ネットでググりながらセックスするJKカップルの話
nns
本編
バカとアホとマヌケが30%ずつと、あとの10%は彼女への愛で生きてる女
こんにちは。私、石井って言います。
突然ですが、高校に入ってから出来た彼女と、エッチをしようって話になりました。っていうか私からそういう話を持ちかけました。初めてその話をしたときはかなり勇気が要りましたが、わりとあっけらかんと「まぁいいけど」と言われたので、それからずっとそわそわして過ごしてます。
彼女の名前は長谷川。下の名前もあるけど、付き合うようになってからも私達は名字で呼び合っていて、なんかもうこのままでいいかなって。下の名前で呼び合うって、色んな意味で
長谷川はこうしきテニス部の次期部長とかなんとか。実はずっと非公式テニス部もあるんだろうかって気になってます。でも、そんな単語聞いたことないし、訊いたら呆れられそうなので黙ってます。
そんなこんなで私達も色々な経験をして、もう付き合ってから半年以上経ってます。カップル的な進展はしてねーじゃねぇかと言わないで下さい。事実は時に人を傷付けます。とにかく、高二ともなれば、周りからもちらほらそういう話を耳にするようになります。私もとっとと長谷川と次のステップに進みたいと思ってるので、学校の帰り道、それを改めて彼女に伝えることにしました。
「長谷川だってエッチしたいって言ったじゃん?」
「言ったけどさー」
なんでもハキハキ言うタイプの長谷川にしては、珍しく様子がおかしいです。緩くウェーブした髪を指先でくるくるといじりながら、なんだか気怠げに私の話に相槌を打っています。
詳しく聞くと、「石井がしたいなら付き合うけど、よく分からない。とにかく石井の好きにしていい」とのことでした。
私なら、相手に流されて体を捧げるなんて絶対イヤだけどなぁ。でも、男女の恋愛でもたまにこういう話は聞きますよね。私に付き合ってくれるなら、もうそれでいいです。有り難く頂きます。
「わかった。まぁ、一人でするのを応用する感じでいいんじゃないかなとは思ってるんだけどね」
「えっ、ひとりでしてるの?」
すっげぇデカい墓穴を掘りました。その目やめて。私がおかしいの? いや、もしそうだったとしても、ここまできたらもう開き直るしかありません。
「えっ、逆に聞くけど長谷川って一人でしたことないの? ヤバくない?」
「みんなしてるの?」
「してるしてる、三時間置きくらいにしてるよ」
「明日、学校で聞いてみようかな」
「やめた方がいいよ」
それ絶対やめて。私は慌てて真顔で、長谷川の肩を掴んで説得しました。自分の彼女がクラスメートや部活の先輩後輩に、「一人でしてる? スパンは? どんな風に?」なんて聞きまくってたらと思うと気分最悪です。どうせみんなしてないって言うんでしょうけど。
一週間後。私達は親がいないタイミングを見計らって勝手にお泊まりを計画しました。ちなみに、今日は長谷川の家でお泊まりです。私の家と違って、一戸建ての綺麗なお宅です。
私の家? 古い団地。はい察して。
「見て。ゴム買ってきたんだよ」
「私達のそれにゴムっているの?」
「いらないよなぁとは思うけど、周りはみんな使ってるじゃん」
「そりゃ同性カップルじゃないしね。使ってなかったらヤバいよ」
確かに。デキちゃったらママだ。
妊娠しないというのは悲しいことでもあるけど、こういうときばかりは気楽なものですね。でも、いらないものだということは理解していつつ、つい買ってしまった私の気持ちも理解して欲しいものです。
「ほら、分かるでしょ。準備しろって言われたらなんとなく用意しちゃったっていうか」
「……いや、ちょっと分かんない」
「なんていうの、ゴムへの憧れ?」
「その憧憬今すぐ捨てて」
長谷川は私の手からばっと箱を奪うと、机の上に無造作に放り投げました。あれ絶対あそこに置いたの忘れて、お母さんの目に触れて問いつめられるヤツ。
でも、せっかく買ってきたそれをポイとされた事が癪なので、今回は指摘しません。そして、今日の本題、エッチです。私はこの一週間、ネットで調べてきた知識を長谷川に教えます。
ちなみに、事前に何をするか伝えるのも、二人で話し合った結果です。いきなり変なことされそうで怖いという長谷川の希望と、彼女の想像通りに変なことをしてドン引きされたくないという私の思惑が完全にマッチした結果、こうなりました。
「まずはキスで気分を高める的なことを書いてあったよ」
私がそう言うと、長谷川はしばらく沈黙した後、高まる? と呟きました。
「ううん。っていうかさ、前にベロチューしたじゃん。口の周りよだれ臭くなってガチでテンション下がったよね」
「それ」
長谷川は短く同意しながら、こちらを指差しました。
二人とも嫌な思い出しかないのに無理にする必要はないだろうということで、この過程は省くことにします。
「ここは飛ばそ」
「そうだね、別にキスしなくてもエッチはできるし。次は?」
「それが分かんないんだよ」
腕を組んで悩む素振りを見せる私に、長谷川は呆れたような視線を送っています。でも分からないというのは本当です。私は悪くありません。むしろ分からないことを隠さない姿勢を褒めてほしいものです。
「首や耳って書いてあるサイトもあれば、服を脱がすって書いてあるサイトもあったんだよ」
「は? どっちなの?」
長谷川は苛立ったように聞いてきますが、そんなこと知ってたらやってます。
「一応、キスしながら服を脱がしたり、ってあってね。そのサイトでは、首から胸元にかけてリップしていくと自然に胸への愛撫に移れるって書いてあったよ」
記憶を辿りながらそう言うと、長谷川はようやく安心したような表情を見せてくれました。
「なるほど。さっき私達はキスを飛ばしたから、とりあえず服だけを脱げばいいかな」
「うん、じゃあ早く脱いで。今後はそのサイトだけを見て進めて行こうね」
長谷川が服を脱いでいる間、私は机の上にあったタブレットで、そのサイトを開きます。見やすいようにこちら側に向けて、ベッドの適当な位置に置いていると、横から不機嫌そうな声が聞こえました。
「なんで石井はぼーっとしてんの?」
「え? 私ってする側だよね?」
「え、する側は脱がなくていいルールなの? ズルくない?」
「だって脱ぐ意味ないじゃん。何もすることないじゃん」
「そりゃそうだけど……あぁ、そうだね」
腑に落ちないような納得したような、何とも言えないリアクションをしながら、長谷川はあっという間に上半身裸になりました。まさに早業。運動部の子は着替えが鬼のように早いです。
私なんかシャツを脱ぐ時とか、なかなか服から頭が抜けなくてもぞもぞしたりしますよ。家族にはよく「園児か」って言われます。脱げたと思ったら短い髪がボサボサになってますね。なんでこんなに服を脱ぐというただ一つの動作が苦手なんでしょう。自分でも結構謎です。
そうして、準備は整った訳だけど、私にはまだ理解できないことがありました。
「で、リップしていくってどういう意味?」
「多分だけど、首からちゅっちゅってしてけばいいんじゃない?」
彼女の話を聞いて、私はあー……と元気なく答えました。
「なに? 他にも何か分かんないことある? っていうか私がしようか? 多分、石井には向いてないよ」
「いや大丈夫、ちょっと考え事してただけだから」
「考え事って?」
長谷川から飛んでくる視線が、どんどん『呆れ』から『疑い』に変わってきた気がきます。大丈夫だって、ね。任せて。そもそも長谷川への欲望が有り余ってこんなことを言い出したのは私の方だし。そう、あまり彼女に働かせるワケにはいかないと思ってるんです。
ヘタレていたワケではなく、ある疑問のせいで動きが取れなかったことを、私は彼女に説明しました。
「どれくらいの間隔で、そのリップっていうのをしてけばいいのかなって」
「えー……? 一センチくらい?」
「え!? 私三センチくらいのイメージだった!」
「だってそれなら三回くらい移動したら終わんない!?」
「でも一センチって刻み過ぎじゃない!?」
どちらの主張にも理がある気がしたので、間をとって二センチという数値に落ち着きました。結論が出ると、私は立ち上がります。長谷川は驚いた顔で私の名前を呼びますが、机からある物を手に取るまで、私は振り返りませんでした。
「ねぇってば。石井、何持ってるの?」
「これ使おうと思って」
「正気か?」
長谷川の冷ややかな視線が突き刺さります。私が手に持っていたのは、プラスティックの定規です。これでちゃんと二センチを測るつもりだったんですが、何が不満なんでしょうか。
「いやおかしいじゃん! こんなの使ってエッチするなんて聞いたことないけど!?」
「だってせっかく二センチって決めたのにズレたら台無しじゃない!?」
「お前の不安がそもそもズレてんだよ!」
長谷川はベッドから立ち上がりながら私を怒鳴り付けると、定規を奪い取って机の上へと放り投げます。あぁ……私達のセックスアイテムが……。
「念の為聞くけど、アレ使ってズレてたらどうしてたの?」
「ズレたって騒ぎ立ててた」
「そんなことしたらもう絶対エッチしない」
彼女の機嫌を損ねてしまえば元も子もありません。私達はベッドに座り直すと、行為を再開しました。長谷川の首に口を寄せて、サイトに書いてある通り、下におりていくイメージで動きます。
しかし次の瞬間、長谷川は不満げな声をあげたのです。
「小声でリップリップ言うのやめてくれる!?」
「なんで!? リップするって書いてあるじゃん!」
「それ言わなくていいから! 絶対やり方間違ってるから!」
彼女の切実な訴えを無視する訳にはいきません。そして、私達はそこではたと気付いたのです。
「……っていうかさ。ねぇ、これ、そもそもいる?」
「いらないね。正直あんまりしたいとも思わないし」
「私も別にして欲しくないや。んじゃ次いこ」
結局、私達は首から胸元までの移動についてもスキップしました。
大丈夫、最初のうちはきっとみんなそんなもの。恥ずかしがる必要なんて無い。むしろ、悶々としてるくせに恋人にエッチしたいって言えないことの方がずっと恥ずかしいですよね? 私はそう思うんです。というわけで、タブレットをスクロールさせて、次の手順を確認していきます。
「あ、次はいいよ、分かりやすくて」
「胸?」
「うん。まずはバストを揉み、乳首の周辺、乳輪などを時間をかけて、もったいぶるようになぞったりするって書いてある」
ふんふんと聞いていた長谷川だったけど、少し黙ったあと、真剣な表情で私に尋ねました。
「待って。なぞったり、の『たり』って何? 具体的にどんなバリエーションがあるの?」
「食んだりって書いてあるよ」
「え? 口はいつから登場してたの? 新キャラじゃん」
「分かんない、いきなり出てきたね」
サイトの説明が突然難解になったことに、私達は驚きを隠せません。とりあえず、口については無視するとして、手でやってみようと思います。
「周りをなぞるって、一周に何秒くらいかけたらいいと思う?」
「え、秒? もっとじゃない? 分とか」
「分!? じゃあ三分くらいでやってみる? ストップウォッチ持ってるよね?」
「使ったら絶対もうエッチしないから」
目安が全く分からないけど、時間をかければかける程いいと書かれています。確かにね。ビーフシチューとか角煮とか、長い時間煮込んだ方が美味しい感あるもんね。
私は長谷川の豊満な胸に人差し指を置くと、時計を見て時間配分を考えながら一周させようとしました。っていうか柔らか……何これ……バカじゃないの……。
「……」
「……」
「指、動かないね」
ねぇやっぱり一周に三分っておかしいって。私は長谷川のしてほしいようにしてあげたいと思ってるよ? でも、多分これ長谷川も望んでないよね?
途方に暮れた私は、どうして欲しいかを彼女に尋ねる作戦を思いつきます。
「どういう風にして欲しいとかあるの?」
「は? それ私に言わせるって、タチとしての存在意義なくない? やっぱ代わって」
「言い過ぎじゃない!? ちょっと訊いただけじゃん! ねぇ!」
「ほら、早く脱いで。交代交代」
怠そうに催促されては私の立場がありません。しかし、ここは彼女に任せた方がいいかもしれないと思い直しました。
「くっ……分かったよ」
そして、服を脱ぎ終えると、未だかつて無い程の重苦しい沈黙が、二人の間に横たわる事となりました。
「…………」
「…………」
「しようと思ったけど、無いなら出来ないね。次」
「てめぇちょっと待てや!!」
聞き捨てならない。無くないわ。あるわ。存在してるわ。ほら……心の目で見たら在るでしょ。
「くっ……」
「エッチの最中にそんな悔しそうな顔するって多分普通じゃないよ」
長谷川の胸と見比べれば、私の粗末なそれなど無いも同然。いやむしろマイナス。気を取り直して次に進むことにしました。
「次はお腹だってさ」
「お腹? なんで?」
「っていうかこのサイトに物申せるなら参考にする必要なくない?」
私がそう言うと、彼女は考え直したようで、「……お腹ね、分かった」と呟きました。
「お腹に……つつーっと……指を……」
「は? なにそれ、どういう意味?」
「知らない。私がしてみていい?」
やってみたら何か分かるかもしれません。長谷川はタブレットを睨みながら、私の腹部に手を伸ばします。
「くすぐったくしないでね」
「えー? 難しいなぁ」
長谷川の指が、私の腹部に容赦なく埋まっていきます。自分で言うのもなんだけど、わりとスレンダーなので、指が沈む余地はそんなに無いはずなんですが。
「痛い痛い痛い!!」
「石井がくすぐったいの嫌だって言ったから強めにしたのに……」
「なんで私が悪いみたいになってんの!? 加減ってものを知らない長谷川が悪いよね!?」
必死に抗議した後、これは攻守交代するチャンスだと気付きました。ちょっと私にもさせて、と言うと、彼女は呆気なくその座を私に譲ります。
「いいけど、痛くしないでね」
「しないよ、むしろなんであんなに痛くできたの」
私は彼女の腹部に触れました。いわゆるフェザータッチってヤツです。たったこれだけのことを謎の暴力に変えた彼女に、改めて畏怖の念を抱きながら、指を滑らせます。
「あぁ……!」
「何!?」
長谷川は私の首に腕を回して、力を込めました。そして、小刻みに震えると、そのままベッドに体を横たえます。
「なんか、いま……」
「おかしくない!? ちょっと触っただけでじゃん!? え!?」
「頭の中、真っ白になって……」
「イったの!? 今ので!?」
「気持ちよかった……びっくりしたぁ……」
「多分私の方がびっくりしてるよ、何その特殊な性感帯」
ドン引きです。何なんですか、この人。怖い。
長谷川は息を整えながら枕に頭を置きました。ほっといたらこのまま寝そうな空気を出していますが、そうはいきません。
「いやちょっと待って。私、今日最後までするつもりだったから」
「でも、最後までって?」
「そう、それ。調べれば調べる程、女同士の最後って分かんなくなるの」
私は知れば知る程、難解になっていく『終わり』を思い浮かべながら、手で顔を覆います。
「まぁ、普通は男の人がイったらおしまい、なのかな?」
「そうそう。でも私達ってそういうの無いじゃん」
「まぁあったら怖いよね」
片乳が飛ぶとか、何かあったら良かったけどね。私はそこで、考えてきたいくつかの案について、彼女に話しました。
「それで、いくつか用意してきたんだ」
「え、ちんちんを?」
「してないよ。そもそも、そんなことできるなら、それ使ってしてるよ」
「あぁ。石井って頭いいね」
長谷川は感心したように私を見つめます。しかし、彼女が本当に私を尊敬する事になるのはここからでしょう。
「まぁね。用意してきたっていうのは候補をね」
「候補?」
「うん、まず時間制にする案なんだけど」
「却下」
「え」
名案だと思っていた案をコンマの勢いで跳ね返され、私は少なからず動揺しました。
「却下。おかしいでしょ」
「なにが?」
全く分かりません。【終わりが無いならあらかじめ決めておく作戦】。完璧以外の何者でも無いと思うんですが。え、変ですか?
「本気で言ってる? いちいち時計見ながらするの? 変だよね?」
なんだ、長谷川はそんなことを気にしていたのか。時計を見ながらだなんて、そんな野暮な提案する訳ないのに。私はスマホを取り出し、アラームのアプリをドヤ顔で見せつけます。
「そんなのかけてエッチしたくない。っていうかさっきから言いたかったんだけど、エッチを数値化しようとするな」
え……ショック……。数値化良くないですか? だって私達は右も左も分からない状態なんですよ? 明確な基準に縋ってしまうのは人の性では?
しかし、長谷川が嫌がっているのに無理強いはできません。「もうしない」って言われたら、私は死ぬしか無いのですから。次の案といきましょう。
「ちぇ〜……いいと思ったんだけどな」
「他の案は?」
「これ、私がゴムと一緒に買ってきたんだけど」
「待って」
私は背負ってきたリュックの中から、文明の利器を引っぱり出しました。これなら彼女も文句無いでしょう。えぇ、無いでしょうとも。
「大丈夫、いきなり挿入したりしな」
「そうじゃねぇよ。なに買ってんの? あのさ、羞恥心。羞恥心とかないの? なんでよりにもよってそれ選んだ?」
もうこれは質問ではありません。詰問です。責められてる感がすごいです。でも、私だって何の考えもなくこんな棒状のものを買ってきたワケじゃありません。
「上級者向けって書いてあってね。多分、辛いじゃん? こんな太いの入れたら」
「辛いどころの騒ぎじゃないよ。そもそも入らないし。一般的にそこに入れるようなサイズ感じゃないじゃん」
「だから頑張るじゃない? すると、疲れて自然な感じでエッチを終えられるかと思ったんだよね」
「エッチが終わる前に私の人生が終わってしまいそうなんですがそれは」
長谷川は、文明の利器を私の手から叩き落とします。鈍い音を立ててフローリングの床を転がるそれを慌てて拾い上げ、抱きかかえました。
「もう、せっかく長谷川の為に買ってきたのに……」
「ちなみに、それいくらしたの」
「あとで割り勘にしようと思ってたんだよね。えーと、一五〇〇〇円」
「ぜっっってーーーーーー払わないからな!!」
無慈悲。あまりに無慈悲。私、これにお年玉ちょっと使ったんですけど? なんで払わないとか言うの? どうして?
「え!? 割り勘って約束だったじゃん!」
「いやそうだったよ!? そうだったけど、ローションとか、そういうものならと思って約束したの! おかしいじゃん! なんでごっつい握り拳に七五〇〇円払わなきゃなんないの!?」
私が抱きかかえている、肘から先の握り拳を指差し、長谷川は怒鳴りました。
「でも、ごっつい握り拳を買っちゃ駄目って言わなかったよ!?」
「言わないよ!? だって買ってくると思ってないもん! 自分言う!? コンビニでアイス買ってくるって子に、わざわざ「レジの後ろの上の棚に並んでる手みやげ的なもの買ってきちゃ駄目だよ」って言う!?」
ここまで言われたら完敗だ……私は静かに握り拳をリュックにしまおうとしました。しかし、それよりも早く、長谷川が切り出します。
「もういい」
「へ? 長谷川?」
「石井、ローションあるでしょ」
「うん、この握り拳買ったらタダでついてきた」
「じゃああんたそれ塗って、これ跨ぎなさい」
長谷川ったら優しい。きっと私がせっかく買ってきた物だから、なんとか使おうとしてくれてるんだ。私は即答しました。
「え。やだよ」
「は?」
「え。痛いじゃん。やだよ。多分、全然入らないから痛みすら感じないだろうけど。やだよ」
やだよ、嫌に決まってんじゃん。されたくない事は人にするなって教わるけど、そんなの綺麗事じゃん。長谷川にならしてみたいけど、自分がされるのは嫌。私はこの気持ちに一切の恥じらいを感じてません。嫌なものは嫌です。
「アンタ、それ私にやらせようとしてたの分かってる?」
「うん。でもさ、こんなの入れたら、私のあそこが便利な小物入れみたいになるじゃん」
「だからお前は自分の彼女のそこを、通販番組でよくあるショルダーバックの内側の大容量ポケットみたいにしようとしてたんだけど、その自覚はあんの?」
長谷川は怒ると胸ぐらを掴む癖があります。しかし、私達は現在、二人とも上半身裸に下はスカートという、なんともアンバランスな格好です。普段なら掴まれている服が、そこには無いのです。胸ぐらを掴まれ、苦しい思いをすることは無い、と高をくくっていたのが、間違いでした。彼女は迷うことなく、私の首をそのまま掴みます。
死ぬ。待って、死ぬ。苦しさがいつもとダンチです。私、長谷川とのエッチでイく前に逝きそうになってるから。ねぇ。
気を失う寸前で手は離され、私はベッドにうずくまって呼吸を整えます。そして、少し落ち着いてから弁明しました。
「長谷川は運動神経もいいし、身体も柔らかいでしょ……なんていうの、伸縮性があると思ったんだよ」
「限度があるわ。私のあそこはルフィじゃないんだよ」
これ以上余計なことを言うと、第二弾がきそうです。私はこの件について言及することを止め、別の話題を探しました。
額に手を当てようとしたところで、異変に気付きました。なんと、首を絞められていた時に、手にローションをブチ撒けてしまっていたようなのです。これを利用しない手はありません。
「ちょっと触ってみていい? 私の手、いまローションでぬるぬるだし」
「まぁ……いいけど……えっと、痛くしないでよ?」
「うん、まかせて!」
私の突飛な提案は思いの外、あっさりと受け入れられました。長谷川は全裸になると、仰向けになりました。私が脱がしたかった、と口をついて出そうになりましたが、ローションが服につくと怒られるに決まっているので黙ってました。長谷川はタブレットを掲げて何やら操作をしています。
「ああ、石井って一人でしてるんだっけ。じゃあ馴れてんのか」
「嫌な言い方するのやめてくれる!?」
ちょっとした雑談で私の心を抉るとは、さすが長谷川。好き。やめてという私の願いを聞き入れてくれたのか、いや多分スルーされただけなんでしょうが、とにかく彼女はタブレットに表示されている文字を読み上げます。
「えーと、挿入前に、丹念にほぐしましょう、だってさ」
丹念にほぐす? 今まで散々色んな行程をスキップしてきた私達に、”丹念に”何かをやり遂げることが出来るとでも思っているのか、このサイトは。
そもそも、ローションまみれなのにほぐす必要ってあるんですか?
無いですよね。
「えい」
「いでぇぇー! え!? 抜いて!? 痛い痛い! 石井! やだ!」
「うわーこんな風になってんだー」
ほら、普通に入ったじゃん。私は自分の見立てが合っていた事にニコニコしながら中指を動かします。
「痛いって! 痛くしないって約束したのに! あー! あー!」
「ごめんね、下手で」
「違うわ! お前に足りないのは技量じゃなくて相手への配慮だよ!」
「指、本数増やしていい?」
「いやむしろなんで!? 痛いって全力でアピールしてるよね!?」
「ちぇー」
この辺で止めとかないと、後で絞殺されかねません。私はさっと手を抜きました。
「ひゃう! なんで急に抜くの!?」
「え? 抜けって言ったじゃん」
「そんなスパっ! ってさ! スピード感有り余る感じで抜かなくてもよかったじゃん!」
「えぇ〜」
でも、言われてみれば、いきなり抜かれたらビックリするかもしれませんね。次回の課題にしましょう。次回があるのか分からないですけど。この様子だと、長谷川イヤって言いそうですし。
「……っていうかお腹でイったじゃん、長谷川」
「うん」
「中はどうだった?」
「アレでイったら私ドマゾじゃん」
案の定、完全に軽蔑する視線を送られています。もう一回する? と言いたい気持ちも無くは無かったんですが、あれだけ痛いと言われてそんなことを言える程、私は図々しくありません。っていうか指一本でこれなら、握り拳なんて夢のまた夢ですね。なんだか、エッチの終わりについて悩んでいたのが、とてもバカバカしいです。
「初エッチはこんなもんか」
「ねぇこれエッチって言っていいの? 駄目じゃない? 十人に聞いたら十三人くらい駄目って言いそうじゃない?」
なんか三名、関係ない人まで答えてるんだけど。そう言いたい気持ちはありましたが、それよりも聞き捨てならない発言があったので、私はそちらを拾うことにしました。
「でも私、長谷川の中に入れたよね?」
「ま、まぁ」
「しかもさ、長谷川、イったよね?」
「う、うん」
「そこだけ聞いたら完璧じゃない? 絶対エッチじゃん」
「偏向報道かよ」
初めてにしては出来過ぎているくらいに完璧だと思う。エッチではイけないって女性も少なくないみたいだし、長谷川は私に、いや、特殊かつ敏感過ぎる自分の性感帯に感謝すべきだと思う。
ローションを大量のティッシュでやっと拭い切ると、私はタブレットを操作します。
「えー……あっ、ねえねえ」
「もう……何?」
「また似たようなサイト見つけたよ。今度はこっち試そうよ」
「いいけどさぁ……」
想像していたよりもすんなりと次を受け入れてくれたので、私は密かにほっとしました。元はと言えば私が言い出した事なので、それっぽく出来るようになるまで、めげずにこうして誘ってみようと思います。
「次までに握り拳は捨てといてね」
「高かったし、フリマアプリとかで売れないかな? 使ってないのは事実だし、間違って買っちゃいました! ってさ」
「一体どんな間違いが起こったらあんな物を購入するんだよ」
結局、私達はそれから一時間、握り拳の処分方法について真剣に話し合いました。
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