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「っていうか、うちの運動部ってどこもよえーんだよな」


エントランスにあるガラス棚の中は確かにトロフィーがたくさんある。しかしどれもぱっとしない賞で、リーチ君は改めて言った。


「まぁまぁ、優勝しなくたってトロフィーがあるだけ立派だよ。これだって練習しなきゃもらえないし」


私はフォローをいれながらメモを取る。トロフィーがある→朝練してる→朝の図書室に来れない→探し人じゃない。

果てしない調査だけど、そこはたすく君の記憶能力を信じるしかない。


「小夜子は美少女のこと、どう思う?」

「私?」

「なんかひっかかるんだよ。そりゃあ見つけ出したいけど、うまく言えない何かがあるんだよな」

「……私はその美少女、リーチ君っぽいと思う」


リーチ君にも違和感があるらしい。ならば私もさっき感じた違和感を伝えた。

美少女のその行動はリーチ君に似ている。


「つまり俺は美少女だったのか」

「そうじゃなくてね。行動力ある所が似ているの」

「……ドーゾクケンオかな。その違和感は」


同族嫌悪。自分と同じ行動パターンの人を嫌うというものだ。

自分に似ている人を見ていると、自分に似た嫌な部分まで見えてしまうから。


「俺はさ、ちょっと嫌な予感してるんだよね」

「嫌な予感って?」

「その美少女、Sになにかされてたんじゃないかってさ」


言われて、私はその可能性に気付いた。

志水先生は騙されてたけど、普通男教師が女子生徒が話していたところでわいせつ事件に繋がるとは思わない。

Sは周囲の評価はまともだったんだから。


「美少女はSの犯行を知ってたんだ。それも間近に、もしかしたら直接被害にあってたかもしれない。けどその経験からSの思惑に気付いた」

「……そうだったら可哀想だね」

「志水先生もお礼なんて言わない方がいいかもな」


美少女をわざわざ探して過去の傷を開くのはよくないと考えてしまう。美少女は志水先生を助けてくれたけど、自分の事は解決できているとは限らないのだから。


「ま、双方傷つかない程度に調べておこうとは思うんだけどさ」

「うん……」


私が頷いた時、背後から足音があった。中等部の授業が終わってかなり経つのに珍しい、と私は振り向く。

すると見覚えのある長身二人組を見た。


「あれ、小夜子ちゃんだ。どうしたの、中等部にいるなんて」


教師にはとても見えない派手なスーツ姿の男性、加々美さんは私に気付いて声だけで驚いた。

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