2.ダンジョン攻略開始
あまりにも現実味のない景色に圧倒されて数分後。我に返ってはっとする。
「いやいや、普通にやばいでしょ。お、落ち着け。こんな時こそ落ち着くんだ私……」
状況に頭がついて行かず、その場にしゃがみこんでぶつぶつと呟いてしまう。
悪い夢でも見ているみたいだ。
……もしかして本当にリアルな夢でも見ているんじゃないの?
そう思い、ベタだけど思い切り頬をつねってみる。
「…………痛い」
間違いなく痛い。信じられないがこれは現実らしい。もしかしてこれが神隠しってやつなんだろうか。そんな非現実的な現象が本当にあるんだな。
今私がいる場所は、このダンジョンのスタート地点らしい。
見たことがないぐらい大きな木。その枝から生えている葉の上にいるようで、後ろは壁で道がない。つまり進むしかないのだ。
立ち上がり、大きな葉の上から、おそるおそる下を覗き込んでみる。
ビル十階分ぐらいの高さ、だと思う。
落ちたら十中八九死ぬ。運よく死ななくても無事ではすまないだろう。思わず後ずさってしまう。
次に正面を見て目を凝らす。はるか向こうに扉らしきものが見える。それ以外に出口はない。どうやらあの扉をくぐらなければならないらしい。
そのためには。
「……もしかして、この大きな葉を、飛び越えて行かなきゃならないわけじゃないよね?」
呟きながら頭を抱えてしまう。私が今いる大きな葉は、等間隔に生えていて出口の扉へとつながっている。多分、一つずつ飛び移っていけば出口への扉にたどり着く仕組みだろう。だけど出口に近づくにつれてだんだん葉のサイズが小さくなり、途中からは風が吹いていたり、出口に近い葉の周辺には凶暴そうなでかい鳥が飛んでいる。
……まるでゲームの世界みたいだ。
運動神経のいい主人公をコントローラーで操るだけなら、簡単なんだろうけど、あいにく私は普通の人間。しかも運動神経がいいわけじゃない。正直無理ゲーな気もする。けれど、進まなければこのまま衰弱して死ぬだけだ。
大きく深呼吸をして、頬を両手で叩く。覚悟を決めた。進むなら勢いのあるうちに、だ。
「とりゃっ!」
助走をつけて、思いっきり次の葉に向かって飛んだ。幸いそんなに距離はない。着地できる。そう思った。
―――だけど。
「うっ、わあああああッ!」
着地した葉は、まるでトランポリンのように跳ねて跳躍した。身体が宙を舞う。
あ、やばい死んだわ。
そう確信したけど、宙を舞った身体は、運よく次の葉に着地、また跳ねて、次の葉に着地を繰り返した。
目を回しながらも、十数度目の跳躍で、必死に着地した葉を掴んだ。葉が大きく揺れる。振り落とされないように必死でしがみついた。やがてようやく葉が止まる。
「は―――……」
落ち着くために息を整える。やばい。比喩じゃなく死ぬかと思った。
進んだ距離は、スタート地点から出口の扉までの半分ぐらい。
もう後戻りは絶対にできない。おそるおそる下を見る。下は土色に濁った水溜めに代わっていて、ワニに似た大きくて凶暴そうな動物が私をじっと見上げている。落ちたらあいつらに喰われるんだろう。
「え、この後どうすればいいの?」
次の葉の距離はスタート地点よりうんと長くなっていた。こんなの絶対に飛び越えられない。もしかして、これ詰んだんじゃない?
しかし、それに絶望する間もなく、次のトラブルが私を襲った。
「……え、ちょっと待ってよ。待って待って待って」
スタート地点で見かけた大きな怪獣鳥。
それが、それがさ。今、私に向かってきているような気がするんだけど、気のせいだろうか。いや気のせいであってくれないと、死ぬ。
「気のせいじゃないいいいいいッ!」
大きなくちばしを開けて、怪獣鳥が私目指して突っ込んできた。
わけもわからず、怪獣鳥を何とか避け、ジャンプしたら何とその鳥の上に乗ってしまった。
「うわっ、うわわわ、わわ」
背中の羽毛に必死にしがみつく。手を離したら、死ぬ。下の猛獣に喰われて死ぬ。
怪獣鳥は私を振り下ろそうとしているのか、縦横無人に飛び回りはじめた。怪獣鳥の羽毛を必死で握る。命がかかっているのだ。振り下ろされてたまるもんか。
怪獣鳥の飛び方がどんどん乱暴になっていく。無茶苦茶な飛び方に酔ってきた。きもちわるい。吐きそう。
手の力が徐々に抜けていく。ついに振り落とされてしまい、落下した。
「うわああああああああああああっ」
ぽすん、と。
高いところから落ちたはずなのに、着地の衝撃を完全に打ち消すような柔らかい場所に着地した。
えっ、ここどこ? と確認し、私は驚いて目を見開いた。
何という偶然。そこはゴール地点の扉だったのだ。
「やった、よくわかんないけど着いた……」
安堵の涙を潤ませていると、向こうから再び怪獣鳥がすさまじいスピードでこっちに飛んできた。
「ぎゃあああああああああッ」
勢いよく扉を開けて中に入り、すぐに閉めた。後ろで、ドスっという鈍い音が聞こえる。くちばしが扉に刺さった音だろう。間一髪だった。
「はぁはぁ……はぁはぁ、はぁー」
今度こそ安堵して、息を撫で下ろす。
そして、周囲を確認してぎょっとした。
『おめでとう! 君は一つ目の能力を手に入れた!けどこのダンジョンはまだこれからだ!』
分かりやすく日本語で書かれた看板が立っていた。しかもかわいらしいポップ体で。
おちょくられている。
直感でそう感じとった私は身体をわなわなと震わせ、叫んだ。
「まだあるのかよ!」
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