第20話 『散歩』その1
社長が言ったのである。
「おはようございます、お邪魔でしたか?」
「いえ、とんでもございません。びっくりはしましたが。」
実際、内心びっくりしたのである。
ぼくは、あくまで新入社員だが、腹の中には、いちもつ持っているわけだから。
「それは良かった。もし、お邪魔でなければ、ご案内しましょう。今日は、わたしも非番なのですよ。」
「そりゃあ、どうも。でも、なぜ? 新入社員は他にもいたでしょうに。」
「まあ、そうですが、ここんところ、採用した人間は、あなただけよ。」
「それは、光栄なことです。ありがたいことです。」
「よかった、じゃあ、どうぞ。ここに許可カードをかざしてください。・・・はいな。」
公園の巨大なゲートが、音もなく開いた。
「さあ、どうぞ。わたくしの公園に、ようこそ。」
「ども。」
ぼくは、社長に手を引かれるような感じで、公園内に入って行った。
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青い空、濃い緑。
高い木々。
いったいここは、ほんとうに、この荒廃した資源惑星の上なのだろうか。
いや、荒廃はしてなんかは、いないのだろう。
いまや、貴重な資源満載の、お宝の星である。
「まあ、ここは、実際に実用的に緑化された『資源惑星』としては、ほぼ太陽系で、唯一の場所ね。まあ、地球政府が実施した『火星』は特別として。ここは、太陽からは遠い。だから、ちょっとした、人工的な配慮は必要です。こんなことに資金を傾ける経営者はいないわ。でも、わたしはやりたかったからね。こんなことを、してみたかったのよね。」
「夢が叶ったのですね。」
「まあ、そうよね。良い場所でしょう。」
小鳥達のさえずりが聞こえた。
信じがたいが、本当にそうなのだ。
なるほど、この場所自体を、厳重に管理する理由の一端は、見えたような気がする。
しかし、よくこんな思い切った事をしたものだ。
莫大な費用が掛かっているに違いない。
よほど、儲けている、ということも、言えそうだった。
「ここにはね、小鳥だけじゃない。小動物もいるの。餌になるものも。危険なのは入れてないわ。労災事故は困るものね。」
「そうですなあ。確かに。」
「あなたに、気に入ってもらえると、いいなあ。」
「はあ・・・そりゃあ、どうも。すごいですよ。」
「ありがとう。もっと、奥に入って見ましょうか。」
トレッキング・スタイルの社長は、ぐんぐんと進んで行く。
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