悪役令嬢の妹 ~転生したら人生ハードモードなんですけど!?~

三崎かづき

第1章

プロローグ




 十歳の春。年子の姉の、婚約が決まった。

 優しくて、賢くて、美しい、わたしの大好きなお姉様が、今後どんな人生を歩んでいくか決まったのだ。

 そんな佳き日に、わたしは“私”であることを思い出した。

 そしてお姉様の人生がどんな結末を向かえ、そこにわたしがどう関わるのかを思い出してしまった。










 『アルカンシエルの祈り』というタイトルのゲームは、ヨーロッパ風の国で魔法が存在する世界観。王道を売り文句とする女性向け恋愛ゲーム。俗に言う乙女ゲームだ。

 プレイヤーである主人公は、とある王国の孤児院で暮らす十六歳の少女。

 両親はおらず裕福でもないが、孤児院にいるたくさんの弟妹の世話をしながら幸せに暮らしていた主人公。だがある日突然、平民では珍しいことに魔力が発現、その直後に主人公を引き取りたいという老紳士が現れることで人生が一変する。


 老紳士は伯爵家の当主で、そんな人物の養女となった主人公は魔法の扱い方を学ぶため寄宿学校に入学することとなる。そこで出会うのが攻略対象の青年達だ。

 火の魔法を使う自信家の王子、水の魔法を使う真面目な国務大臣の子息、風の魔法を使う爽やかな騎士団長の孫など。さまざまな性格、さまざま身分の七人からひとりを選び恋愛をする。売り文句通りの、王道シンデレラストーリーだ。



 わたしは、“私”としてこの『アルカンシエルの祈り』をプレイした記憶を思い出した。前世の記憶というやつである。

 乙女ゲーム好きの妹に人気作だからと熱心に勧められて、“私”は七人の攻略対象それぞれに用意されたハッピーエンド、ノーマルエンド、バッドエンドを達成し、さらに隠しルートであった七人全員に愛される逆ハーレムルートも達成してみせたのだ。

 だからわたしは、主人公が誰を選んでどんな選択をしようと、どういった結末となるかおおよそ知っている。いや、知っていたことを思い出した。



 どんな物語にも、障害物というのは必要だ。『ロミオとジュリエット』の両親の反対しかり、『走れメロス』の川の氾濫や山賊しかりだ。ただ貴族の若者同士の結婚や、ただ町と家の往復マラソンではつまらないのだ。

 そんな物語に必須とも言える障害物――――この『アルカンシエルの祈り』という学園ラブストーリーの障害物は、同学年の女子生徒だ。


 女子生徒の名前は、ソフィア・ローラ・パールグレイ。王族を除けば、その地位と財産は国内随一という由緒正しい公爵家のご令嬢だ。

 ソフィアは高い地位と美しい容姿、さらに魔法の才能にも恵まれていたことから取り巻きも多く、女子生徒の頂点に君臨していた。そんな気位の高い彼女が、異色の経歴を持つ主人公が途中入学してきたことを快く思わないのはお察しの通り。

 おまけに彼女は質の悪いことに、攻略対象である王子の婚約者であり、騎士団長の孫とはいとこ関係だった。


 ソフィアは全てのルートで、主人公の前に立ちはだかる。主人公を寄宿学校から追い出すためにいじめて、いじめて、いじめぬく。

 だが彼女はとても要領がいい。悪役らしい言い方をすればずる賢い人間で、おまけに自分の手足のように動いてくれる者が大勢いた。

 ゆえに彼女は決して自らの手を汚すことはなく、主人公への嫌がらせは物語の後半になるまでソフィアが関わっている事は分からず、分かってからも確たる証拠が無いので「取り巻きが勝手にやったこと」と言われてしまい追求できなかった。

 だがそのままでは物語は成立しない。物語にはオチをつけなくてはならない。



 主人公がどの攻略対象を選ぼうとハッピーエンドとなれば、ソフィアは今までの悪事を暴かれ、糾弾され、寄宿学校から追い出される。そして実家への強制送還の最中、何者かに襲われ行方不明となる。

 パールグレイ家は、ソフィアが主人公への嫌がらせのために手駒を買収していたため、財産が大きく減り、さらに実子の公爵家にあるまじき行為の罰として国に領土の一部を取り上げられる。

 作中でソフィアの取り巻きとして時々登場していたパールグレイ家次女が、ロリコンで有名な年上貴族と政略結婚したおかげで没落こそ免れたが、一連の話題が広がった社交界からは腫れ物扱いされるようになるのである。


 ノーマルエンドでは、主人公と攻略対象は友達以上恋人未満で終わるが、ソフィアとその家族はハッピーエンドとほぼ同じ結末を向かえる。


 そしてバッドエンドとなれば、ソフィアは主人公を排除しようと襲い、その結果主人公が死ぬか、主人公を庇って攻略対象が死ぬか、攻略対象に返り討ちにされソフィアが死ぬ。ルートによって違いはあるけれど、結局ソフィアは殺人罪で投獄されるか死ぬかの破滅エンドしかない。

 それに主人公は養女と言えど伯爵令嬢、攻略対象だって自国の王子や高位貴族の嫡男、さらに留学中の隣国の王子もいるのだから、誰が死んでも重罪だし、最悪の場合は戦争の火種になりかねない事態だ。


 ――――さて、ここでひとつクイズです。

 こういったラブ有りシリアス有りな世界に転生した場合、どんなポジションに生まれるのが異世界転生のセオリーでしょう?


 何度も不幸な目に合いながらも、努力次第では愛する人と幸せになれる主人公?

 それとも、そんな主人公に恋をして、全身全霊を捧げて護り愛していくと誓う攻略対象?

 はたまた、愛し合う二人を引き裂かんと策略し、破滅する悪役令嬢?


 “私”は乙女ゲームは専門ではなかったけれど、オタクではあったから異世界転生系の物語はいくつも読んだし観てきた。だから主人公パターン、攻略対象パターン、悪役令嬢パターン、どれに転生しようとセオリー通りだと答えよう。

 しかしあいにく、わたしは孤児院育ちでなければ男でもないし、ソフィアという名前でもない。


 わたしの名前は、ミシェル。

 国王の最側近である父と、代々騎士を輩出する名家出身である母の間に生まれ、限りなく銀に近いプラチナブロンドに青い瞳の美少女を姉に持つ、名門公爵家の次女。ミシェル・マリー・パールグレイ、十歳である。


 そう、つまり“私”は、五年後に姉の悪事の尻拭いのためにロリコン野郎と政略結婚させられる、悪役令嬢の妹に生まれ変わってしまっているらしい。



 気づいてしまったその事実、そして決められた自分の未来に、わたしは……私は、王家から第二王子との婚約の申し出に喜ぶ姉と両親の様子を見ながら、気絶した。

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