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「中等部図書室の怪談はさ、私と加々美が作った怪談なんだ。結構流行ったと思ったんだけど、今こうして図書室に利用者がいるって事はさすがに消滅したのかなって思ってさ」

「……いや、形を変えて残ってるけど。どうして内海さんが怪談を?」

「図書室にはセクハラ教師がセクハラの拠点にしてたんだよ。その教師、仮にSとしておこうか」


さっき聞いたような話だった。

志水先生の言う教師Sと内海さんの言う教師Sは、同一人物である可能性はかなり高い。


「図書室ってさ、家に帰りにくいとか事情を持つ真面目な子達が集まりがちなんだよね」

「……つまりおとなしくて真面目な大人の言うことをすぐ信じそうな?」

「そう」


リーチ君が言い方を変える。それは中等部時代の志水先生の事だ。

友達も家族も誰も頼れなくて、真面目で大人しい。そんな言いなりになりそうな生徒がいっぱいいる場所が図書室だった。


「だからSはそこで女子生徒を物色してた。それを防ぐため私らは怪談を流して、図書室に女子生徒が近寄らないようにしたんだ」


怪談に敏感なのも、それを素早く広く伝えるのも女子だ。

怪談はあっという間に広がって、女子は図書室に近寄らなくなった。

しかしそれは内海さん達中等部に在学中のこと。徐々に作られた噂は消えていくし、孤独な人は噂自体知らない。さらに幽霊自体を信じないのかもしれない。

そんな訳で志水先生はSの餌食になりかけた。


「……どうしてそんな事を?」

「単純に許せなかったからだよ。私、中等部時代男子生徒殴ってゼロ組行きになってたぐらいだし」

「ゼロ組!?内海さんが?」

「加々美もだよ。加々美はいじめられて、私はそれを助けてゼロ組行き」


思いもしない先輩が身近に居た。

まさか二人が中等部ゼロ組だったなんて。

多分この学校の事だから、内気な加々美さんはいじめられて、強気な内海さんはそれを助けるも、学校側はなぜか二人が悪い事にしてゼロ組に送った。

しかしそんなゼロ組だからこそ正義感が強くて優しい人が集まる。

セクハラ教師の話を聞いて、私達の特別課題のようになんとかしたいと思ったのだろう。

そして穏便に解決するため怪談話を流す事にした。そうすれば女子は図書室に行かなくなるから。


「はー、まさか内海さん達がゼロ組の先輩だったとは。気があいそうとは思ってたけど」

「うん。リーチ君って内海さんと似てるよね」

「またそれか。まぁあの行動力は俺も思うけどな……あれ、それはもしかして、例の美少女がゼロ組かもしれないって事か?」


現在初等部ゼロ組の私達はひそひそ小声で考える。美少女とリーチ君が似ていて、リーチ君が内海さんに似てる。そして美少女と内海さんが似ているとも思う。

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