ゆれるかんざし、薫る花

カゲトモ

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「あっつー」

 その言葉を口にしても一向に温度は変わらないけれどつい口を吐いてしまう。言葉にしただけ温度が低くなればいいのに。そうなれば冬だって「寒い」を連呼すれば適温になるってのに、なんて。

 アイスコーヒーの入ったカフェカップから滴が手を伝って落ちた。本当はアイスクリームとか食べたかったけど、こんなうだるような暑さじゃむしろ溶けてベタベタしそうだからやめた。きっとそれが正解だ。

「ふぅ」

 あぁそれにしても熱い。店のエアコンに入りタイマーをしておくべきだった。きっと店の中も暑いに違いない。どうしてこんなに暑いんだ。冗談抜きに死ぬレベルだぞ。さっさと店へ行ってエアコンのボタンを押さないと。影ばかりを踏んで。

「花菱さん」

 さぁアーケードを出て影を踏もうと意気込んだ時、背後からそんな声が聞こえた。振り返ると浴衣姿の黒髪美女が。

「・・・ミクリさん?」

 横を通り過ぎた時には全く気付かなかった。それだけいつもの黒づくめなミクリさんとは違う鮮やかな浴衣姿だったからか、それとも鉄板のような道へ意識を持って行かれていたからか。どちらにせよまさかミクリさんがこんなに淡い色の浴衣を着ているとは思わなかったから。

「どうしたんですか?」

「そんなに私の浴衣姿は変ですか?」

 べつにそう言う意味じゃなかったけど、もしかして驚きが表情に出てしまっていた? 熱すぎて表情管理できないのさ。

「いえ、とても綺麗です」

「さすが花菱さんですね、とっさにお世辞が言えるのは」

「そんなことは」

「これからお祭りなんです。妹に誘われて」

「へぇ、そうでしたか」

 そう言えば今日だっけ? 歴史的で有名なお祭りは。

「本当は行きたくなかったんですけれど、どうしてもと煩くて」

「ミクリさんも妹は勝てませんか」

「ある意味最強の敵ですよ」

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