漆黒の月影

夏雨

プロローグ「昔話」

「『天災』って、聞いたことはあるかい?」



 眠れないと駄々をこねる孫の枕元で、白い髭を生やした老人は静かに口を開いた。


「なにそれ?初めて聞いた!」


 少年は目を輝かせ、木製の古いベッドから身を乗り出して問いかけた。

 少年は寝る前のこの時間が好きだった。祖父は毎晩のように少年の知らない世界を教えてくれた。


 これまた古い木製の、少し動くとギシギシと音を立てる椅子に座っている老人は、満足そうに微笑むと話を続けた。


「これは昔から、ワシが生まれる前から語り継がれている話でな、この世には『天災』と呼ばれる人間がいたそうじゃ」


「それでそれで?」


「その『天災』と呼ばれる者達は、みんな何かしらの特別な力を持っていて、その力で人々に災いをもたらすと言われていたんじゃ」


「怖いね、そんなの本当にいるの?」


「いないさ、ただの言い伝えじゃよ。そしてその『天災』達は、生まれてきただけで悪とされ、命を狙われたそうじゃ」


「そんなの酷いよ、生まれてきただけなのに!その人達はそんなに怖い力を持ってたの?」


「詳しいことは忘れてしまったが、確か、炎や水、風などを操る力だったような……」


 老人はポリポリと人差し指で頬を掻きながら、古い記憶を探る。


「それじゃ僕達と変わらないよ、僕達も『天災』なの?」


 少年は手の平からぼうっと火の玉を出現させて尋ねた。ほこりを被ったランプの小さな光しか無かった寝室が、微かに朱色に染まる。


「ああそうじゃ、思い出したわい。『天災』は、ワシらと同じような力の他に、常人には全く理解できないような力を扱えたそうじゃ」


「なにそれなにそれ!教えて!」


 少年は完全に体を起こし、話に食い付いていた。


(しまった、これじゃあ当分寝そうにないな……)


 老人はふぅ、と息を吐くと再び話を始めた。

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