脱獄

 脱獄を企てるには慎重さが大切である。

 急いては事を仕損じるなんて言葉もあるが、そもそも犯罪を犯したから投獄されているのだ。簡単に脱出できてしまっては意味がない。


 外部との連携も当然大切なのだが、そう簡単に接触することはできない。看守の目を盗んで情報のやりとりひとつとっても緊張の連続だ。

 ましてそのようなことを企んでいることがバレないよう、平静を装う必要がある。


 夜。

 囚人エヌは看守の見回りが終わったのを見計らって両サイドの仲間と暗号を使ってやりとりを開始するのも日課となっていた。

 彼は死刑囚である。仮出所する可能性もなく、ただ死を待つのみだ。

 利用できるものはすべて利用して、この檻から羽ばたかなければならない。


 幸いにして隣の奴らは協力的だ。

 自分も出られるという甘い幻想を抱かせている自分の才覚に惚れ惚れする。

 塀の外側に居る仲間との連絡も順調。

 あとはここぞというタイミングを計るだけだった。


 エムは仲間のうちで一番協力的な囚人だ。

 積極的に動いて、エヌと自らが自由な世界に戻れるよう準備した。



 いざ決行の時。

 看守の気を引くためにエヌが行動を起こしたときが合図だった。

 すぐに外の連中も気づく。

 エムもそれに合わせて行動する。


 監獄内は騒然となった。

 囚人と看守が入り乱れる。

 どさくさに紛れる作戦だ。


 すべては手筈通り。

 最期にリーダーたるエヌが出られるところを確認してエムも広い世界へと飛び立つ筈だった。


 しかし、エヌがなかなか見つけられない。

 自分だけ逃げてしまえばいいのだが、報復を恐れたエムは必死にエヌを捜した。


 看守が近づいてくる。

 迷ってはダメだとダッシュするも呆気なく捕まった。


「お捜しの人物は騒ぎになった直後に特別な場所に移動させたよ」

「え?」

「君たちの企みには気づいていたさ。だから真っ先にエヌを捕らえて隔離した」


 計画は失敗に終わったのだ。

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