2
つまり採点>ゼロ組。
だからゼロ組にはあまり先生がおらず自習ばかり。それでも皆は試験が順調そうなのはどういう事だろう。
自習だって教科書を読んでプリントをやるだけなんて。
「こら、背筋伸ばせよ」
頭の上から私を叱る声がした。リーチ君が椅子に座る私を見下ろしていた。
彼に言われて背筋を伸ばす。いくらテストの出来が悪くても、前向きになるという約束を忘れる訳にはいかない。
「ごめんね。ちょっと落ち込んでた」
「テスト、あんまりできなかったのか?」
「うん……」
リーチ君に率直に聞かれて認める。私ができない事は隠したっていつかバレてしまうだろう。
「そんなにできないって訳でもねーだろ。お前しっかりしてる方だし」
「そうだよ、このクラスなら大丈夫じゃないかな」
リーチ君とたすく君のはげまし。しかしこのクラスなら大丈夫というのは何故だろう。自習ばかりだというのに。
「このクラス、勉強は本当に教科書見てプリントするだけなの?」
「うん。わからないところは先生に聞けばいいよ」
「そこが心配なんだけど」
「塾の個人授業みたいなものかな。自分達でわからないところや苦手を見つけて、あとは先生に教えてもらう。少人数クラスだからその方が効率いいんだよ」
たすく君は簡単そうに言うけれど、苦手だって自分じゃわからないと思う。そして苦手な事ならやりたくないとも思うはずだ。
「ほら、これ次の授業のプリントなんだけど、僕とザクロ君、リーチ君で違うでしょ?」
「あ、本当だ……」
置かれていた次の授業のプリントは、たすく君が算数の文章題。ザクロ君が国語。リーチ君が理科。
多分それらは皆の苦手科目だろう。まさかと思い見てみれば、私は算数の基礎問題だった。
「ただプリントをやらせるだけでも、志水先生は苦手対策してるから」
それを聞いて私は手にしたプリントが汗と涙の結晶のように思えてきた。多分問題自体は市販の問題集を引用しているだろうけど、それでも一人一人選ぶのは大変だ。志水先生、雑用の他にこんな事もしていたなんて。
「だから先生が留守がちでも大丈夫だ。むしろ俺はゼロ組に来てから成績が上がったぞ。クラス一位も取れたんだからな」
リーチ君は胸をはって自慢した。私は素直に感心する。
「すごい。リーチ君がゼロ組で一番なの?」
「あ、いや、一番ってのは本来のクラスでの話なんだ。ゼロ組の一番はたすくだし」
私は意味がよくわからなかった。それを見かねてリーチ君は説明する。
「おさらいテストは順位や平均が出るだろ。俺達はゼロ組で勉強してるけど、順位が出るのはザイセキしてるクラスなんだよ」
「在籍?」
「一応ゼロ組ってのは一時的なものなんだ。だから皆、名簿だけは元のクラスにある。小夜子は多分川崎先生のクラスな」
「……そっか」
そう言えば私もゼロ組に入ったのは急だった。
この学校は三年と五年になる時にクラス替えをする。なのにすぐ対応できたという事は、通う教室が違うだけだからだ。
多分私の成績をつけたり三者面談をするのは川崎先生だろう。それを思うと気が重い。
「元々ゼロ組ってのは『存在しない』って意味だからな。でも存在しないはずの奴らが本来のクラスで一位とるってのは、びっくりするだろ。だからユカイ」
少し性格の悪そうな笑みを見せるリーチ君。
しかしわからなくもない。クラスメイトからして見れば『今回一位は誰だ?』『お前か?』『いないじゃないか』と大騒ぎになって、『まさかゼロ組のアイツか?』なんてなっているとしたら、なかなかに爽快な事だろう。
「小夜子には家庭科がある」
今日やっと聞いたその声はザクロ君のものだった。相変わらずのキツネのお面でその言葉の真意はわからない。
「そっか、家庭科か。お前そういや料理上手だってねーちゃんも言ってた。家庭科は小夜子に任せようぜ!」
リーチ君も納得しているが、いまいち話が掴めない。
確かに前に事務所の契約をした時、時間が余ったから蘭子さんに手料理を振る舞って、それを絶賛されたけど。
「調理実習だよ。うちは体育とか音楽は俺らで教えあってんだよ」
「え、なんで?先生は…………留守がちだからか」
聞いてから自分で答えに気付く。
志水先生が留守がちだからこそ、実習科目はプリントだけとはいかず、生徒達で教えあう事になったんだろう。
「工作と体育がザクロで、音楽は俺が教えてる。ただ家庭科は皆出来なくてな」
「え、ちょっと待って。ザクロ君が……?」
「工作と体育。こいつ見た目通りすばしっこいし、手先が器用で彫刻とか得意なんだよ」
リーチ君の友達自慢にキツネ面の向こうでドヤ顔しているようなザクロ君。
確かにこの小柄な体型は運動が得意そうだ。
キツネのお面だって手作りらしいから手先も器用に決まってる。そういえばこの前、『刃物の扱いが得意』と聞いた事がある。
その刃物とは彫刻刀の事だったらしい。
「それでリーチ君が音楽……」
「おう。俺は昔色々習わされてたからピアノひけんだ。意外だろ」
「それで私が、家庭科?教えるの、皆に?」
「ほんとは志水先生に教わるのが一番なんだろうけどさ、先生が留守がちで実習は危ないし、場所使うから確実にしたいだろ。だから俺らですぐ対応しやすくするってだけ」
「あぁ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます