第十八章・和義の疑問と母の誓い
父と時折助け舟というか補足情報を入れていた達也と母と和也が話した過去の話を、和義はずっと黙って聞いていた。一字一句聞き逃さぬように。そして語り終わり、一息つくように全員が両目をつぶってうつむいたまま時間が過ぎていた。
いつまでも静止したこの時間が続くかと思われたが、和義がその空気を割って語り出した。
「そんなに大変だったんだ……」
父も母も達也も和也も目を開いて和義を見た。父が和義に話しかけた。
「よく、母さんを達也が怒らせることがあったろ? あれな、たぶん、達也なりに和也を喜ばそうとしてたんだと思うんだ」
達也が恥ずかしそうに頭をかきながらまた背中を向けて緑茶を飲んだ。
「もちろん、さっきの話を聞いたからこそそう思うんだけどな。それと、そうすることで母さんを試してたのかもな」
「また、暴行しないか?」
「まぁ、もうしないだろうけどな」
母はうつむいてコーヒーカップをいじっていた。和義がそんな母を見ながら父に話しかけた。
「ねぇ、今の聞いてて思ったんだけど、なんだか脳障害とかの人に対しての接し方が、おかしくない?どうして、障害を受けてる人だけが我慢して自由を束縛されないといけないの?何年か前に見たオリンピックも、健常者のはちゃんと放送で全部流すのに、障害者のオリンピックだけ、ダイジェストで済ますよね、何で?」
父は答えに困っているようだった。達也も相変わらずませているなぁと思いつつ、悩んでいた。すると、山仲医師が声をかけてきた。
「ついこないだも、障害者のかたたちが働いている施設で、障害者に対して虐待し、その証拠画像がありつつも二年間放置したあげく、死人が出てからやっと内部告発した施設を、存続させたままにしてという利用者たちからの声を聞き、非常に悲しい気持ちになりました。人一人殺した殺人者がいる・虐待をして傷つける暴行者がいる・それを知りつつ隠すひきょうものがいるのにもかかわらず、そんな施設にまだ通わそうという神経。それは、まともな、障害者のための施設がなさ過ぎるのが原因なので、利用者の気持ちもわかりますが、和義君が不思議に思う気持ちもわかります」
そう言って一息ついてから続けた。
「ですが、いやだからこそ、私たち全ての人間一人一人が、もっとしっかりしないといけないんでしょうね」
そう言って、また沈黙が続いた。
「さっき達也たちに『産んでくれてありがとう』って言われたとき申し訳ない気持ちとともに、とても嬉しかったのと同時に、母さんの言ってたことが、ようやく少し理解できました。今更遅すぎますけどね」
母が突然ポツリと語った。達也も和也も聞こえないふりをしてそっぽを向いてお菓子を食べた。母に向かって山仲医師が優しく話しかけた。
「そんなことないですよ。今の段階でも遅いなんてことないですよ」
すると山仲医師の娘が笑顔で、
「そうですよ。うちのパパとママでも、できたんですから」
と言ってウィンクして母を見た。
「辰子ちゃんありがとう、私頑張ります。これから改めて」
母がそう言うと、和義が驚きの発言をした。
「いっそもう一人子供をみごもって、今度はちゃんと子育てすればいいんじゃない?」
全員が驚いて和義を見て、全員が同時に、
――どんだけませているのだお前は?
と思っただろう。少なくとも達也はそう思っていた。
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