13 リナリアの本質

 

 カーネリアンはリナリアに恋情を抱いているが、リナリア本人も、周囲にもその事実に気付く者はいない。

 彼は普段、好きな人に特別構われているのに、喜ぶ素振りはまるで無い。

 その時の態度は、好意を仄めかすものではなく、リナリアの自己中心的態度に、嫌気がさしているようにも見えた。

 カーネリアンが、そう見えるように意図して行動していたからだ。


 最初は確かに、気にくわない部分もあった。

 だが、一緒にいればわかることもある。

 リナリアが自分を偽っていることに、カーネリアンは薄々気付いていた。

 強気で、我が儘で、驕っている、というのが、リナリアに対する共通認識である。これだけ聞くと、何故リナリアが人気者なのか分からないだろうが、彼女の類いまれなる美貌は、全ての欠点を補って余りあるものだ。

 カーネリアンもその容姿の美しさに見惚れたことがないと言えば、嘘になる。

 それでも見ためだけで好きになった訳ではない。


 本音が言えなくて、自信がなくて、母思いなリナリア。

 カーネリアンは共に過ごすうちに、リナリアの本質を垣間見た。

 恐らく、気が滅入った時などに、ふと滲み出ていたのだと思う。

 表面上の彼女と、内なる彼女の印象には、隔たりがあった。

 気付いてしまえば、無性に優しくしたくなった。

 非常にいじらしく思えて仕方がない。

 つまりは、その頃から好きになっていたのだろう。


 友人を名乗っていた周囲の、手のひらの返しようには呆れてものが言えない。

 表立って好意を示しているわけではないカーネリアンはともかく、散々持ち上げて助長してきた連中が、誰もリナリアの味方になってやらないのだ。

 神様の恩恵を受ける街、と名高い場所では、呪い持ちとはそれだけ異質で、受けいれ難いことなのかもしれない。

 それにしても、リナリアが哀れだった。


 話すことの出来ないリナリアは、嘘をつけなくなったようなものだ。

 強気な発言で誤魔化すことが出来ないため、表情からよく読み取れてしまう。

 不安な時も、安堵の瞬間も、感謝の気持ちも、リナリアは潤む瞳で伝えてきた。

 健気で美しいそれは、カーネリアンだけが見ることが出来た。不謹慎だが、純粋に嬉しかった。


 端的に言えば、カーネリアンはリナリアの気を引くために、無愛想に接していたのだが、その結果好かれると思ったことはない。

 まして恋人になれるはずもないと思っていたし、精々他と違う、と認識されるために行動していた。

 カーネリアンは初めから諦めていた。

 勝算のない賭けはしないのだ。

 大多数に埋もれて、信者のように遠くから眺めるなんて御免である。

 リナリアから向けられる感情が、無関心以外であればよい方だろうと、身の程を弁えていた。


 それが、どうだろう。

 リナリアが辛く悲しい思いをしているというのに、好機だと思っている。

 このような仕打ちに、確かに憤っていたというのに、リナリアを拒絶した人達を出し抜けると思っている。

 孤立したリナリアの、唯一の味方になれる。

 彼女が、不安を湛えた表情で、カーネリアンを頼ってくれる。

 想像して浮かんだ感情は……愉悦だった。

 今なら、優しくしても、リナリアは離れていかない気がした。

 だから、リナリアに親切にすることを、カーネリアンは自分に許した。







 教会の一件から幾日か過ぎても、街の人々のリナリアに対する態度は軟化しなかった。

 笑顔で負けてくれた店の人にも、リナリアが手振りで買いたいものを伝えても、「黙ってちゃわかんないよ」と冷たくあしらわれる。

 筆談しようとすれば、それを待たずに皆離れていってしまう。

 リナリアは辛かったが、何とか耐えていた。母の存在と、カーネリアンが変わらず側に居てくれることが救いだった。

 カーネリアンはリナリアと距離を置かなかったが、周囲とも角がたたないように、上手く立ち回っているようだ。


 フリージアのことも耳に入った。

 極々弱いが、神様の加護を受けているらしい。

 以前のリナリア程ではないが、羨望の的になっていた。

 時々、何か言いたげなフリージアと遠くから目が合うことがあったが、周りが二人を近づけさせまいとしていたので、会う機会はなかった。

 リナリアは反省していた。

 以前の自分の態度もそうだが、今の状態になって、フリージアの気持ちがわかった気がした。

 彼女はきっと、リナリアの言葉に酷く傷付いたはずだと、今更だと思いながら、心が傷んだ。

 謝りたくても、謝れない日々だった。

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