外から見るか、中から見るか

2人の男が向かい合って座っている。

若い男がぞんざいな口調で話す。

「ハリーポッターの友達の親父が車持ってて、それに魔法を掛けてるんだが、知ってるか?」

「空を飛べるんだろう?」と中年の男が書類を見ながら雑に返答する。

「それもそうなんだが、実際より中を広くしてあるんだ」

「ふむ」

「しかしな、これは魔法に限った事じゃない。軽自動車を外から見たって只の2mの立方体に過ぎないが、中に乗りゃ4、5人座れちまう広々空間だ。教習所に通いたての奴が、対向車にぶつかると錯覚するのも同じ理由さ。実際には余裕があるのにな。家だって、外側は一周回るのに30秒もかからん小さな箱だ、しかし中から見れば、何人もの人間が飯食って布団敷いて寝てるし、大量の物が収納されてる。六畳間とか大家族ってんなら別だが、一軒家住んでて狭いって思うことはあんま無ぇだろ?道歩いてて脇を通り過ぎるのは一瞬なのにな。要するに『外から』と『中から』じゃ心理的な体積は変わるって事さ」

「それが犯罪犯して『外から見たら』狭い拘置所に入って『中から見た』感想か?貴重な接見の時間を削りたくはない、無駄話はこのくらいだ」

中年の弁護士は、若い犯罪者にそう諭した。

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