第16話


 午後一時、ある人物のプレイに沸き上がる事になった。

「リアルで見るのは初めてだが――これは噂になるのも納得だ」

 筺体でのプレイを直接見ていたギャラリーの一人は、この光景に衝撃を受けている。

ネット上では噂として拡散する為、嫌でも耳に入る名前なのだが――その存在にこの人物は懐疑的だったと言う。

しかし、この光景は特撮番組の撮影でもなければ、仕込みや八百長の類でもない。

 その人物の名は、スノードロップ。ネット上では神格化された女性プロゲーマーとも言える存在だ。

しかし、彼女は神格化に関して――あまり自分では言及したがらない。ネット上では容認しているという話もあるが、本当だろうか?

単純に何も答えない事を容認しているとネットで勝手に認識しているだけなのではないか――という意見も存在する。

彼女がこれに言及しないのは、下手に炎上させたくないと言う説もあるが、それも一部のファンが言及している物であり、本人の発言ではない。

 彼女のプレイは、ネットの外で様々な発言があろうとも――それを黙らせるようなオーラを感じられた。

実際のプレイを巡って炎上したとしても、それは一部のまとめサイトによる物とあっさり見破られてしまうのには――こうした事情もあるのだろう。

プレイに関して視聴者は多くを語る事無く『衝撃を受けた』という視聴者が多い。それ程に、下手な語りは炎上を招くと言うマナーが存在するのだろうか?


 その外見はネット上で言及されていた白をメインとしたアーマーなのは間違いないが、動画で目撃されたのとは微妙に細部が違うように感じられた。

腕のアーマーも違うし、脚部は更に軽量化を図っているのかもしれない。ARアーマーは重量がCGと言う関係で重さがないのに。

『この程度では――まだ』

 この声が周囲には聞こえていない。やはり、彼女もスピーカーをカットしているのだろう。

プレイ終了後にはそのまま足早に姿を消したのだが――その時にメットはそのまま被っていた。素顔を見せたくない事情でもあるのだろうか?



 スノードロップの来店から一時間が経過した午後二時、姿を見せたのはインナースーツに破れマント、メット姿のジャック・ザ・リッパーである。

そして、適当に空いているベンチに座り――タブレット端末を操作し始めていた。単純にゲームのプレイ待ちではなく、小休止の認識――だろうか?

ジャックとしてはスノードロップの出現に関して――何も言及はしていない。ジャックとしては――スノードロップも一種の都市伝説と言う認識なのか?

『都市伝説と言えど、所詮はネット炎上勢力やアフィリエイトでひと山当てようと言う勢力の――』

【スノードロップが来ていたらしい】

【!?】

【バーチャルゲーマーだったのでは? 現実にいるわけが――】

【バーチャルゲーマーも同じだろう。完全に架空の人物であればCG映像だと速攻で分かるはずだ】

【ARゲーム自体がCGゲームでは? どうせNPCをPCと思いこんで拡散しているだけでは――】

 ネット上でのつぶやきタイムラインをジャックはタブレット端末で確認するが――表情一つ変わっていない。

厳密に言えば、ARメットを被っている関係で素顔が見えない事もある。そこからどのような表情を予測するのかは――不可能に近いだろう。

さすがのジャックも、これだけの反応にはコメントを失っていた。むしろ、自分よりも目立っている可能性もある――と。

『しかし、神格化されたゲーマーには興味が――』

 色々と突っ込みたい個所はありつつも、ジャックはネット上で話題の動画の一つをチェックする。

そこで、想定外の物を目撃する事になるとは――この段階のジャックは知らなかった。



 ジャックのいる場所とは――数メートル離れている程度のリズムドライバーのガレージ付近、そこにはガジェットを品定めするアイオワの姿があった。

既に彼女はインナースーツを装着しているが、ARメットは装着せず――素顔をさらしたままである。

しかし、それをアイオワが気にする事はない。彼女の場合は別所経由で顔がばれてしまっている事もあるからだろうか?

「様々なガジェットがあるのは知っていたが、ここまでとは――」

 ガジェットの種類は若干増えているらしく、槍や斧と言った物も置かれている。

しかし、重さはARゲームと言う関係上で――ないに等しいので外見とデータだけのオチもありそうだが。

「これは、面白そうなものだ。まさか、同じようなガジェットがここでも採用されているとは――」

 彼女が手に取っていたのは、物干し竿とも呼べそうな一メートル近い長さの手持ちタイプのビームキャノンである。

これと似たような物をアイオワはFPSゲームで使っていた事があり、これならば――と手に取ったのだろう。

同じようなプレイ感覚とはいかないが、もしかすると――と言う思いはあった。

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