灰色勇者召喚〜クズな努力家はそれでも勇者〜

プラネタリウム

第一章

プロローグ


群馬県立長東高校。

そこは群馬県でもトップレベルの高校である。二年生、その学年には二人の中心人物がいた。

疾風 悠人はやて ゆうと高宮 湊たかみや みなと。悠人は黒髪黒目の爽やか系。湊は少し茶髪の入った髪にブラウンの目のクール系。

眉目秀麗、文武両道、性格イケメン。

当然、二人とも毎日のように告白される程モテていた。ただ、少しだけ湊の方が人気があったのだが、それには理由があった。


実はこの二人は幼馴染で、周りから似た者同士だとよく言われてるが、実際は違う。眉目秀麗、文武両道、そこまでは一緒。だがこの二人、性格は正反対なのである。その事実を知るのは高宮 湊ただ一人……



「あ、高宮くん! おはよう!」



「おはよう、七星さん。今日も風紀委員の仕事かい?手伝おうか?」



「え、えぇ!? 悪いよ〜……でも……お願いしたい……かも……」



「了解。一緒に頑張ろうか」



「う、うん!」



これは朝、教室に入った時の湊の様子である。湊に声をかけられた女子生徒は、手伝ってもらうのは悪いと思ったが湊と一緒に仕事が出来るチャンスと思い直したようだ。

たしかに性格イケメンである。風紀委員の女子生徒は顔真っ赤で湊の顔を見れていない。周りで見ている女子生徒も憧れの眼差しを湊に向けている。誰がどうみてもイケメンな行動であることに違いはない。しかしこの時、湊の行動は全くもって善意からしたことではなかった。



(他のクラスの子も見てる見てる! 今日も俺の評価アップだな!)



これが湊の感想。


そう、湊は悠人と違い、一つ一つの行動を計算しているのだ。周りへの評価を上げるために……


ーー自分の評価を上げるためなら周りを蹴落としても構わない。そのせいで他のヤツが困ろうと知ったこっちゃない。それが高宮 湊という男の本質だった。

必要あらばイジメられっ子を庇うこともする。自分に害があるなら周りをそいつにけしかけてイジメさせることもある。


高宮 湊は努力家である。ただ、それが普通の人と違う方向に進んだ結果がこれ。湊は今の現状に満足していた。なぜなら、おそらく自分が最もこの学園で人気があるとわかっていたから…………



ーー(努力は報われるんだよ。俺の現状がその証拠だ………)ーー



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



ーー放課後、湊は今度は美化委員の手伝いをしていた。自主的に教室を掃除すれば教師からの印象もよくなるので、湊は美化委員の仕事は毎日手伝っている。クラスの委員は男女で二人ずついるが、湊は当然女子生徒の方に声をかけた。それから15分ほど掃除を手伝って、だいたいの場所を綺麗に出来た頃、午後4時半のチャイムが鳴ったので片付けを始める。そして美化委員の女子生徒にお礼を言われ、帰る準備をしている途中、教室のドアが勢いよく開いた。



「みなと〜! ……おっ、いた! 帰ろうぜ?」



「ああ、ちょっと待ってて」



「高宮くんお手伝いしてたの? 性格良すぎでしょ!」



「……早くしてね……」



湊はいつも悠人と一緒に帰っていた。今日はどうやら他に二人の女子が一緒のようだ。二人は別のクラスの女子生徒で湊は知らなかったが、向こうは湊のことを知っているようだった。

悠人の後に声を発した女子生徒は茶髪のポニーテールで元気っ子。最後に声を発した愛想のない女子生徒は、黒髪ロングのロリ少女だ。


手伝いが終わり、帰る準備が完了した後、四人で帰ることとなった湊は二人に名前を聞いた。



「君たち、名前は?」



「私は悠人くんと同じクラスの佐々木 比奈だよ」



「……一年の吉田 美月……」



「へぇ〜。吉田さん、一年生だったのか……」



美月は見た目がロリなので、一年生であることにそこまで驚くことはなかったが、湊は何故一年生が悠人と一緒にいるのかが気になった。湊が知っている限り、悠人は誰かと付き合ってはいないはずだったのだ。情報収集は人気者になる秘訣の一つなのである。


帰り道は同じ方向のようで、門を出た後も一緒だった。湊は周りで手を振ってくる女子生徒に笑顔で手を振り返しながら二人に質問を続ける。



「二人は今日、どうして悠人と一緒に?」



「私は高宮くんのクラスの前で会っただけですよ」



「…………」



比奈はたまたま通りかかっただけで、先程湊を呼びに来た時は会ったばかりだったらしい。どうやら一年生の美月は答える気がないようで、黙秘を続けている。湊は自分がそのような態度をとられることがあまりないので、美月に少し、苦手意識を持ち始めていた。すると、美月の助け舟に悠人が言った。



「悪いな、みなと。美月は俺のいとこでさ、極度の人見知りなんだよ」



「そっか……お前にこんな可愛いいとこがいるとは驚いたよ」



湊はそう言って美月の方をチラ見するが、表情に変化はない。それによって、さらに湊は美月への苦手意識が増してしまった。これは人見知りというより周りに興味がないだけではないのかと、湊はそう思った。

その後も、美月はほとんど会話に参加することはなかった。しかし、比奈の方はコミュニケーション能力が高いらしく、どんどん積極的に会話に参加してきた。


そうして美月を除いた三人が話に花を咲かせて、道の途中の信号で止まっている時、急に雨が降り始めた。



「うわっ!? 不運だね〜。どこか寄ってく?」



比奈が嫌そうな顔でそう言ったその刹那ーー



「ーーうわっ!? な、何!? これ……光って……」



地面から光りが溢れ出てきた。比喩ではない。本当にコンクリートが光り始めたのだ。人間とは、唐突なことに反応出来ないもので、四人のうち誰一人動くことは出来なかった。


ーーーーただ、その時、湊は思った。



(俺、今日の占いで天秤座12位だったな……)



そしてその場から四人の学生が姿を消し、残った彼らの鞄には、冷たい雨が降り注いでいた。

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