レッツプレイ!リズムゲーム

アーカーシャチャンネル

第1章

第1話

「これが――プロのリズムゲーマーなのか?」

 彼女のプレイは、様々なリズムゲームに触れている自分から見ても予想の斜め上と言える物だった。

自宅のちゃぶ台には、小型のノートパソコンがあり――それで動画を視聴している。検索ワードはリズムゲームで間違いはない。

「どの技術を見ても、一線級のレベルにまで研ぎ澄まされている――」

 ネット上の掲示板で噂になっていた動画があり、それを発見――まではよかったのだが、その内容が異常だったのである。

正確な演奏、タイミングも全てがパーフェクトと言えるもので――スコアの方は理論値に到達していた。

「これをアマチュアと言うには無理があり過ぎる。それこそチートと叩かれる」

 他にも様々な要素があるのだが、落ち着いてチェックしないとそれら一つ一つを分析する事は不可能に等しい。

動画のコメントには、彼女の動き等を批判するコメントはなかった。厳密には多少の批判コメントはあるのだが、チートに関係するものではない。

【これがリズムゲームとは思えない。演奏と言うイメージが持てるのか?】

【彼女は別ゲームのプレイヤーでは?】

【確かに強さは認めざるを得ない。だが、それはリズムゲームではなくFPSプレイヤーとしての強さだろう】

【そもそも、楽器演奏シミュレーションがリズムゲームの始まりでは?】

【それこそ――時代遅れの発言だ。今では楽器演奏とは関係ないようなアクションを要求するゲームだってある】

 一見するとFPSというシューティングゲームの一種に見えるが、リズムゲームの中にはガンシューティングにも似たような機種もあった。

楽器を演奏する体験が出来る機種をリズムゲームと呼ぶ時代は、既に一〇年以上も前の話である。

「一体、どういう技術を――使っているのか?」

(しかし、どう考えても――これは――)

 黒髪のセミロングの青年が、真剣に悩んでいたのは――リズムゲームの動画に関してだった。

体格は一般人並みであり、不健康と言う訳ではないが――部屋の状態は微妙と言える気配がする。

彼の名前は蒼風(あおかぜ)ハルト、職業はゲーマー。プロゲーマーではないが、ゲームをプレイしてある程度のお金をもらっているので、事実上のプロゲーマーに近いだろう。

草加市ではプロゲーマーという職業が他の地域以上に認知されており、ゲーマーだからと言って避けられてしまう事はない。



 一連の動画は二分強――厳密にはプレイ時間が一分四〇秒、残り時間はリザルト等の時間と言える。

その動画に映し出されていた人物が女性なのは、何となく分かるのだが――その外見はリズムゲーマーとしては目を疑う物だ。

【ジャンル違う?】

【動画のタイトル間違えたか?】

【楽曲は間違いなくリズムゲームだ。MADの類ではない】

 動画内に流れているコメントには、この動画の内容が違うのでは――と疑うコメントがあった。

さすがに詐欺と訴えるコメントはないので、それは問題なさそうだが。

演奏を開始するプレイヤーの外見は、SFを連想するパワードスーツに――持っている武器は手持ちタイプのアサルトライフルだ。

長さでも五〇センチないので――動きやすさを優先した物を使用しているのだろう。

《スターダスト・フォース》

《アークロイヤル》

 動画には楽曲名とアーティスト表示がされたのだが、アーティストは見覚えのない名前だった。

調べれば誰なのかはすぐに分かるが、動画を見ている時にウィキ等は立ち上げない。

【いきなりこの展開か!?】

【何と言う動き何だ――】

【信じられない】

 様々なコメントが動画内で流れているのだが、ハルトは視聴している途中でコメント表示をオフに設定する。

それ以降はコメントが流れなくなり、ゲーム画面だけが表示された。他のユーザーが見ている動画ではコメントはそのまま流れているかもしれない。

(この曲調は――?)

 ハルトは何か覚えがありそうな曲調に、覚えがあった。

どのリズムゲームなのかは忘れたが、トランスでピアノ音を使う様な楽曲はある程度絞り込める。

さすがに他のゲームからの移植ではないのは確実の一方で、どの機種なのかは今の段階では思いだせない。

(何だ、これは――!!)

 出だしの二〇秒は、彼女の目の前に大量の的が出現する。

この的に攻撃を当てれば大丈夫――と言うのはリズムゲームを知らないプレイヤーならば誰もが通る壁だ。

リズムゲームの場合、的に当てるだけでは駄目――リズムに合わせて当てる必要性がある。

動画内の的には三つの○が表示されており、ラインの色は全て青になっていた。

(あのラインは――そう言う事か。一番の中心で合わせればハイスコアが出ると)

 ハルトは別のリズムゲームにおける判定で似たような物があったので、すぐに把握できた。

しかし、動画を見ている人によっては――そんな事は全く無視してみている人間もいるだろう。

【あの○はターゲットになっていて、一番外、中央、中心の順で判定が変化する】

【中心がジャストタイミングで、そこをピンポイントで当てていけばハイスコアが出るだろう】

【ターゲットにすら当てられなければ、失敗の判定となる】

 この辺りで実は解説コメントがあったのだが、ハルトはコメント非表示にしたのでチェックできていない。

それ以外でも解説コメントを打ち込むユーザーがいたので、そのコメントを見てある程度の内容を把握した人もいるようである。



 中盤になってくると――ハルトもどれ位の難しさなのか把握できる個所もあった。

あれだけの的が数個レベルで同時に出現すると、初見では命中させるのも――と思うかもしれない。

自分はこのゲームは未プレイなので、迂闊な考察は出来ないが――。

【これが、リズムゲーマーなのか?】

【神ではないのか?】

【リズムゲームの神と言う事か】

 動画のコメントでは、彼女を神格化しようとするコメントも目立ち始める。

それ程の実力を持っていれば、神と言うプレイヤーがいてもおかしくないが――どう考えても、この流れはおかしい。

残念ながら、ハルトはコメントを非表示にしていたのでこの一連の流れを把握する事は出来なかった。

他の視聴者は――動画の流れに不信感を持ったのだが。

「曲の流れは典型的なテンプレに沿っているが――」

 ハルトはいくつかのリズムゲームでサウンドトラックCDを購入する程にプレイした事もある。

その為か、ある程度は楽曲を聞いてどういう傾向の曲か把握できる能力ももっていた。

しかし、この能力を生かそうにも――ゲーマーでは生かせそうにない。リズムゲームの楽曲を作曲してみようか――と考えた時期もある。

最終的にはリズムゲームのコンテストに応募した事もあるのだが、結果は一次選考落ちだった。

「BPMは――二〇〇、もしくは一九〇辺りか?」

 的の出現する速度は楽曲のBPMに依存しているようで、早い曲ほど出現する速度が速いので――反応も更に早くなくてはいけない。

BPMに依存しないものであれば、速度は一定なのである程度はタイミングを掴めれば、上手くいく場合もあるだろう。

終盤の流れも一種のテンプレに聞こえたので、ハルトは特に集中せず視聴していた。

しかし、的の出現頻度が――と言う部分だけは理解している。どう考えても、ノーツ等を物量でゴリ押しする譜面――そう見えたのだ。



 その後も最後まで動画をチェックしていたが、一通り見ても初見では把握できない箇所が多い。

他の視聴者も同じ事は思うだろう。ハルトだけが把握できなかった訳ではなかった。

むしろ、リズムゲームの知識のある人物でさえ――この状況なので、全く知らない視聴者が置いてけぼりになるのは当然だと言える。

何故にこの動画が十万再生を超えていたのかも一般視聴者からすれば、疑問が出てきても不思議ではない。

この動画があるまとめサイトで取り上げられ、そこから再生数が伸びたというのが理由のようだ。

「そう言う事だったのか――やはりというか、まとめサイトが原因だったとは」

 ハルトもまとめサイトの悪評は聞いた事があるので、やっぱりか――とは考えている。

その一方でハルトは、このゲームが本当にリズムゲームなのか調べようとも思う。

(噂になっていたのはプレイヤーだけで、このゲームはノーマークだったような――)

 リズムゲームだとはメインとなるシステムで何とか理解したが、細部は明らかに別ゲームだった。

設置されている店舗も動画のキャプション文で書かれていたので――そこへ行けば分かるだろう。

おそらく、この動画はプレイヤー自身が撮影訳ではなく、他のプレイヤーのプレイを撮影しようとしたついでで撮られた可能性が高い。

その証拠として、該当プレイヤーのリザルトが終了した所で動画は終了。続きがあったような動画の途切れ方をしていたのである。

(行ってみるか――)

 設置されている場所として記載されていたのは、埼玉県草加市にあるARゲームを売りとしたARゲームエリア『オケアノス』だった。

オケアノス自体は自宅からは遠くないが、自転車で行くには二十分はかかるかもしれない。

まずはインターネット上でオケアノスの情報等を調べ、それから行った方が迷子にならないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る