第37話 『発展』 その3
地球政府の『副首相』を乗せた宇宙船は、貴賓客用の発着場に無事到着しました。
事前にやってきていた『警備隊』が、周囲を固める中で、随行員たちが次々に宇宙船から降りてきだしたのです。
『副首相』の取り巻きだけでなく、経済界の『大物』たちが、同行してきています。
なぜ、この太陽系宇宙の果ての、小さな『資源惑星』に、これほどの重鎮たちがやってきたのか?
それも、『首相』ではなく、『副首相』と、ともにです。
自分も、政府のエージェントではありますが、どらかと言えば、政府内部で疎まれるのが我々の使命でございますから、とにかく我が政府が行う事を、一応全て疑ってかかることが原則なのです。
ま、もっとも、最終的には『首相』の鶴の一声があれば、すべてお終いにはなります。
ただ、『首相』がそうした権限を行使したら、いささかの『疑い』が生じる危険性があるわけで、過去のいきさつ、というものからも、『首相』はそうした行いは嫌います。
そこに、わたくしたちの行動が『保証』される根拠も、あるわけですが。
『副首相』は、『首相』の属するパーティーとは異なる団体に所属します。
こういう『体制』は、いささかおかしいとも言われますが、これもまた過去における『独裁』の弊害をなくすためのやり方でした。
まあ、現在地球上には、いわゆる古典的な『国家』というものはありません。
あるのは『地球』というまとまりだけです。
それでも、人間たちは、相変わらず自分の『地位』とか『立場』とか『利益』というものは手放さないのですが、まあ、それが人間の生き甲斐なので、我々人造人間から見れば、随分不効率な事ではありますが、仕方がない事なのです。
それにしても、表向きは『視察』という事ですし、まあ、確かに珍しい場所ではあるので、『視察』でも『見学』でもしていただいたら良いのですが、こうして見ていると、我が『社長』の、長年の競争相手もしっかり入って来ています。
なんとなく、その目的が怪しいと感じても、おかしくはないのです。
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彼女は、ことを急がない。
ぼくの動きを十分観察しながら、巧みにリラックスをするように仕向けて来る。
まずは、お風呂を頂いた。
個室に付属するお風呂としては、豪華なものだ。
それから、ちょっと実物なんか、まったく見たことがない、伝説の超高級酒が現れた。
地球でも、一部のエリートしか、たしなむことは不可能な品物である。
おいしいんだか、そうでもないんだか、あまりお酒が好きじゃないぼくには、判断が付きかねるしろものである。
それでも、お酒が入れば、気分が大きくなるし、いろいろとやってみたいことも出てくる。
もっとも、ぼくも、しろとではない。
よい情報が欲しい。
「君は、地球から来たの?」
「たぶんね。」
「た・ぶ・ん?」
「そう。星娘に、過去はありません。あるのは、いまだけなの。」
「そういう建前なのかな?」
彼女は、ぼくに腕をゆっくりと回してきた。
「いいえ、本当に、そうなの。余計な過去の記憶は捨てます。」
「自発的に?」
「なんで、そんなことが気になりますの? どうでもよいことでしょう。あなたは、いまはリラックスする時間ですよ。」
彼女の美しい顔が、最大限に接近してきたのだった。
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