腰抜け最強勇者が魔王を倒しに行くそうです。

アーモンド

第1話

『ギョェアァア虫ィィィィッッ!?』

『ドワァアァ猫ォォオォオ!?』

『ヒェェエェエエハリネズミィィィィ!!』


……かれこれ18にもなろうという少年が、虫は分からなくもないが猫やハリネズミといった、めちゃんこキュートな動物にビビるなど、この村では前代未聞だった。

ましてそんな稀代のビビりが、勇者として選ばれ魔王を倒しにいくなど、もってのほかであった。

サポートとして巫女も同伴させるが、果たしてこの村から出る事が可能かすら怪しい。


村中の大人達が木蔭からこっそりと見守る中、勇者(候補)として選ばれたメロウは、巫女(見習い)のサナトと共に、村の入口兼出口、【スザク門】の前に立っていた。

いつ見ても厳めしい装飾の門だ、とメロウは思う。火の鳥を模したと村長は言っていたが、メロウにはそれは鬼が眉間に皺を寄せた顔に見える。


「……大丈夫?メロウ」


幼なじみでもあるサナトに、メロウはなるべく心配をかけたくなかった。大丈夫、と一言言って深く息を吸い、バクバクとうるさい心拍を抑え込もうとする。

……やはり怖い。魔王どころの話じゃない。

一歩外に出るだけの事ですら、怖くて仕方ない。

村の中は安全だから、ここにいればずっと平和に暮らせるだろう。

だが一歩外に出れば、化物の跋扈ばっこする異界が広がっているのだ……。


「……やっぱダメだ怖いよサナトぉぉ」

「よしよし、昨日より3センチ外に近づいたよ。大きな進歩だぞ。偉い偉い」


そう、かれこれ1週間これの繰り返し。

もう誰も、メロウに期待していなかった。

サナトを除いて、の話だが。

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