本来の任務事項
「さて、と。今度は図書館で本を探さないとな」
放課後、シルファは一人図書館へと向かっている最中であった。
シルファに課せられた本来の任務。禁呪書の探索を行うために。
あらかじめサポートを行ってくれているアカネから敷地内の地図を受け取っており、それを基にまずは図書館を調べることにしたのだ。
木を隠すには森の中、と言われるが大量の本棚の中に禁呪書でもあったらたまったものではない。しかし可能性がないとは言い切れず、また他にありそうな目途もないため、図書館から探す。
ちなみにフィーアはグラウンドの端っこで詠唱の練習をしており、ルビカは教師の手伝いを頼まれていた。フィーアについては独学でも問題ないと判断し、シルファはこうして自由に図書館に行けるようになった。
「つーかスケジュール過密すぎるだろ……いつ禁呪書が見つかるか分からないし、それに公開試合までには二人を使えるようにしないといけないし。あぁもう! 面倒くせぇ!」
道中、ため息を吐きながら一人愚痴る。他に誰もいないことを確認しているため見られることはないが、シルファとて本来はただの一人の男なのだ。こうも女性ばかりしかいないと辟易して息が詰まるし文句も言いたくなる。
とはいえ学園自体の生活はそれなりに楽しい。陰湿な嫌がらせも特になく、授業を受け、新しい知識を得ることは面白いと感じていた。勿論、フィーアやルビカといった友人が居ることも大きい。
しかし、それを経験できるのは一ヶ月のみ。その期間が終わればシルファは元通り男の姿に戻り、この学園から去るだろう。
「……まぁ、このまま学園に居続けるのもそれはそれでキツイけど」
フッと苦笑いし、前を見据える。思っていたよりも考え事をし過ぎていたのか、既に目の前には巨大な建造物の入り口に到着していた。
中に入ると、まず目に入ったのは中央の吹き抜けと螺旋状の階段。吹き抜けは天窓によって太陽の日差しが入り、幻想的な雰囲気を醸し出している。一階から五階までを結ぶ階段は長く、各階層ごとに左右へと橋が渡っている。
そして左右両端にはいくつかブースが仕切られており、書物の種類によって分類されている。学生が好みそうな文学書や参考書、はたして読む人が居るのか怪しい類の古文書まで分かれている。
シルファは案内図を見た後、五階まで上がる。元々図書館内に人はそれほどいないが、五階の図書はほとんど読まれることのないような本ばかりなせいで、人は見当たらないくらい静寂に包まれていた。
むしろ好都合と言わんばかりにシルファは古文書のブースへ入り、書棚をじっくりと見回す。本当かウソか信じることすらバカらしい書物もあれば、興味を惹かれる書物も見つかる。しかし、目当ての禁呪書らしきものについて書かれているものは見つからなかった。
「古文書に混じっている、なんてことはないか……でも魔術詠唱記録書なんかと混ざっていたら生徒達も読めちゃうだろうし……」
ブツブツと呟きながら古文書の背表紙を眺める。小一時間、古文書のブースにて探していたがどれも当ては外れているようであった。
ダメで元々、シルファは階段を下り、二階の魔術関連のブースへと入る。先ほどとは異なり、勉学に励んでいる生徒たちがちらほらと見受けられる。
生徒たちの合間を縫って魔術詠唱記録書の書棚を調べる。学年ごと、かつ使用できる魔術の色ごとに分かれており、いくつもの書物が配置されている。
ふと、その棚に置かれている内の一冊に目が留まる。他の書物と比べると背表紙に何も書かれていなく、真っ黒に塗りつぶされている。
書棚から本を抜き出し、中身をパラパラと捲る。中身は一見他と変わりようのない魔術に関する詠唱記録であるが、何か引っかかる点があった。
「これ、そもそもなんの魔術に関する詠唱記録なんだ?」
魔術に関する内容は書かれている。しかし、その発動する魔術そのものが何かまでは書かれていないのだ。
シルファはこの本こそが禁呪書かもしれないと考え、借りることにした。あとでアカネかカリアにでも相談してもよいだろうし。
一階にいる受付に貸し出しの依頼をする。シルファが差し出した本を見て「あれ? この本ってどこのだっけ?」と図書館の司書ですら困惑していたようであった。
数刻、司書が確認するとのことで一度その場を離れてしまったが、結局問題なく借りることが出来た。
学校から離れ、寮にある自室へと戻ったシルファは借りた本をじっくりと読み解く。傾いていた陽は次第に沈んでいき、全て読み終えた時には真っ暗になっていた。
パタン、と本を閉じ、嘆息する。収穫は無し。これが禁呪書という決定打は見つからなかった。
「仕方ない。こいつは明日にでもアカネとカリアに見てもらうか……」
書物を自身の鞄に入れると同時に、部屋の外から「シルファー! 夕ご飯だよー!」という声が聞こえる。時刻を見やると既に夕食の時間を指し示していることに気が付き、シルファは立ち上がる。
まぁ、依頼だとしても楽しまないと損だよな。そう自分に言い聞かせながら部屋の外にいる主へと返事をする。
「分かったよ。今行くー!」
その顔は活き活きとしており、本当にただの一学生のような表情が垣間見られた。
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