第40話 『転換』 その1

 自分は、眠っていたのか?


 意識を失っていたのか?


 幻覚や夢は見なかったから、麻酔薬のような薬物なのか、新種の睡眠薬か、なんだかわからない。


 ここが何処なのかもわからない。


 でも、どうやら身体を動かせない。


 自分の意識のがはっきりしないな。


 自分は、誰だったろうか?


 何かが、そっと自分の意識をサポートしてくるような感じがする。


 そこんところに、さからってはいけないと思う感じがする。


 頭の中で、優しい声が聞こえた。


「さて、あなたは男ですか、女ですか?」


 当たりまえの質問だな。


「あたしは、女です。」


自分が勝手にそう答えている。


別におかしくはない。そのとおりだから。


「そうです、そのとおりです。あなたの過去は?」


「過去はありません。すべて、棄てました。」


 また、勝手にそう答えている。


「そうそう。そのとおりです。あなたのお仕事は? お名前は?」


「あたしは、星の館の、星娘です。名前は、ヘネシーです。」


「よろしい。その通りです。では、立ち上がって、そこにある下着を身に着けなさい。」


「はい、わかりました。」


 あたしは、少しふらつきながら立ち上がった。


 それから、枕元にあった美しい下着を、自慢の体に着けた。



  **********     **********



 いやに、あっさりと最初の証拠が手に入ったのです。


 決められた暗号送信で本部にデータを送りました。


 しかし、まだ、これでは決め手ではないのです。


 性転換して、洗脳の上、娯楽施設で働かせると言う行為は、他でも行われたことがあります。


 30年ほど前には、『第5刑務小惑星』で、当時の所長が中心となり、一種の『ハーレム』を作って、そうした行為を行っていた例があります。


 収容されていた囚人の一部を性転換させて、働かせていたのです。


 確か、その『ハーレム』が、『星の館』と呼ばれていたのです。


 もちろん、生殖能力を与える技術はありませんでした。


 その『館』には、やり手の『女主』がいましたが、強制的にやらされていたとして、あまり長い刑にはならず、10年間、よその刑務所で服役しましたが、出所後の所在が分からなくなっています。


 そこの所長は、自活可能な、小型宇宙ポッドで、宇宙空間に追放されました。


 いまごろは、・・・まだ生きていれば、・・・太陽系から遥かに離れた場所を寂しく、漂っていることでしょう。


 正気でいられるとは、思えないです。


 自決装置は、装着されておりました。


 データの詳細な突合せが必要ですが、もしかしたら、何かの関連性があるのかもしれません。


 調べてみましょう。


 しかし、どうも、この『資源小惑星』では、そのことだけのためにしては、おかしなことをやっているようです。


 なぜ、・・・、あえて生殖の能力まで与えているのか?


 はっきり言えば、結果的には、会社の負担になるばかりな気がします。


 どうやら、副首相様が、絡んでいることも間違いがなさそうです。


 と、いうことは、政府の大きな部分が関わってるということです。


 まあ、『被保護者』の目を覚まさせてあげることは簡単ですが、しばらくこのまま、女子にさせておいてあげましょう。


 将来、本人の役に立つでしょうからね。


 多くの人間の男性には、いまだに優位感情が、残っています。


 非常に、残念なことなのです。

 


   **********   **********



 地上に目を向けてみれば、ちょうどこんな会話が交わされていたのでした。


 「見学なさいますか?」


  社長さんが、そう言いました。


「ああ、ここまできたんですからな。進捗状況を確認したい。地球は、再び緊張状態に陥りそうだからな。」


「まあ、あなた様が、そうなさっているのでは?」


「また、人聞きの悪いことを言うものではないですなあ。社長さん。再び人類が滅亡の危機を迎えないようにするためにも、また、確実な人口増加を早急に行うためにも、『新人類』を優先して生み出すためにも。これは、実に壮大な試みですぞ。また、あなたには、巨大な利益が入る。」


「そうあってほしいですが、現状ではまだ、思うようには還元されていませんわ。」


「これからが勝負です。あの、うすのろ首相を担いできたのは、そのための方便ですからな。あのような堅物には人類の『革命』は起こせない。」


「あなただから、起こせると?」


「そうだ。私こそ、偉大なる『新人類』の創始者だ。必ずや、そう言われ、讃えられることと、なるだろう。すでに、政府の中核には『新人類』が配置されつつある。あなたは、その偉大な歴史に加わることが出来る。なにしろ、技術開発の立役者なんだから。」


「まあ、あたくしは、別に歴史に残る必要はございません。会社が発展すれば、それでいいのです。それに、あたくしが、技術を作った訳じゃあない。妹ですから。あの子は、表には出たがらない。」


「ふん。まあ、それでうまくゆくなら、それでよい。出たくなければ、出なくてよい。」


「ほほほほほ。じゃあ、どうぞ。妹を同行させますよ。あの子がいないと、技術的な事はわからないから。」


 この、社長様の妹さんという方は、はっきり言って『謎』の人物です。


「まあ、お好きにどうぞ。私も、主席秘書官を同行させる。」


「あの、陰気な方ね。まるで、幽霊のような方。」


「あれが、取り柄だ。お話し好きとお人好しは、信用ならんからな。歴史では、男も女も関係なく、真に優れたものが優位に立つべきだが、しかし、結局のところ、いわゆる『良い人』が作るものではない。人類史上の偉人は、多かれ少なかれ、みな悪党だった。膨大な数の人間を殺した者も多い。それでも、結局のところ勝者に対して、後世は『良い人』と言うイメージを作ってくれるのだ。」


「まあ・・・学校で、そう教えるのですか?」


「そうしたいがね。」


 副首相は、にたっとほくそ笑んだのです。


 この会話は、そのまま『本部』に中継送信しました。


 だんだんと、奥が見えて来たようです。


 でも、どうやら、その奥は、泥沼か底なし沼か、まあ、そんな感じらしいです。


 アンドロイドには、どっちでも、よいことなのですが。

 



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