第22話


 三月四日、この日はあいにくとも言うべき曇り空である。しかし、屋内施設でもあるオケアノスには――天気は無縁の話かもしれないが。

騒がしかったのは――リズムドライバーの設置されている場所なのだが、その場所は一箇所だけではなかったのである。

「気付けば、三店舗も増えている――合計で六箇所か?」

「随時配置中とか発表があったが、足立区と草加市で集中しているのかもしれない」

「おそらく、あれは筺体の仕様の関係があるのだろう。設置エリアが限定されているのは」

「エリア限定して得をする事があるのか?」

「全国でプレイできない事で逆に観光資源にはなるだろう。横浜の某焼売みたく――何処でも買えない事に価値を見出すパターンだ」

「しかし、足立区と草加市の一部エリアのみでいいのか? 鉄道関係だと乗り換えが面倒だし――」

「ホテル等もないといいたいのか? オケアノスはそこまで長時間空いているような場所ではない。それに――」

 入り口近くにオープンしたばかりのARガジェットを扱うアンテナショップには、二台限定ではあるがリズムドライバーが置かれている。

こちらの筺体は三月になってから導入されたとの事だが、大混雑と言えるような展開になっていた。

ギャラリーの方も次第に集まり始め、センターモニターでは整理券を発行しようとプレイヤーが行列を作っている。

アンテナショップ側も、ここまでの集客能力があるとは考えていなかっただろう。

実際、センターモニター以外でも別の整理券発行用の機械を設置し、そちらでも発行できるようにした。センターモニターの目的を考えると負担軽減と言うべきか。

「やはり、海外からの観光客が多い気配もする」

「それはそうだろう。秋葉原とは違った意味でも話題だからな――」

「よく電車で行ける物だな」

「最近では高速バスも導入されているらしい。観光の業者もオケアノスツアーを企画している場所がある――」

 リズムドライバーのプレイを見ているギャラリーからは様々な声があった。

この二台では、一番台が外国人観光客のプレイだが、意外とやりこんでいると思わせるようなプレイでて盛り上げている。

使用しているガジェットがビームライフルと言う事もあって、おそらくはサバゲ―モチーフのゲーム出身者だろうか?

「向こうのプレイヤーも射撃か――」

 男性プレイヤーはARメットのバイザー部分に表示されたデータを見て、相手も遠距離系と判断する。

そして、リズムに合わせてターゲットへ的確に射撃を行い、命中させるのだが――スコアは思った以上に伸びない。

タイミングは悪くないのだが、彼には別のターゲットをスルーしている個所があった。つまり、彼は普通にリズムドライバーをFPSと認識しているのだろう。

チュートリアルもプレイしたのだが、ある程度の部分を見てからは飛ばしている様子でもある。



 その台の隣――二番台でプレイしているのは、蒼風(あおかぜ)ハルトである。

彼の装備は一時期に姿を見かけなくなった時期にカスタマイズしたらしく、とあるアニメをモチーフにしたような青色メインのアーマーを装備していた。

SFヒーローと言うよりは、パワードスーツ系と言う様な装備は周囲のプレイヤーを驚かせる。

(向こうも射撃系――)

 使用しているのは、ガンブレードであり――そこから別の戦略を習得したと考えられるだろう。

しかも、一番台のプレイヤーと対戦をしていたのである。どうやら、この台の設定は常時対戦台と言う事のようだ。

(だが、こちらは射撃以外にも近接対応が出来る)

 ハルトの使用しているガンブレードは射撃と接近を両方とも使用可能な為、初見としては初心者向けにも見える。

しかし、射撃だけと近接だけに比べると両方に対応するのは二種類のリズムゲームのシステムを同時に覚える事に等しかった。

その為、リズムドライバーでも最初は片方をある程度慣れておくことを推奨しているのも――その証拠だろう。

ハルトのターゲットは、射撃モードから近接モードへと切り替えると同時にターゲットの形状が変化するだけでなく、タイミングも変化する。

射撃は確かにターゲットが見えてから対応する事も可能であり、接近される前に速攻で撃破する事も可能だろう。

近接は逆に言うと、動けるエリアを考えると――射撃よりも不利だ。射程も狭くなる為に不利に見えるかもしれない。

だが、近接にはコンボを決めた際にスコアの倍率が変化する機能が追加されていた。

その影響もあり、現在は近距離+遠距離でのプレイスコアは近距離のみと遠距離のみとは別に集計されている。

「そう言えば――聞いた事がある」

 ハルトのプレイスタイルを見たギャラリーの一人は、まるで解説役になったかのように喋り出した。

「最近になって近距離+遠距離のハイスコアを集計し始めて、そこで上位ランカーに迫るスコアを出すプレイヤーが出てきたと――」

「それが、ハルトと言う事か?」

 解説役のギャラリーが最近になってハイスコアに名前が出始めたプレイヤーに関して言及、別のプレイヤーがそれがハルトらしい――と尋ねる。

どうやら、それは正解だったらしい。今では、彼は近距離+遠距離ではトップランカーに近い実力を身に付けたと言ってもいい。

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