第36話


 アイオワとランクⅨのプレイヤーによるマッチングは――まさかのワンサイドゲームとなった。アイオワの完全勝利とまではいかないが――。

その結果に動揺する様子はなかったが、歓喜の嵐になる事もない。その理由はセンターモニターの背後ではプレイしているプレイヤーもいる為だ。

一部プレイヤーのようにノイズカットをすればいい話とも言うかもしれないが―ー誰もが動揺のシステムを使う訳ではない。

特定プレイヤーが使っているからと言って、それを使わないようなプレイヤーに押しつける方法は――ネット炎上を招きかねないだろう。

「あそこまで完封ペースとは思わなかった」

「あのプレイヤー、チートだったのでは?」

「ランクⅨの方か? 向こうに関してはプレイスタイルが――」

「違う。アイオワの方だ」

「ソレは考えられない。あそこまでの実力者がチートを使うなんて」

「アスリートの世界でも、ふとしたきっかけでドーピングに手を出すケースはある。ゲームの世界でもイースポーツと呼ばれ始めている今ならば――」

「仮にチートガジェットを使っていれば、データの読み取り段階で判明するはずだ。それを両方とも通過しているという事は――そう言う事だ」

「本当にチートを使っていないのであれば、あのプレイはどうやって――」

「それこそ――リズムゲーマーの腕の見せ所だな」

 ギャラリーの様々な発言も、プレイしているプレイヤーの耳には入っていないだろう。ノイズカットをしていなくても自分達には他人の出来事は関係ない――のかも。

(そう言う事か――)

 センターモニターでの結果を全てチェックする事無く、蒼風(あおかぜ)ハルトは足早に二番台の方へと向かう。

自分の番が来た為に向かっていたのだが、ソレとは別の理由もあったようである。それは、ハルトに向けられている視線にあるのだろうか。

彼はプレイする為に再びメットのシステムをシャットダウンし、その後にログインを行う。長時間のプレイと言う事もあり、稀に電源を切っておかないとメットの方がオーバーヒートしてしまう事情がある。

ハルトの使用しているメットでは数分のシャットダウンが必要だが、一部のプレイヤーが使っている物はバージョンアップしているようで、数日間の電源入れっぱなしでも問題はない。

【ランクⅩに一番乗りしそうなプレイヤーっているのか?】

【最近出てきたプレイヤーはチートを使っていたことで抹消されたようだが――】

【やはりか。FPSでチートを使うプレイヤーがいるのは分かるが、リズムゲームでチートを使うのか?】

【確かにチートを使っても有利になるような要素は――】

【一体、何が起きているのか?】

 ARバイザーをシャットダウンしてからのサイキ道をした関係で、つぶやきサイトの最新つぶやきの一部も表示される。

しかし、それに興味を示すような仕草は一切見せずに――そのままログインを行った。



 一曲目はあっさりとクリアし、マッチングしたプレイヤー乃スコアも――。ハルトにとっては、これ位は余裕と言えるのだろうか?

しかし、そうした考えはネット上で神格化しようという一部勢力の工作とも考えられるだろう。

(またマッチングが――)

 二曲目を選曲した段階で、再びマッチングが入る。一番台でなければマッチングが入るケースが多いので、こればかりは仕方がない。

しかし、今日に限って言えば頻度が多いという感じがあった。土日や時間帯によっては――相当なマッチングも入るだろう。

その分――サーバーに負荷もかかるようだが、それさえもあっさりと解決してしまうシステムを導入しているのが、ARゲームがVRゲーム等よりもすぐれている箇所と言える。

ARアーマーやその他のガジェット類を現実の空間に呼び出すと言った事でも―ーサーバーに負担がかかるので、それを踏まえると一目瞭然だ。

(プレイヤー名は――?)

 プレイヤーの表示は、何とアンノウンだったのである。ARゲームでは何らかのレアケースでない限り、プレイヤーネームは存在するはずだ。

それなのにアンノウンとは――何が起きているのか? しかし、実際に見て見るとランクはⅤとなっている。

つまり、このプレイヤーはアンノウンを名乗っているのだ。確かに運営側判断のアンノウンの場合はランク表示もない為、この場合は正常と気付くべきだったが。

(まさか――他のプレイヤーと名前が被ったのか?)

 プレイヤー名の重複、不適切な名前、悪質な炎上行為を誘導する名前――そう言った物は運営判断で強制アンノウンと変更されてしまう。

その場合はランク表示やアイコン、アバターも非公開となってしまうのだが、マッチングしたプレイヤーにはその傾向がない。

もしかすると、意図的に名無しを名乗っているか名前を決めかねているのかもしれないだろう。

(ランクⅤにまで昇格して、名前を決めかねている――)

 何かがおかしいと機器の故障も疑うが、そう言った事もない。ARアーマーやガジェットにはノイズも発生している形跡もなく、非常事態と言う事でもなかった。

つまり、使用しているガジェットは正常と言う事を意味している。

『君が噂の――リズムゲーマーか』

 声の感じから女性だと分かったが、表示されたARアーマーはそう見えないような――重装甲系アーマーだ。

ハルトは見間違いとも考えた。しかし、ARバイザーの方は正常なので、この画像がチートで歪められた訳でもなかったのである。

『私は――バーチャルゲーマーの夕立だよ』

 彼女の名は夕立(ゆうだち)、自分でバーチャルゲーマーと名乗っていた。

『バーチャルゲーマー? あのCGアバターの――』

『リアルの実況者やゲーマーとは違うから、そう言う認識でも構わないわよ』

『どうしてマッチングを?』

『自分のいる筺体の都合上よ。マッチングキャンセルは一番台だけだし』

『他にも同じランクのプレイヤーとマッチングするように、絞り込みは出来るのに』

『敢えて絞り込みのようなシステムを使わない。そう言う事よ』

 どうやら、夕立がハルトとマッチングするように調整したのかは不明だが――そう言う事らしい。

楽曲の方はお互いにバラバラではなく、両者ともに同じ曲だった。偶然ではなく、難易度も全て一緒というシンクロまで見せる。

《不正破壊者の我侭姫》

 まさかの曲名を周囲は目撃し、これに関して歓声が出るほどだったという。

不正破壊者(チートブレイカー)の我侭姫(デンドロビウム)――この楽曲は別の意味でも隠し楽曲に近いのだが、両者ともに解禁しているという事は――。

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