現実と幻想の境樹(RとFのきょうじゅ)
七海 夕梨
第1話 R-1 ルーちゃんに誘われて
「ねぇ、
突然、家に押しかけてきて何だろう? と思ったら、ルーちゃんこと、我が親友、
BCIG──それは近年VRMMOを、より、リアリティに実現させるアイテムとして話題になっているゲーム機器である。ただ、庶民が手に入れるには、ちょっとお高い代物だ。たしか20-30万ぐらいしたはず。
「無理だって、BCIGって高価でしょ、だかr
「大丈夫! 予備があるから」
「…………」
(おのれ、お嬢様めっ、予備ときましたか)
「だめ??」
「ちょっと、MMOは……」
PS(プレイスキル)やコミュニケーションが必須なもの──私には荷が重い。
「MMOじゃなくて
ルーちゃんは私の返答に怯むことなく距離を縮める。私が男性だったら、この美少女のむっちりとした大きな胸に、ころっといっただろうけど、そうはいかない。騙されちゃだめだ。
「お願い! フレンド紹介すると、新しい装備貰えるんだよ。ネトゲ友達は、すでにこのゲーム始めちゃってて、頼めるのは夏樹しかいなくて……」
……しつこいとおもったら新装備のためなのね。
「他に頼める人はいないの? 大学の友人とか?」
「うっ……ぜ、絶対無理! 皆、服とか男の話ばっかりだし……いいづらい」
「ん? 確か大学に入ったら、ゲームのサークルに入るって言ってなかったっけ? だから知り合いのいない、都心の大学を選んだんでしょ?」
「……又、駄目だったの。……ん、もぅ!! 夏樹が同じ大学ならいいのに! そうしたら……」
「いや、T大なんて学力的に無理。ルーちゃんみたく、頭がよくないもん」
私は大きくため息をつき、ちゃぶ台の上のお煎餅をポリポリとかじった。
友達が一杯でも、自分の好きな事が言えない
まぁ仕方がない。ルーちゃんは大手企業、立花グループのご令嬢、しかもドイツ人の血を引いているせいか、日本人離れした堀の深い美しい顔立ちと、体型の持ち主なのだから。その上、文武両道という──隙のないハイスペックぶりに、理想的な、お嬢様像を彼女に夢見てしまう人が多いのだ。
そんな彼女が、実は、重度のオタク(しかも腐のほう)&ゲーマーだとは誰も思わないし、信じない。高校時代なんてファンクラブの人たちは、一種の宗教信者のようだったから、大学でもそうなっちゃって言いづらいのかも。
というわけで、彼女の裏の顔を知る(というか偶然知ってしまい、即、捕獲された)私は、度々こういったお誘いを受ける。その事はとても嬉しい。転校ばかり繰り返していた私は、友人が極端に少ないからだ。
けど、今回のように他人とレベル差が付くと遊び辛くなるゲームや、共闘でPS必須といった類のゲームに誘われるのは困る。
だって、私は、極度の
MMOというゲームは仮想世界とはいえ、その中にはゲーム独自の社会がある。周囲に合わせて極端にプレイできない私は、その世界でよい思い出があまりない。
はぁ~、どうせ誘われるなら、可愛いお洋服とか買いに行ったり、お洒落なカフェに行くとか、一般女子的なお誘いをしてくれないかなぁ。私から言ったら、何故かメイド服を着せられて本を売るお手伝いになるし。
───とか、現実逃避してる場合じゃなかった。何とかうまく断らないと。そろそろバイトに行かないといけないし。
ちらりとルーちゃんを見ると、期待の眼差しで私をみている。
仕方ない………。
ここは一度やると言っておいて、後で、BCIGなんて高級品は借りれないと断ろう。
それでも押し付けられたら、キャラだけ作って、あとでやめて返したらいい。
限定アイテムさえ手に入れば、勢いもきっと止まるはず。
「わかったよ。なら、キャラだけ作るけれど、続けるかはわからないよ。バイトもあるし」
「えぇ!! 一緒に遊ぼうよ。今度のゲームは起動時に、アシストNPCがランダムで1体ついてくるから。私がいない時は、そのNPCと組めばボッチにならないし、レベル差も開きづらいよ」
「──ぐっ、人が気にしてる事を」
「それにタローもいるしさ。あいつはNPC萌えでやってるから、まったり遊んでくれるよ」
タローさんとは、過去に何度かしたMMOでお世話になったネトゲ友人だ。ゲームスキルが凄く高く、ルーちゃんともとても仲が良い。
「……タローさんにまた迷惑をかけるわけには」
操作が下手な私は、すぐに死ぬせいかレベルがなかなか上がらない。次第に周りとレベル差がつき、ゲーム内でできたフレンドとは疎遠になっていく。それでもルーちゃんとタローさんは一緒に遊んでくれるのだが、二人はPSが高い為、フレンドたちからのお誘いが多い。それを断って私と遊んでくれてると思うと、なんだか申し訳なくなってしまい、正直つらいのだ。
「迷惑って……あいつはそんなの気にしないよ」
「……………」
私の反応にルーちゃんは、大きくため息をつくと、なにやら鞄をごそごそと探りだした。
「なら、ゲーム内の観光だけでもしてみてよ。なんせNPCのキャラクターデザインは、この私が敬愛する
でたよ……ルーちゃんが崇拝する絵師、音宮様。
たしか絵以外にも科学者として、ご活躍されてる天才な人だ。BCIGときいて、そうではないかと思ってたけど、やはりこの人が関わってたんだ。
ルーちゃんはウキウキしながら、私の食べていたお煎餅をのけると、重厚な本を目の前に置き、「見てみてよっ。とっても素敵なんだ」とほほ笑みかける。期待に満ちた視線に負けてしまい、お煎餅を食べる事を諦めた私は、しぶしぶとページをめくった。
本には小柄の釣り目の少女、豊満な肢体の美女、頭に猫みたいな耳が生えてる男性など、美しい絵が多数描かれていた。彼らには名前がないようで、かわりに番号表記がされており、その検索番号から推測するにおよそ500体はいるようだ。
「綺麗………」
アニメっぽい絵柄ではなく、ちゃんとリアリティのある絵柄が個人的には、好ましい。
「でしょ? キャラは人工知能が搭載されて、声は人気声優さん達を使ってるの! 私のお気に入りは金髪碧眼のこの方! でもOβ(オープンベーター)の時に不具合があったのか、消されてしまったのよね。それと~」
と、ルーちゃんは恋する乙女のように、瞳を輝かせながらゲームについて語り続ける。
やばい……。
このままだと話しが終わらない。バイトに遅れてしまう。
「る、ルーち──
「妖精とか、ドラゴンとかもいてね
「あ、あのね?
「今度一緒にドラゴンに乗ろうよ~」
「バイトにいかないといけないんだけど!!」
声をやや荒げて止めると、ルーちゃんは大きな瞳をさらに広げて固まった。
「───えっ? バイト……ごめん、夏樹‥‥そのぉ~今からは、どうしてもだめ?」
ションボリと瞳を潤せながら落ち込むルーちゃん……くぅ、か、可愛い……。
「金曜の夜に、気が向いたらやるよ。てことで、もう家から出ないといけないから? ね?」
私はルーちゃんの潤んだ、愛らしい視線に負けてしまい、つい、譲歩案を出してしまった。
「本当? さっすが夏樹! 愛してる! じゃあ、BCIG置いて行くね」
「え……モッテキタノ??」
「ふふっ、昔、パパがもらった試作品だけど、互換性はたぶん大丈夫。お金かかってないから、高価だから借りれない! なんて遠慮はいらないよっ」
ルーちゃんは、ころっと笑顔に戻り、机の上にBCIG──黒い
くっ……先読みされた。
私が使っても、BCIGって、すごーい、で、終わりだと思うのに。
喜んでいたルーちゃんの後目に私はそんな事を考えていた。
この時は、どうせ長続きしないだろうなぁって思っていたんだ。
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