惨劇! おバカ転生+

猫マイル

第一部 異世界メラリオ

第一章 導かれしおバカたち

1-1 まさかそこから?

「はい、次~。中田なかた烈火れっかさんね~。見事にお亡くなり~? になられて、今転生の面接中~っと」


 真っ白な空間に落ちてきたと思ったらいきなりそんな事を言われた。

 お亡くなりって、いきなり何言ってんの? 俺死んだわけ?


「死んだの。分かる? あー、説明するのメンドい~」


 ギャル系口調でぼやくその人物を見上げる。ブレザー制服を着て、椅子の上で膝を組んでいる金髪のギャルだった。

 どう見ても十六歳くらいの女子高生だ。


「あの、あんた誰?」


 無作法に素性を聞いたら、ちっ、と高圧的に舌打ちをされた。

 あまりにふてぶてしいので、俺はぞっとして軽く引いている。

 ギャルはしばらく黙っていたが、やがて気怠そうに説明を始めた。


「ぶっちゃけ女神なんだけど、今単位落としそうでピンチなわけよ~。これ補習でさ~。ちょっと点数稼ぎに協力してよ、ね!」

「単位? 補習? で、あんたが女神?」


 あははははっ、とせせら笑ってしまった。


「そうなんだよね。ここに来る人大体そんな感じでさ~。あたしだって、本当はアプリとかゲームとかやりたいのにさ、いっそ転生でもしたいな~、とか思う事時々あるよ」

「あははははははっ」


 声を大にして笑ってしまった。


「女神だから無理って話。でさ、今回転生者募集のバナー広告出させて貰って、結構よく釣れてるから後少しで課題クリア出来るんだ。死んだ時の事覚えてるでしょ?」


 そういえば最後の記憶は――


 ああ、思い出した。


 いつも通り高校にも行かないで、朝からパソコンと睨めっこしていた。オンラインゲームの攻略を進めながら、ニュース系サイトを巡回。

 日課と化しているそれ等を、飽きもせずにもう一年も続けている。

 はっきり言って、俺は頭が悪くて学校の勉強についていけない。リアル友人を作る程人付き合いのスキルも無い。


 必然とモニター越しの顔の見えない誰かさんと親しくなる方向にシフトして、今ではネットの友人が百人を超えている。会社員、大学生、フリーター、ニート、うつ病患者と、わけありの方ばかり。


 その中の一人でよくファンタジー系のMMORPGで一緒にプレイしている2ndセカンドブイさんからチャットで奇妙な噂を聞いた。


『クリックすると本当に死ぬ転生者募集のバナー広告があるらしい』


 そして、ニュース系サイトを三つはしごした後、四軒目で何と本当にそれらしきものを見つけてしまったのだ。


『転生者募集! クリック! クリック!』


 いかにも頭悪そうなポップな絵柄の大きめのバナー広告だった。

 俺は一瞬迷ったが、どうせ新作ゲームの宣伝か何かだろうと興味本位でクリックした。

 途端に画面が上から黒に浸食されて、中央で謎のカウントダウンが始まった。


「ウイルス? やっべっ!」


 強制終了させようとパソコンの電源ボタンを押した。

 が、反応無し。


 俺は焦って、電源プラグを無理矢理引き抜いた。

 が、カウントダウンは止まらない。


「嘘だろ? 何だよ、これ……?」


 カウントダウンは後三秒、二、一、ゼロ。


 ピーンと頭に信号音が聞こえ、そして、俺の意識は飛んだ。


「ってな感じだったんだよね? あれって、クリックするとモニターからサブリミナル? 的なものが流れて、心臓麻痺を起こすって仕組みなわけよ」


 得意気に説明するギャル系女神は、まるで悪びれた様子もなく、一枚の紙を俺に差し出した。


「これに確認のサイン書いて」


 俺は紙を受け取って、文面を確認した。

 見た事も無い文字列が突如ぼやけて、見慣れた日本語に変換された。


『私、中田烈火は、女神シャル・シュと契約を交わし、異世界メラリオへの転生を受諾する』


「どうせ死んでるから、拒否れば虚無の世界に行く事になるけど、どーする? あ、虚無って何も無いって事ね。精神も消滅して、生まれ変わる事もないの」


 俺は慌ててサインした。

 死んだうえに消えるだなんて冗談じゃない!


 シャル・シュはぱっと紙を取り上げて、満足げに笑った。


「はい、契約完了っと。一応贈り物を一つ貰えるんだけど……はい」


 シャル・シュがマジシャンのように指を鳴らすと、俺の前にポンと煙が湧いて、その中から三つの宝箱が出現した。


「中身って確認出来るんですか?」

「ん? 出来ないよ。あたしも中身知らないし~」

「おいっ!」


 思わず突っ込んでしまった。


「あたし、契約交わす所までが課題なんで、こっから先のフォロー出来ないの。でも、どれも良い物が入っていると思うよ。


 大抵の転生者はあっちで上手くやってるし」


「あの、そもそも何で転生者なんて募集してるんです?」

「あ、そこ聞く? 意外に頭良い系か……うーん、どうしよっかな……まあ、別に話してもいいか。契約して貰ったし」


 俺はごくりと固唾を呑んで、耳を傾ける。


「メラリオって物騒なとこでさ、あっちの司祭が毎日うるさくご祈祷なんてしてくるから、人を寄越せって上が決めちゃったみたいで、まあ、それっぽく異世界転生でもやって見せれば如何にも奇跡みたいな?」


 詳細に馬鹿な説明をされて、俺は呆れ返ってしまった。


「あたしだってホントはやなんだよ? でも、単位くれるって言うからさ」


「あー、分かった分かった。もうこれでいいや」


 俺は半ばやけっぱちで真ん中の宝箱を開けた。

 中には……棒切れが入ってきた。

 それを拾い上げて、俺はじっと見つめた。

 もう穴が開くくらい目を細めて、棒切れと睨めっこ。


「あはははははははっ! 棒切れとか! 超ウケるんですけどぉ~」


 ギャル系女神が馬鹿受けしている。


 俺は棒切れを握り締めながら睨み付ける。

 握った拳が震えて、歯軋りまで起こし始めた。


「頃合いかな? じゃ、向こうに送るんで、がんばってネ!」


 ギャル系女神が上から垂れた紐を引いた。

 俺の足元がいきなりぱかんと割れて、身体が落下していく。

 白い空間を抜けて、お空に出た。どんどん落下速度が上がっていく。


「バッカ野郎! あの糞ビッチ、覚えてろぉーっ!」


 俺は上に向かって叫んで、何かに激突した。

 というか、埋没してしまったようだった。


「ママーっ! 馬糞に誰かが突っ込んだ~」


 近くから幼女(恐らく可愛い)の声が聞こえたが、今馬糞とか不吉なワードが入っていたような。

 確かにこの芳醇な香りは……臭い。


「うぼはぁっ! ぐおおおおろおおおおっ!」


 俺は馬糞の塊から這い出して、ゾンビ映画よろしくグロい醜態を晒した。


「変質者だ! 早く憲兵さんを呼べ!」


 と、男の声が聞こえて、俺は後頭部をぼかんと叩かれた。


「あー、死んだわ、これ……」


 というかもう死んでるんだわ……これって転生でいいんだよな?

 右手には糞塗れの棒切れが握られている。

 ああ、贈り物で貰った……糞、何で棒切れなんか。


「せめて伝説の剣とかプリーズ」


 俺はそれだけ言って、意識を失った。

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