宛先のないラブレター
さくら
拝啓
また夏がやってきました。
この季節になると毎年あなたの事を思い出してしまいます。お別れしてから10
年以上も経つというのに……。我ながら未練がましいなぁとは思うよ。
だって、仕方ないじゃない。夏の思い出がいっぱいなんだもん。
色々な花火大会に行ったよね。
そこで浴衣を着てはしゃいでいたわたし。慣れない下駄で足の指を痛めちゃっ
て、おんぶをねだったら苦笑いしながらもしてくれたね。
あなたも慣れない下駄で足の指を痛めてたにも関わらず。
我慢せずに言ってくれたら良かったのに。でも本当にありがと。
限界を超えて歩けなくなったあなたに絆創膏を何重にも貼ってあげたのを思い
出します。
海にも毎年いっぱい行った!
途中からはあなたが免許を取って車で連れて行ってくれたけれど、電車で行っ
た初めての海もわたしにはすごく楽しかったんだ。
いくつも電車を乗り継いで、最寄の駅に着いてからは数時間に一本のバスをお
互いうちわで扇ぎ合いながら待って、最後にはどしゃ降りのスコールでびしょび
しょになって。
思い出すと散々な目にあってたね。でもそれがなぜかすごくすごく楽しかった
んだなぁ。
この間、偶然あなたが住んでいた場所の近くを通ったら再開発が進んでいて道
に迷っちゃったよ。
あれだけ何度も通った道も変わってしまうんだね。
月日が経つのは早過ぎるよ!
っと、あまり長くなるとまたあなたに長いって言われちゃうから。今日はこの
辺にしときまーす。
追伸
なかなかお墓参りに行けなくてごめんなさい。
最後の時をどうしても思い出しちゃって。
花火の音を聞く度に思い出すの。あなたの余命を聞かされた時の事も。
初めて一緒に行った花火大会と同じ日だなんて。そんなのってないよ。
悪い夢を見ているみたいに花火の音が遠くでぼんやりと響いてたのが今でも忘
れられない。
今でもわたしの中ではあなたと過ごした最後の5分間から時間が止まってます。
集中治療室でほとんど意識のないあなたの手を握ってた。
あなたの体から命が離れていかないように、冷たくなる手をギュッと。
わたしが生きてきた中で一番大切な5分間。
頭の中はごちゃまぜで何を考えたらいいか、何に祈ればいいかわからなかった。
そろそろね、あの5分間から止まったままの時間を動かそうと思うんだ。
わたしにはまだまだ長い人生が残っているんだからね!10年以上止まったまま
で錆びついているかな?
再び走り出すわたしを見守っていてください。
あなたってば、命日もお盆も誕生日も一回も出てきてくれなかったから手紙を
書きました。
LisPonもカクヨムもない時代を生きたあなたへ向けて。
同じ時代に生まれ、出会ってくれてありがとう。
宛先のないラブレター さくら @sakura-yuudachi
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