10 二人目の加護

 

 神仕えは一目見ただけで理解した。

 フリージアは、加護を受けている。

 彼女を愛した神様がいたのだ。


 フリージアのことも、昔から知っているが、加護を感じたことはない。

 リナリアのように生まれ持ったものではなく、後天的なものだろう。

 前に会った時は分からなかった。

 つまり、フリージアと会っていなかったここ数日ということになる。


 その気配は酷く弱々しい。あまり力の強い神様ではない気がした。

 リナリアに加護を与えた神様のほうが、余程強く感じる。

 その点でも合点がいく。


(だからリナリアは、呪いを受けたにも関わらず……)


 恐らく、加護を与えてはいなくても、神様の存在はフリージアのすぐ側にあったのだろう。


 とある神様に愛されたフリージアが、リナリアの言葉に、深く傷ついていた。

 フリージアの落ち込みように、神様はリナリアを恨んだ。

 そして、リナリアを呪ったのだ。

 今までは見守るだけだったフリージアには、加護を与えて。



 まずはフリージアの話を聞こう。神仕えはそう思った。


 彼女の話はやはり、リナリアのことだった。

 リナリアと仲直りしたいが、どうすればいいかわからないという。

 少女の無垢な悩みに、微笑ましい気持ちになる。

 この純粋さが、好かれる所以だろう。

 神仕えは、真摯に相談に応じた。

 きっと、リナリアと仲直り出来ると、願いも込めて言う。

 我が儘に振る舞うが、母思いで根が優しいリナリアと、リナリアに向き合おうとするフリージアは、良い友人になれる。

 本心からの言葉を告げて、励ました。

 フリージアは大分気を持ち直したようだった。


 次に、神仕えは自分が感じ取った加護について、誤解の無いよう、丁寧に伝えた。







「私に加護なんてつかなければ、リナリアは呪われなかったんだね」


 フリージアは、自分のせいでリナリアが呪われたと思ったようだ。


「どうすればいい? リナリアに声を返したいの」


 泣き腫らした彼女の目から、また涙がこぼれる。

 リナリアに嫌われることも辛いが、あの美しい声を奪うなど、あってはならないことだと、フリージアは思った。


「リナリアと仲良しになればいいんですよ」


 リナリアが、フリージアを害する存在でなければいいのだ。

 神様の怒りが鎮まるまで、フリージアはかわらず、リナリアのことを好きでいればいい。

 願わくは、呪いが解けたそのあとも。


「貴女もとても優しい子ですね。リナリアと同じです」


 神仕えがフリージアの頭に手を乗せ、優しく撫でる。

 フリージアはぐっと堪えようとしていたが、また涙が滲んだ。

 リナリアと同じだと言ってもらえるのも、フリージアにとっては嬉しいことだった。


 この時は神仕えも、フリージアも知らなかった。

 呪いの噂がねじまがり、広がっていることに。





 リナリアの声が出なくって三日が過ぎていた。

 彼女は教会に行かず、母の側にいる。

 言葉が話せないということは、いざというとき、何も伝えられないということ。

 母に何かあったら、どうしよう……リナリアはしきりにそればかり考えていた。


「リナリアったら。私は大丈夫なのよ? 貴女のほうが大変なのに……」


 母が謝るので、リナリアは首を振った。


 しばらくカーネリアンと会っていない。

 こんなに長いのは、カーネリアンが旅行に行って以来だ。

 また暗い思考がリナリアをのみ込む。

 もし、カーネリアンがフリージアのことを好きだとしたら、今のリナリアを見てどう思うのか。

 好きな子をいじめた、と怒るのか。

 いい気味だ、と嘲るのか。


(カーネリアンがそんなこと、するわけないけど……)


 明日は教会へ行こう。

 そう心に決めて、リナリアは音の出ない吐息を出した。


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