第14話 高校3年、2月

2月。

受験に向けて最後の追い込み。

模試?の様な4択試験は終わって、それはそれなりに取れた。


今日重要なのは、勉強ではない。


今日は2月14日。


そう。


バレンタインデーだ。


去年は美雨ちゃんくれたけど・・・今年はくれるのだろうか。


美雨ちゃんは、数日前も天使ぶりを発揮していた。


部活での出来事。


卒業シーズンだからか、3年生が受験だからか・・・

最近、みんなお互い警戒する様な雰囲気だった。

それを見兼ねたのだろう。

美雨ちゃんは、軽いチョコの焼き菓子を焼いてきて、みんなに配ってあげたのだ。


食べた人は、涙を流して喜んでいた。

そのまま、ふらふらした足取りで帰宅してしまった人も居た。

家に帰ってゆっくり食べたかったのだろう。


勿論、俺も貰った。

つい、大声を出して喜んでしまった。

だって美味し過ぎるのだ。

仕方が無い。


美雨ちゃんを抱き締め、やっぱりお嫁さんにしたい、と叫んだのだけど。

美雨ちゃんには、


「駄目ですよ、先輩。毎日お菓子作ったりはしませんからね。ちゃんと栄養管理はしっかりします。お菓子はたまに食べるから美味しいんです」


と、軽く流されてしまった。


美雨ちゃんのお菓子、本当に可愛くて美味しいんだよね。


この前も、代理で出場したお菓子大会で、優勝。

決勝戦で破れたプロのパティシエって人が、土下座して弟子にして欲しいと頼み込むハプニングがあった。

美雨ちゃんは、ぺこぺこ健気に謝って断っていた。

本当に天使。


尚、その後将来の夢を聞かれて、真っ赤になって、


「・・・お嫁さん・・・です」


って答えて、見ていた男女問わず、萌え死にさせていた。

可愛かったけど・・・正直、羨ましいと思った。


収拾がつかなくなりかけたので、俺が出て行って、美雨ちゃんを回収した。


そんな訳で、今日。


去年は、部の女の子達が示し合わせ、演劇風に一人ずつ、チョコを渡して去る演出をしてくれた。

好きです、派と、チョコ貰えなくて可愛そうだから義理派の、2種類がいた。


今年は、部の女の子からは貰えなかった。

多分、飽きたのだろう。


そして・・・


「せーんぱい!今年のチョコ、受け取って下さい!」


くれた!


「有難う、美雨ちゃん。今年はくれないのかと心配したよ。有難う!」


チョコを受け取り、美雨ちゃんを思わず抱きしめる。


「すみません。荷物になるかと思いまして、帰りに渡そうと思ったんです」


申し訳無さそうに苦笑する美雨ちゃん。


「有難う。でも、ちょっと不安になってしまったよ」


美雨ちゃんはくすりと笑い、


「大丈夫です。毎年チョコを渡しますよ。先輩がおじいさんになっても、です」


本当に美雨ちゃんは優しい。

親友の兄というだけでここまでしてくれる。


そういえば・・・


「美雨ちゃん、本命チョコはあげたの?」


去年、チョコを受け取る前にふと尋ねたら、まだあげられてないと言っていた。

今年はどうなんだろう。


美雨ちゃんは笑顔を浮かべると、


「はい、受け取って貰いました」


それは・・・良かったと思う半面、ちょっともやっともする。


「なるほど。俺にあげる前に既にあげてたんだね」


美雨ちゃんは赤くなると、


「あの・・・先輩以外にはあげていません」


トンチの様な事を言う。

こういう、なぞなぞみたいなのは苦手なんだ。


「まだ用事有るなら待っておくけど、どうする?」


「いえ、もう用事は無いので帰りましょう」


美雨ちゃんが腕を組んでくる。

そっと頭を撫でると、


「うん、帰ろうか」


結局、チョコは美雨ちゃんから貰った義理チョコのみ。

それでも、欲しい人からのチョコだから。

寂しさは無かった。


ちなみに、凄く美味しかった。

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