第49話


 ユニコーンと夕立(ゆうだち)の座っているテーブルには、飲み物以外が置かれている様子はない。

むしろ、動画を視聴しているタブレット端末以外は見えないだろうか。

「私を呼んだ理由は?」

「それは、言わなくても分かるはずでしょ――」

 ユニコーンのリアクションを見て、夕立は何かを隠している可能性も――考えている。

「アレだったら、私よりも適任な人物がいるはず」

「それは、どういう事なの?」

「あのニュースの数々は、ネット上のまとめサイトから発見した物ではなくて――」

「まさか、あの情報の数々は――」

 夕立がユニコーンに聞きたかったのは、例の映像に関しての事だったのである。

あの内容が真実かどうかは別としても――あれだけの情報量には衝撃を受けていたと言えるだろう。

「情報は――自分で集めた物だけど、全てが真実という保証もない」

「全て?」

「そう、全て――。アレらの情報は迂闊に鵜呑みをすれば――と言うトラップを用意してある」

「トラップ?」

「既に一部のサイトが閉鎖に追い込まれている現状を踏まえると――引っ掛かっているサイトもあるという証拠か」

 ユニコーンはあの映像にいくつかのトラップを仕込んでいたらしい。

夕立はどれがトラップなのかは見当がつかないのだが、何となくはわかっている。

「一つだけ言えるのは――」

 ユニコーンが何かを言おうとした矢先、その目の前に置かれてたのは――。

「お待たせしました」

 男性スタッフと思わしき人物が置いた食べ物、それはどう考えても見た目は『たこ焼き』と呼ばれる食べ物だ。

それにしてはソースの香りはしないし、青のりも乗っていない、形状が丸いだけで別の食べ物なのか――そう連想させるような気配もする。

洋風のプレートにおかれたソレは――フォークで食べるようだが、夕立にはソレが何なのかは理解できない。

そのプレートに乗っている丸い物体、それにユニコーンがけたのは――ソースはソースでも、チョコレートソースだった。

(たこ焼きじゃないの――あれは)

 夕立は全てのメニューを把握している訳ではないので、この食べ物が運ばれてきた時には驚きを感じていた。

確かにたこ焼きは数種類がメニューに表示されているのだが、冷たいたこ焼きなんてあるのだろうか?

(チョコレートをかけるたこ焼きと言うのも聞いたことが――)

 そう思っていた夕立だったが、ユニコーンは大口を開けて――その食べ物を口に入れる。

その後に熱がるようなアクションはしなかったし、口で吹いて冷ますような事もしていない。

一体、この食べ物の正体とは――。

「これ? これは――チョコ焼きよ」

 ユニコーンは夕立が注文した物を興味深そうに見ていたので、そう答えた。

確かに形状はたこ焼きと同じだが、衣はホットケーキに近く、中に入っているのはチョコレートである。

出来たてではなく、冷ましてから運んでくるために――少し時間がかかっていたようだ。

(うーむ、こう言うスイーツもあるのか)

 夕立は他の事を聞こうとも考えたが、どうでもよくなってしまう。そして、気がつくと彼女もチョコ焼きを注文していた。

さりげなくだが、ユニコーンとは違ってはちみつをかけていたようだったが――。



 再び時間を四月一日に戻す。オケアノスの何時ものリズムゲームコーナーでは、様々な上位プレイヤーが集まっていた。

それは、ここでリアルのゲーム大会を行うのでは――という勢いでもある。イースポーツも盛り上がっているので、そうした流れもあるかもしれないが。

「おいおい――マジかよ」

「まさか、あのプレイヤーは――?」

「あり得ない。何かの間違いでは?」

「アイオワやジャック・ザ・リッパーは確認出来たが――他にもいるのか」

「別のショップでスノードロップらしき人物はいたが――」

 午前一一時三〇分、そのプレイヤーは遂に姿を見せた。一時期はコスプレイヤーが出禁になったことで自身もとばっちりで出禁となっていたレーヴァテインである。

他にも有名プレイヤーや上位プレイヤーも来ている中で、思わぬ注目をされていたのは彼なのかもしれない。

三番台でプレイしていた彼は、淡々とハイスコアを更新していく事にギャラリーが衝撃を受けていた。

「ランクいくつだった?」

「どう考えても、ランクⅨは――って、ランクⅦ?」

「あれはランク詐欺では――?」

「どう考えてもランクⅩは盛り過ぎでも、推定でランクⅨはあるだろう」

 ギャラリーの声を彼が効いている気配は全くない。ARメットを被っているのかどうかも認識しにくいのも大きいが。

やはり、あの赤いコートでフードを深く被るスタイルは変えない気だろうか?

(プレイ回数等を踏まえると、あれを詐欺と言うには早計の様な――)

 四番台のプレイが終了し、盛り上がる三番台が気になったアイオワは――そのプレイを見て色々と疑問に思う個所があった。

ランク詐称と言うには、あまりにも違うと思ったからである。

【ランク詐称? ありえないだろう】

【プレイ回数を踏まえれば、あれは妥当だ】

【下手にプレイ回数が一ケタでランクⅨとか言ったら、それこそチートを疑われる】

【じゃあ、あの超絶技巧なプレイはどう説明する?】

【動画を見て完コピするには無理があるのに加えて――そう言う事だろうな】

【アレが本当の意味でリアルチートとか言い出すかもしれない】

 配信でもコメントが賛否両論であり、下手をすれば炎上しかねないような雰囲気でもある。

しかし、レーヴァテイン自体はSNS炎上やSNSテロは望まないだろう。それでも自分の存在価値を上げたい為にSNSを荒らす人物は後を絶たない。

だからこそ――ARゲーム運営側でSNS炎上に対抗しようと様々な手段を展開してきた。その内の一つが『リアルゲームプロジェクト』という噂も拡散している。

一体、どれが本物でどれがフェイクニュースなのかは――定かではない。

「まさか、あの曲をプレイするとは――予想外と言うべきか」

 アイオワが驚いたのは、レーヴァテインがプレイしていた曲である。ランキング上位の『パルクール』と言う楽曲だった。

疾走感だけでなく、トランス風味のサウンドもランキング上位に入っている理由かもしれない。

ただし、譜面等を見ていると――リアルのパルクールとは異なりそうなスキルが要求されるのは言うまでもないが。

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