第17話


『待機列の椅子も移動していたのか――』

 ジャック・ザ・リッパーの座ったベンチ、それはリズムドライバーの待機列専用であり、休憩用ではなかった。

しばらくして、その事実に気づいて――整理券を発行しに急いだ訳だが――。

【スノードロップ、あそこまで強いのか】

【ネット上の噂だけだと思っていた】

【あの動画は真実だったのか】

 ネット上でも、スノードロップの動画が拡散しており――評価は賛否両論だが、事実である事は認識していた。

それ程に彼女のプレイは――常識が通じない物だったのである。

『スノードロップ、リズムドライバーを何だと思っているのだ』

 ジャックはスノードロップのプレイスタイルを見て、どう考えてもFPSの動きではないと確信する。

それだけではない。彼女のスキルは、FPSのソレとかリズムゲームのソレでまとめられる物ではないのは――明らかだった。

このゲームのジャンル自体がアクションではなく、リズムゲームなのはジャックも認識しているが、スノードロップの動きは――。

(人間の動きではない――という表現は不適切だが、完コピできるプレイヤーは指折り数える程度か)

 現段階でジャックはスノードロップに対抗できるプレイヤーはいないと認識した。

勝てるプレイヤーに覚えがない訳ではないが、別ゲーのプレイヤーをリズムドライバーに呼び込むのは明らかに違うだろう。

それを踏まえると、いくら上位プレイヤーが束になってもスノードロップに勝つ事は不可能と断言出来る。



 端に設置された一番台――そこに姿を見せたのはアイオワである。既に彼女はARメットを被っており、戦闘態勢だが――。

《二曲プレイは確実にできます》

 一番台のインフォメーションプレートには二曲は確実にプレイ出来ると書かれている。

他の三台には書かれていないので、オプションを変えているのだろうか?

その内の四番台では――まさかの展開が起きていた。歓声もそちらからしたものであり、アイオワもそちらの方を振り向く。

しかし、振り向いても彼女の視点からでは詳細な内容は伝わらない。後でプレイ動画を確認出来るはずなので、そちらで確認する事にした。

(向こうの台は既に並んでいるプレイヤーが多くて、移動できそうにないが――)

 アイオワの方のアーマーは既に装着されている。そのアーマーは、ミリタリーチックだが――どちらかと言うとSFに片足を突っ込んでいた。

しかし、アーマーの形状やデザインはゲームに影響しない。ARゲームは基本的にSG演出で装着されるガジェット類に重量はないからである。

彼女に装着されたアーマーは過去に自分がプレイしていたFPSゲームとは別の物だが、知っている人間からすれば似ていると言われるだろう。

「あの武器は無茶だろう」

「スナイパーライフルを持ち出して、大失敗したプレイヤーもいる話だ。遠距離武器は不利だろうな」

「アサルトライフルやサブマシンガンと言った物ならば、話は別だろう。武器の取り回し的な意味で」

「スナイパーライフルではなく、あちらはバスターライフルだ。ビーム兵器カテゴリーに該当するが――」

「リズムゲームにビーム兵器が有利か、実団兵器が有利か――と言う話自体が不毛だろう」

 ギャラリーの話にもアイオワは反応していない。おそらく、周囲が他のリズムゲームの爆音設定で聞き取りにくいのも理由だろう。

『どちらにしても、これが――』

 チュートリアルをプレイしたアイオワは、早速一曲目にトライを始める。

レベルは☆三個のノーマル譜面――。☆一個の譜面をプレイするのがセオリーな状況で、まさかの☆三個二兆戦は――無茶と言える物だった。

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