【ユーザーのみなさんへ】小説ウイルスが蔓延しています

ちびまるフォイ

そして、冒頭へ

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【 ユーザーのみなさんへ注意 】


ただいま、オチがバグるウイルスがサイトに蔓延しています。

投稿作業はウイルス対策が終わってから行うようお願いします。




「そんな馬鹿な。エイプリルフールか何かか?」


こちとら、定期更新しているためサボるわけにいかない。

今日のノルマ分の小説を書いて投稿した。



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ここは近所でも有名な「落とし物公園」。


毎日、必ずなにか1つ落とし物が出てくる。

その1つが回収されない限り、次の落し物は出てこない。


僕のように毎日夜遅くまで公園に通う人間を通称「ハイエナ」と呼ばれている。


「おっ、今日の落し物は……なんだおもちゃか」


公園には落とし物のネコババ目当てでたくさんの人が訪れている。

変わった人もちらほら。


「はぁ……もうムリだ……」


と頭を抱えてベンチで悩み続けているサラリーマン。


「そんなことやめなさい!!」


子供をしかりつけるヒステリックな母親。

子供は僕とそう歳かわらなそう。


それにさっきから「くそっ!」と言いながら不機嫌にしている人。

ハイエナである僕もそうだけどこの公園にはなんらかの変な吸引力があるのかも。


次の日、僕は公園に行く。今日の落とし物は日記だった。

次の日も僕は公園に行く。今日の落とし物は財布だった。


「えへへ、ラッキー。今日はいいものが食べれるぞ」


次の日、公園に行っても落し物はなかった。

次の日も、公園には落とし物がなかった。


「あれ、どうしちゃったんだろう。誰か取っていったのかな」


また次の日に公園にいった。

そして――




小説の冒頭には画像ファイル名が真っ先に表示された。


犯人は佐藤.jpg

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「ってなんじゃこりゃあああ!!!」


そして――

のあとのオチがバグって意味不明なことになっていた。

これは困るし納得いかない。


しかも、厄介なのは編集段階では普通なのに、

いざ投稿してみるとバグってわけわからないのが投稿される部分。


「しょうがない書き直すか」


オチがバグるというのなら、オチ以外を直せばいい。

ちゃんとそのオチに着地できるよう、影響のない前部分を治すことにした。


「よし、できた! 更新!!」



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私の小学校ではグラウンドダイビングが人気。


「いっくよーー! えいっ!!」


地中メガネをつけて地面に向けて飛び込むと、

普段見られない地層や地中の虫たちを見られて楽しかった。


でもコンクリートには潜れないので土が出ている公園にいく必要がある。


「あの子、いつも来てるね」

「いつも何が探してるよね」


友達といつも行く公園には、いつも同じ私たちと同年代の子がいる。

学校では見ないけど、公園に行くといつも見かける。


「ま、いいか。亜衣ちゃん、ダイビングしよ」

「うん」


地中メガネをつけて土に潜ろうとしたそのとき。

友達の亜衣ちゃんの視線が私の後ろに注がれた。嫌な予感。


「かえで!! またダイビングしてるのね!! そんなことやめなさい!!」


お母さんの目から逃れられるように見つけたこの公園もついに特定されてしまった。


「地中に潜ると服が汚れるのよ!

 それにグラウンドダイビングは男の子の遊びでしょ!!

 かえでみたいな女の子がやるものじゃありません!!」


「でも楽しいんだもん。安全だしいいでしょ?」


「ダメよ!! どうしてこんなところ似ちゃったのかしら!

 これ以上ママに心配かけないでちょうだい!!」


「でも――」


「でもじゃない!! それにあなたはっ……!!」


友達の前で説教される恥ずかしさに耐えきれず私は地中に潜った。

そして――




「君、いつも公園にいるよね? お父さんとお母さんは?」


俺の警察としての初仕事は、

いつも公園にいる子供を保護だった。


「ああ、僕が落とし物だったんだね」


ちょっと変わった子供は何か納得したように答えた。

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「前だけ直したのにまたバグってるし!!」


ダメでした。

前の話の展開を直しても結局オチはバグった。


こんなとんちんかんなものを投稿するわけにはいかない。

眠っていた作家としてのプライドがメラメラと燃えた。


「今度はぜったいにバグらせるものか!!」


バグらせないようコンピュータのウイルス対策ソフトを導入。

自分のファイルがバグらないようバリアを張っておく。それも何重にも。

そのうえで投稿すると、今度は……



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部長に呼び出されてみれば、とんでもないことを言い渡された。


「え!? きょ、強制転職ですか!?」


「安心しろ。転職といっても期間限定の体験会みたいなものだ。

 期間がすぎればまたこの会社に戻ってこれる」


「し、しかし……俺にはそんな経験も資格もないんですよ?

 こんなのできるわけないですって」


「できるできないを語るのはやってからにしろ」


部長に逆らえるはずもなく、強制転職が決まった。


同じ会社に長く勤めるとどうしても固定概念が固まりがちになる。


ということで、社員を期間限定で別の職場に強制転職させ

そこで得た別ジャンルの経験を会社に戻ってから生かす。


国で定められた「強制転職システム」というらしい。


「はぁ……もうムリだ……」


落ち込むしかない。俺の仕事はただの固定電話の営業。

人に厳しくすることもできずに成績低迷。


そんな俺がこの強制転職先の仕事を全うできる自信がない。


でも逆らえば国そのものを敵に回すことになる。

翌日、運命の日はやってきた。


俺は支給された制服に身を包んで、初仕事へと向かった。

そして――




「お前も母さんから逃げてきたのかい?」


地中には人ひとりが収まる程度の小さな小部屋の洞窟がいくつもあった。


「ここはいいぞ。辛い事や嫌なことがあったらいつもここに来ているんだ。

 地中は俺の静かな避難所だよ」




「お、お父さん……」


蒸発したはずの父親と私は公園の地中で再会した。

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「ちくしょおおお!!」


悔しさのあまりハンカチを噛みちぎった。

こうなったら最終手段しかない。


「画像で投稿してやる……!!」


サイトでは小説のトップに挿絵に使われる画像投稿機能がある。

これで小説全文を投稿してしまえばいいという話。

画像なら改変できないからバグって書き換わることもないだろう。


「これで完璧だ!! オチがバグることはない!!」


完璧な推理小説を書いて投稿する。

推理小説のキモであるオチが書き換わることはない。


そして――



どうして落とし物がないのかわかった。


「ああ、僕が落とし物だったんだね」

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おい、くそ運営!! どうなってる!!


オチを書いたら掲載順と逆さまになるバグ、まだ治ってねぇのか!!

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