苦手な人を好きになるのはダメですか?

浅田 時雨

第1話 面倒な後輩はダメですか?

夕陽が帰宅中の俺の視界を染め上げる。いつもの後輩と通る帰り道。

他愛も無い会話をしていたら、短く返って来た声が急に消えた。

何かと思って振り返ると、後輩の風見かざみ あおいが数歩後ろで顔と短い白髪を夕陽の紅に染め立ち尽くしている。

「どうした?」

俺の言葉の返事は無い。しかし、うつむきながら俺をチラ見している。

どうしたものかと足を止め様子をうかがっていると、風見は顔を上げ深呼吸をすると決心したような顔で言葉の矢を放った。

「先輩!・・・・・私好きな人がいるんです!」

「お、おう、おめでとう」

なんて言えばいい。というか何でそれを俺に言う?

安堵しているのか悔しんでいるのか分からない表情の風見は言葉を続けた。

「そこで先輩に相談したいのですが・・・」

「ああ、なるほど。いや、でも、もっと適任がいるだろ友達とか」

高校二年現在まで、俺、松岡まつおか 悠斗ゆうとは彼女がいない歴=年齢の非リア充にする話じゃない。友達の女子にするべき事だ。風見は悲しそうな表情で弱々しく返した。

「・・・・友達いません」

「・・・・・・・・・・・ごめん」

納得のいく解答を得られたけど、墓穴を掘ってしまった。とにかくフォローしなくては

「・・女友達いなくても、可愛いんだから男の友達作ればいいじゃん」

「・・・・私、男性が苦手でそれを相談しようと思って」

「・・・・・・・・・・・そっか」

相談ってそっちかよ。というか、なんで俺は大丈夫なんだよ。

「ま、まあ大丈夫だ。俺はずっと風見の先輩で友達でいるからさ」

「は、はい、どうも」

えっなんで露骨に嫌そうな顔してるの?確かに格好つけたこと言ったから気持ち悪いと思うかもしれないけどそこまで拒絶反応起こさなくても・・・・傷つくなぁ。

「ところで、なんで俺は大丈夫なんだ?」

「いや、大丈夫と言うよりどうでもいいと言う感じでですね」

「そ、そっか」

その時の俺の声は不思議なことに震えていた。あれ?目頭が熱いな。

もう色々な墓穴掘りすぎてもう百メートルくらい掘った気がする。

これ以上いたたまれない空気にならないためにも黙って置きたい。

「えっと、つまりですね。男性が苦手なんですが好きな人が出来て、でも好きな人も苦手で克服するのを先輩に手伝って貰いたいんです」

絶対に嫌だ。めんどくさい。俺を先輩や友達でいることを嫌がり、どうでもいい人と言った後輩の手伝いをしなきゃいけないんだ。そう言いたい衝動を抑え大人の対応をする。それが先輩というものだろう。

「分かった、出来る限りのことをしよう」

「本当ですか?」

「当たり前だろ、可愛い後輩のためだそのくらいはする」

風見は小さくガッツポーズをして歩みを始めた。

俺は自分の言葉を後悔しながら、暗くなり始めた帰り道を進む風見を見ていた。

動かない俺に気付いた風見は少し前で両手を挙げて早く来いと呼んでいる。

全くあいつは、いつも通り可愛いくせにめんどくさいな。

まあ、悪くないけど。

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