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「あれ、もう帰んの?」

「あぁ、理一郎君に小夜子さん。お疲れさまです。これから皆にジュースをご馳走しようかと思いまして」

「ジュースってなんで?いや、嬉しいけどさ」

「私の個人的な人探しを手伝ってくれるお礼ですよ。それにあまり遅くなるといけませんから、もう図書室は閉めて食堂に向かいましょう」


アルバムをしまいながら先生は笑顔で言った。

お礼って、まだ美少女は見つかってもいないのに。

でも早めに切り上げるためでもある。それにジュースを奢ってくれるのは嬉しい。

しかし机の上にずいぶんアルバムが散らかっている事に気付いた。私達の時には三冊だけだったのに、今は十冊もある。これでは片付けに時間がかかりそうだ。


「アルバム、こんなにひっぱり出してどうしたんだ。全然違う年代もあるじゃん」

「あ、それは僕が出したんだ。一応先生の前後三年くらいは見とこうと思って」

「見つかった?」

「……僕の思う『美少女』ってちょっとズレてるみたい」


複雑そうにたすく君が感想を述べた。

美少女かどうかは個人の感覚の問題だ。たすく君がこれはと思う人は、先生達にはなんか違うのだろう。


一方ザクロ君はノートに絵を描いていた。どうやら先生から特徴を聞きながら何度も描き直すようにして美少女を描いていたらしい。


「これは……見事に特徴がないな」

「整った人間は似顔絵にしづらい」


絵は確かに美少女だけど、印象に残り辛い顔をしていた。

ザクロ君の言う通り、美人は特徴がない。だから似顔絵じゃよくわからない。


「でも体型は細め、背は高めなんです。視線とか、比較したかんじそういうかんじで。小夜子さんかたすく君ぐらいでしょうか。あ、髪は長かったはずです」


先生もザクロ君に付き合ってもらううちに細部を思い出す。

私やたすく君ぐらいなら美少女は背が高い事になる。先生は私より10センチ低いぐらいの155センチ。大人の女性としては平均だから、美少女はは平均以上の背だ。

髪は確かに特徴だけど、卒業アルバム撮影時には切ってしまう場合もある。


「後片付け、もう少しかかりそうなんです。だから小夜子さんとリーチ君は先に自販機に行ってジュースを買っておいてくれますか?」

「手伝わなくていーの?」

「こっちは大丈夫です。そちらは自販機まで歩かなくてはなりませんから。お願いします」


先生はサイフから千円札を取りだしリーチ君に預けた。

すてに中等部内を歩いた私達なら、自販機をすぐ見つけられるだろう。

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