顔を真っ赤にして、
「だ、駄目です!お兄さんにだけは教えられません!絶対に本人に伝わります!」
あれ?!
俺、信用無さ過ぎじゃないか?
美雨ちゃんの耳元で、
「じゃあさ、せめて名前だけでも教えてよ」
美雨ちゃんは、くたっと力が抜けた様に、俺に身体を預けつつ・・・
「その・・・誠也です」
「まさや・・・」
漢字は分からないけど、俺と同じ読みだな。
「前に苗字聞いたから・・・朧月まさや、それが美雨ちゃんの想い人・・・」
「ふ、はわああああああ?!」
美雨ちゃんが真っ赤になって、涙目で見上げてくる。
「ちなみに、男?」
「はい・・・」
むむ・・・
と言うか、知り合いに同姓同名の男性っていないんだけど。
美雨ちゃん、俺の交友関係を過大評価し過ぎだ。
「・・・難しいな・・・」
美雨ちゃんはぷくーと膨れると、
「当然です。分からない様に細心の注意を払ってるんですから!分かって貰っては困るんです!」
困るらしい。
「お兄さんこそ・・・その・・・付き合ってる女性とかいるんですか?」
美雨ちゃんが上目遣いに見上げてくる。
超絶可愛い。
「居ないよ」
美雨ちゃんの顔が嬉しそうになる。
恋人居ないのそんなに嬉しいですか?!
お仲間意識?
「ただ、付き合いたいと思っている女の子は、いる」
しゅん
振っていた尻尾が下がる様に幻視された。
美雨ちゃんが、手を可愛くにぎにぎさせながら尋ねる。
「あの・・・どんな奴ですか?」
奴?!
「そうは言っても・・・」
告白のチャンスでは有るのかも知れないけど。
断られるのは確実だ。
そうなれば・・・今の生活は崩れてしまう。
美雨ちゃんの両親や、妹の信頼も裏切る事になる。
「ごめん。美雨ちゃん・・・君にだけは、言えない」
「・・・そうですか」
ごめん、美雨ちゃん。
せめて・・・美雨ちゃんが一途に想っている、意中の人との件が片付けば・・・
「あの・・・あの、背丈とか・・・髪の色とか・・・!」
そのくらいなら・・・
「背丈は、丁度美雨ちゃんくらいだね。髪は・・・美しい雨、って名前の通り、透き通った青の、流れるような奇麗な長髪だね」
「うう・・・キャラが被っている気がします・・・」
恨めしそうに、美雨ちゃんが言う。
そりゃ本人だからね!
「あの、あの・・・名前、教えて下さい!」
駄目に決まってるでしょ?!
美雨ちゃん、本人じゃん。
絶対にばれる訳にはいかない。
「美雨ちゃんには教えられないよ」
「うう・・・」
美雨ちゃんが悲しそうな声を出す。
・・・ひょっとしてあれか。
俺と同じで、応援してくれようとしたのだろうか。
美雨ちゃんは、俺の目を見つめ、
「私・・・負けませんから!」
宣言する。
・・・これは・・・どっちが先に恋人を作るか、勝負、的な?!
いや、美雨ちゃんが意中の人と結ばれた時点で、俺は自動的に失恋だからね?
「俺は・・・負けても良いと思っているよ。俺は、美雨ちゃんの方が大切だから、ね」
俺はそう言うと、そっと美雨ちゃんを抱きしめた。
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