無料
ある町役場で、役人は頭を抱えていた。
「祭りの運営にあたって人が欲しいが、人件費は出せない。こんな条件では人が集まらない。時給千円で働く人や、まかない二食で働く人はいるが、無料で働いてくれる労働者なんていない。どうしたものか」
「いるぞ」
聞き覚えのない声のする方を向くと、悪魔が立っていた。見るのは初めてだが、何故か一目で悪魔と判る。
「君の魂の一部をくれれば、私が民衆に暗示を掛けてやろう。祭りの為に無料で働く、と」
手段を選ぶ余裕は無い。対価として役人は悪魔に魂の一部を譲った。
悪魔の暗示のお陰で人手は沢山集まり、祭りは大成功。役人もほっと一息ついて帰り支度などしていたのだが、さっきまで働いていた民衆が町役場に押し寄せる。
「役人さん、何を無料にしてくれるんだ、税金か、保険料か?」
「自分は医療費がいい」
「俺は奨学金の返済を」
「私は保育園の費用」
たしかに、労働者は労働の対価として「時給千円」や「まかない二食」を受け取る。そして「無料で働く」のなら、労働者の受け取る対価は「無料」だというのか。
結局高くついてしまった。あの悪魔め、とんでもない暗示をかけやがった。しかし対価を払ったのでもう遅い。
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