第20話 『散歩』その1

 社長が言ったのである。


「おはようございます、お邪魔でしたか?」


「いえ、とんでもございません。びっくりはしましたが。」


 実際、内心びっくりしたのである。


 ぼくは、あくまで新入社員だが、腹の中には、いちもつ持っているわけだから。


「それは良かった。もし、お邪魔でなければ、ご案内しましょう。今日は、わたしも非番なのですよ。」


「そりゃあ、どうも。でも、なぜ? 新入社員は他にもいたでしょうに。」


「まあ、そうですが、ここんところ、採用した人間は、あなただけよ。」


「それは、光栄なことです。ありがたいことです。」


「よかった、じゃあ、どうぞ。ここに許可カードをかざしてください。・・・はいな。」


 公園の巨大なゲートが、音もなく開いた。


「さあ、どうぞ。わたくしの公園に、ようこそ。」


「ども。」


 ぼくは、社長に手を引かれるような感じで、公園内に入って行った。



  *****   *****


 青い空、濃い緑。


 高い木々。


 いったいここは、ほんとうに、この荒廃した資源惑星の上なのだろうか。


 いや、荒廃はしてなんかは、いないのだろう。


 いまや、貴重な資源満載の、お宝の星である。


「まあ、ここは、実際に実用的に緑化された『資源惑星』としては、ほぼ太陽系で、唯一の場所ね。まあ、地球政府が実施した『火星』は特別として。ここは、太陽からは遠い。だから、ちょっとした、人工的な配慮は必要です。こんなことに資金を傾ける経営者はいないわ。でも、わたしはやりたかったからね。こんなことを、してみたかったのよね。」


「夢が叶ったのですね。」


「まあ、そうよね。良い場所でしょう。」


 小鳥達のさえずりが聞こえた。


 信じがたいが、本当にそうなのだ。


 なるほど、この場所自体を、厳重に管理する理由の一端は、見えたような気がする。


 しかし、よくこんな思い切った事をしたものだ。


 莫大な費用が掛かっているに違いない。


 よほど、儲けている、ということも、言えそうだった。


「ここにはね、小鳥だけじゃない。小動物もいるの。餌になるものも。危険なのは入れてないわ。労災事故は困るものね。」


「そうですなあ。確かに。」


「あなたに、気に入ってもらえると、いいなあ。」


「はあ・・・そりゃあ、どうも。すごいですよ。」


「ありがとう。もっと、奥に入って見ましょうか。」


 トレッキング・スタイルの社長は、ぐんぐんと進んで行く。



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