ポニーテールとスキップとソフトクリーム
赤眼鏡の小説家先生
『ポニーテールとスキップとソフトクリーム』
上下にゆらゆらと揺れるポニーテールを眺めながら、額の汗を拭う。
元気に弾むポニーテールは、彼女の機嫌の良さを表しているようでもあった。その証拠に彼女の足取りは軽く、弾むようにコンクリートを蹴りながらスキップをしている。
俺が「何がそんなに嬉しいんだ?」と尋ねると、彼女はポニーテールを揺らしながら振り向き、悪戯っぽく微笑んだ。
「知りたいー?」
「じゃあ、いい」
「あれあれー? さっきの『何がそんなに嬉しいんだ?』は、聞き間違いなのかな?」
彼女は俺の物真似をしながら、楽しそうに空を見上げる。俺も何かあるのかと見上げるが、特に何もない。
「何もないじゃないか」
「雲が沢山あるよ、ほら、ソフトクリーム!」
「そう言われると食べたくなってきたな、暑いし」
「じゃあ、帰りにスーパーで買っていこっ! 6個入りのやつ!」
「そんなに食べたらお腹壊すだろ」
「2個ずつ、はんぶんこねっ」
「ちょっと待て、6個入りなのに、なんで2個ずつなんだよ」
「チョコと、バニラと、ミックスが2個ずつ入ってるでしょ?」
「そうだな」
「君にはミックスを2個あげるよっ」
「それで自分はチョコとバニラを2個ずつか?」
「わたしもミックス2個だよ?」
「俺がミックス2個じゃなかったか?」
「ミックスって、要はチョコとバニラのことでしょ?」
「チョコとバニラを合わせてミックスって言うなよ!」
「じゃあ、さっきの質問には答えませーん」
俺は「やれやれ」と首を振りながら、呆れ顔で「じゃあ、それでいいですー」とくちびるを尖らせた。
「では、教えてしんぜよう」
「キャラがブレてるぞ」
「明日から夏休みだよっ」
「そりゃ、良かったな」
「君は嬉しくないの?」
「そりゃ、嬉しいけど、スキップはしないだろ」
「君とわたしとでは、嬉しさのバロメーターが違うのかねー」
「体全体で嬉しさを表現するのは、小学生までだ」
「わたしに告白しておっけー貰った時に、ガッツポーズをしていたのは気のせいだったのかなー?」
その時の事を思い出すと、背中がむず痒くなり、俺はそっぽを向いた。
彼女はそれを見て、俺の横に移動すると、少し恥ずかしそうに俺の手を取った。俺も黙ってその手を握り返す。
彼女は嬉しそうに、繋いだ手をブンブンと振りながら、「さっきの話しなんだけどさ……」と伏し目がちに話しを切り出した。
「なんだ? ソフトクリームか?」
「違うよ! その、告白の方……」
「どうかしたのか?」
「あっ、ううん、その、わたしもね、その、嬉しかったんだよ…………君に、その……好きって言ってもらえて」
「…………そうかい」
「あー、明日から夏休みかー」
彼女はそう呟きながら、微笑んだ。
「だから、なんで夏休みがそんなに嬉しいんだ?」
「んー、だって君とずっと一緒に居られるだよ? そりゃ、嬉しいでしょっ」
頭の中では、海、お祭り、花火、沢山の景色が次々に浮かんできた。そしてその全ての風景の中で、彼女の笑顔が、真夏の太陽のように光り輝いていた。
ポニーテールとスキップとソフトクリーム 赤眼鏡の小説家先生 @ero_shosetukasensei
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