ポンコツの意地
グラウンドから少し離れた生徒控室にて、トーナメント表が発表される。シルファたちも確認しに向かうと、フィーアがぽつりとつぶやく。
「アイナとは決勝戦でか……じゃあ一回も負けられない、って訳だね」
フィーアの言葉に二人は頷く。とはいえまずは初戦のことを考えるべき。三人はそれぞれの役割、そして相手チームの特徴、それに対する作戦をシルファが提案する。
「相手は近距離型魔術師二人に、支援型魔術師一人のオーソドックスなチーム。支援型の魔術師は緑の魔術や青の魔術で私たちの妨害をするタイプね。レッスン通りの動きが出来れば、二人でも余裕で戦えるはずよ。いい?」
「は、はい!」
「大丈夫よ。私たちならいける。問題ないはず……」
公開試合が始まる前の作戦会議中ですら、二人は緊張している様子であった。こればかりは仕方ないと思うものの、シルファは二人の肩に手を置いて、優しく語り掛ける。
「緊張は誰だってするもの。大舞台を前に緊張しない人は絶対に居ない。ならば同ればいいと思う? 答えは簡単。緊張することは当たり前だと思い込むことよ」
「緊張することは、当たり前?」
「そう。こんな人が大勢いるところだもの。相手側だって、ここに居る生徒全員が緊張しているのは当然よ。でもレッスンの時にも教えた通り、心に乱れがあると魔素は薄くなる。ならば必然、緊張することを受け入れ、緊張しすぎないように頭を切り替えるの」
人間は誰だって緊張する。その緊張を完全になくすということは、ほぼ不可能と言っても過言ではない。
だからこそ、人は何度も緊張することを学び、緊張を和らげるように考えをシフトする。そうすることで最大限の力を発揮できるようになる。シルファは緊張感というのをそのように考えていた。
「じゃあ、シルファも緊張しているの?」
「緊張しているよ? でも私は緊張することが当たり前だと理解している。そうすれば普段とあまり変わらない状態で戦うことが出来るさ」
シルファに諭され、二人は何度か深呼吸を繰り返す。一度目を閉じて瞑想を実施し、ゆっくりと瞼を開くと先ほどの緊張感が薄れ、真剣味帯びた目と変わっていた。
その様子に満足して頷くと同時、三人が呼ばれる声が聞こえた。初戦の始まりが来たのだ。
三人は互いに頷き合い、三人同時に足を踏み出す。会場となるグラウンドに向け、一歩ずつ向かっていく。
グラウンド周辺は先ほどよりも観客が増えており、対してグラウンドは審判であるローゼン教師、そして対戦する六人の生徒だけと少人数である。
さらにグラウンドはいつもの平坦な砂地から大きく変化していた。全体的にうっそうとした森林が何処からともなく現れていたのである。
おそらくは教師が緑の魔術で固定化させたのだろう。森林は生徒達の背よりも高く、少し離れた位置からでは視界から消えてしまうほど。
そして一番特徴的なのは、グラウンドの両端に的が設置されていること。
「それでは公開試合一回戦、第五戦目を行います。勝敗はチームが所有している的が破壊される、またはチーム全体が降参を宣言した場合となります。よろしければ各チームの領域に配置してください」
ローゼン教師の言葉に、六人の生徒が一斉に散らばる。シルファはフィーア、ルビカと一瞬だけ目配せを行ったのち、的の真下に配置する位置で待機する。
「では、試合開始!」
開始の宣言と同時に、シルファは大きく後方へと跳躍する。普通の生徒ならば、この距離からグラウンド全体を把握することは不可能だろう。しかし例外であるシルファは的に一番近い位置の木に降り立ち、上から全体を見下ろすことが出来る。
シルファはこの場から動かない。何故ならばシルファはチームの中で指揮をする役割を持つ。全体を俯瞰し、自チームだけでなく相手チームの動きすらもコントロールするのだ。
『フィーア、直線方向に二人いる。想定通り近距離型の魔術師だ。ルビカ、十時の方向に支援型の魔術師がいる。特に動きはないから近づいていてくれ』
シルファの声を魔素に乗せて届ける。これも普通の生徒にはできない芸当だが、教師すら気付かずにシルファから情報を伝達することが出来る。声が届いた二人は頷きだけ返すと、即座に指定した方向へと走り向かう。
先にフィーアが二人の生徒と接敵する。二人の生徒はニヤリと笑みを浮かべたまま別々の魔術を詠唱し始めた。
「悪いけど一人ずつ倒させてもらうわよ! 『
「出し惜しみはなしだわ。『青説はここにありて、濁流にて、薙ぎ払って』」
詠唱を終えると、片方は地面から複数の蔦が、もう片方は直線的な水流がフィーアに襲い掛かる。
捕縛の魔術と迎撃の魔術。さらに緑と青という互いに干渉しない、相性の良い魔術という部分ではとてもよいコンビネーションだろう。
――しかしそれは、対等なレベル同士での戦い方であれば、の話だが。
「……遅いわよ」
眼前までに近づいてくる双方の魔術を見て、フィーアは呟く。詠唱をする暇なんて全くもってない。
だが、その魔術はフィーアの目の前で消え去った。蔦も水流も、一瞬にして目の前から消滅する。
「「な――っ!?」」
動揺は魔術を打ち消された二人だけではない。観戦している客席も、控室に居る生徒も、ましてや教師たちからも驚愕の声が上がる。
フィーアは魔術を行使していない。だというにもかかわらず迫ってくる魔術を相殺させたのだ。そのトリックに気付けた人はごく少数だろう。
「どういうこと!? どうして魔術が打ち消されたの!?」
「分からないわ。でも動揺してはダメ。ペースを乱されては相手の思うつぼ。一度撤退を――」
「目の前に敵が居るというのに、悠長ね」
二人は動揺しつつも、すぐさま冷静さを取り戻して作戦会議をしている最中。フィーアは手を緩めずにさらに次の手を打つ。
声だけを残し、姿をくらます。完全に見失い、何処に行ったのかと二人は辺りを見回す。すると片方の生徒の背後へと回っていた。
声を上げるよりも先に腕を取られ、勢いよく投げ飛ばされる。樹木へと叩きつけられ、生徒は意識を失う。その様子をまざまざと見ていたもう一人は悟る。
――格が違う、と。
「言っておくけど私、上手く手加減できないから。痛い思いをしたくなかったら降参した方がいいわよ?」
目を合わせた途端、背筋に悪寒が走る。震える手をあげ、「降参するわ……」と宣言する。
それと同時にフィーアは的の方へと視線を向ける。が、その先からルビカの姿が現れる。
シルファの言葉通りなら、ルビカも接敵していたはず。無事な様子を見るに、ルビカの方も問題なく倒せたのだろう。
互いに声を掛けることなく、フィーアはブイサインを見せる。同じようにルビカもはにかみながらブイサインする。
「そこまで! 勝負あり!」
ローゼン教師の宣言により、勝敗が決する。初戦は問題なく勝利することが出来たのだ。
まだ一勝。だけどその嬉しさは今まで感じたことのない高揚感。
やっとこの場に立てたのだと、フィーアとルビカは互いに抱き合って喜びを表現する。
そしてその様子を遠くから眺め、シルファはクスリと笑みを零す。
「とりあえず、第一の任務完了、ってところだな」
課せられた任務の達成、そして彼女たちの成長に祝福を。
笑みを浮かべたまま、樹木から飛び降りる。喜びに満ちている、あの二人の下へと向かうために。
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