甘やかされていたけれど

 とある兄弟がいた。

 身体も大きく成績もよかった兄。

 病弱で勉強があまり得意ではないかった弟。


 両親は平等に愛しようとしたものの、どうしても手のかかる弟の方にばかり世話を焼いてしまう。

 兄が甘えたいと思った時でも弟のことを考えると我慢するしかなかった。


 弟はそんな兄にいじわるをしようとは考えていない。

 愚痴を零すこともあったが、それでも弟を大切に思っていることが伝わっていたからだ。


 どんなときも兄は笑顔を絶やさない。

 一人涙することはあっても、家族に心配をかけまいとしていたのだ。

 そんな兄の姿を見て、両親は安心してしまう。


 この子は強い子なんだと──


 しかし、歪は放っておくと徐々に回復ができなくなるところにまで達してしまう。

 本当は甘えたかった兄は、それが叶わないと知ると草々に家を出て独り立ちしてしまった。

 両親は特に心配することもなく送り出す。

 あの子なら大丈夫だと。


 弟はぬるま湯に浸かって生活をしていた。

 働きながら学校に行く兄は苦学生となっていた。

 両親は弟にお金がかかると兄に仕送りをしようとしない。


 次第に兄は家族という絆が薄れていくのを感じていた。


 それでも仕方がない、俺は独りで生きていく──


 そう心に誓った。

 実家に顔を出すことも少なくなっていき、盆暮れ正月がせいぜいだった。

 帰ってきても、すぐにまた出て行ってしまう。


 そんな兄を見て、弟は寂しい気持ちになっていった。

 自分がどれほど恵まれているのかに気づいているのかいないのか、兄はそれを問いただしたりはしない。ただ、恨むこともせずひたむきに生きていた。


 両親は滅多に家に帰ってこない兄よりも弟の方を可愛がった。

 お金も惜しみなく使った。

 そして、遺言で弟にすべての財産を遺そうと準備をする。


 甘やかされた弟は、兄が滅多に戻らないことを気にしだした。そして両親に黙って密かに遺言を準備する。


 全財産を強くて優しい兄へ──


 その事実を兄はまだ知らない。

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