番外編

第5話おまけ①

 

どうして?


どうして、こんな事に……。


何度考えても分からない。


いつからこの世界はこんなになってしまったのか。

こんな狂った世界を私は望んだわけじゃない────
















御詫びに君の望む世界に転生させてあげようと神様は言った。


『ごめんごめん、ちょっと手違いでさー。君、本当は後30年位は生きれる筈だったんだよねー。本当、うっかりうっかり』


「え…………」


いつも通り自分の家のベッドで眠りについた筈だ。

そして、私の前に現れた酷く整った容姿の少年。

整いすぎて人間味が全くない。

これは夢だろうか。

夢だとしたら、中々悪趣味だ。

うっかりで死んだとあっては、死にきれない。


『流石に可哀想だからさー。御詫びに君の望む世界に転生させてあげよう。君はどんな世界がお望み? 剣と魔法の世界で俺Tueee? それともSF世界でロボット対戦がお望みかな? 因みに君の前の子は、剣と魔法の世界で俺Tueeeだったよ!』


ずずいっと、私に顔を寄せて迫る少年。

ぼんやりとした思考で、うっかりはきっとこれまで何度もあったのだろうなと考えた。

こんな神が居てたまるか。

これはただの夢だ。

だから──


「なら、私は──」


自分の憧れを口にしたっていいだろう。


『ふーん、君は乙女ゲームの世界で逆ハーしたいんだね。女の子でそれ言う子結構いるんだよねー。……いいよ、君のお気に入りのゲームによく似た世界がちょうどあるし。君をその世界に転生させてあげる!』


少年がそう言うと、辺りが白く輝き出した。


『ついでに、うん。ゲーム期間限定で異性からほんの少し好かれやすくなる加護と、前の子にも上げたから君にも“セーブ”と“ロード“の能力をあげるね! 君が”ロード“と言えば、”セーブ“した地点に何度でも巻き戻れるよ! た・だ・し、”セーブ“は一回しか使えないからどこにセーブポイントを設置するかは十分に気を付けてね!』


変な夢だと思ったが中々気前がいい。

この能力があれば、本当にゲームのように遊ぶ事が出来る。

セーブが一回だけなのは少し面倒だが、セーブ箇所を考えればかなり有益だろう。

夢の中の筈なのに、気分が高揚してくる。


この夢が現実だったらいいのに……。


私はこの時、心からそう思った。


現実世界に未練はない。

毎日、毎日、働いて、恋人も友達も居ない。

つまらない人生だ。

このゲームのヒロインになれたら、きっとどんなにいいだろう。

きっと、私は幸せになれる。


私はそっと瞼を閉じた。 






『あ、ついでに言っとくと、僕は基本的に平等だからね。君だけを贔屓する事ないよ! ──だから、その力はせいぜい考えて使ってね?』



次に目を開けた瞬間、私はこの少年の言った通り乙女ゲームの世界へと転生していた。

憧れていた乙女ゲームのヒロインとして、あの夢の通りに──









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆








「──お前が好きだ」


全ては順調だった。

幼少期のやり直しはひどく苦痛であったし、テレビや携帯のない生活は退屈なものであったが、目的であるゲーム攻略はこれ以上なく上手くいっていた。


「私も……私も貴方が好きです!」


セーブポイントはゲーム開始地点である、学園の入学式の少し前に設置した。

その方が攻略を進める上で都合がいい。

攻略に失敗しても初めからやり直せるし、別のキャラを攻略したい時もルート選択出来る。


「結婚しよう、俺の妃になってくれ」


「はい! 勿論です!」


私は頷いて、王太子に抱き付いた。

王太子は私の一番のお気に入りのキャラクターだから、攻略が上手くいって嬉しい。


王太子との結婚って、凄い盛大にやるんだろうなぁ。

きっと、何回もお色直しもするのだろうし。

ゲームではそこまでやってなかったから、今から楽しみ!


王太子の腕の中で、私はゲームでは見ることの出来なかったハッピーエンドのその先へと期待を膨らませていた。







「………どうして、こんな簡単な事が出来ないのですか? 基礎中の基礎ですよ、貴族の常識です」


私を責める声。

その目は嘲りと失望しか、写してなかった。


「だって、私、最近まで普通の暮らしをしていたんだもの。そんなの知らないし、すぐに出来るわけない……」


その位知っているのに、この人は私に厳しくあたる。

きっと、私のような元庶民が嫌いなのだろう。

あの人のように。

私がそう言うと、また溜め息をついた。


「……あの方はそんな言い訳はしませんでした。泣き言一つ言わずに、影で努力していました。貴方は、ほんの少しの努力一つせず言い訳ばかりでやる気もない……私では、貴方をお教えする事は出来ないようです」


他の者に代わらせましょうと、言い残すとそのまま部屋を去っていった。


「何よ、アレ。感じ悪い。私とあの人を比べて……」


あの人はこのゲームにおける悪役令嬢。

その役通り、悪なのだ。

それなのに、そんな悪役の味方ばかりして。

この事は王太子にも、ちゃんと報告しよう。




こうして、私は王妃教育を受け続けた。

けれど、いつまで経っても王妃教育は終わらず、そのまま3年もの月日が流れた。

私の憧れたロイヤルウェディングは、未だに挙げられていない。

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